明治時代の怪盗「ロータス」が旧友にしかける誘いー三木笙子「怪盗の伴走者」

司法大臣の養子で、「帝都マガジン」の雑誌記者・里見高広をホームズ役、有名な日本画家を父に持ち、端正な顔立ちと天才的な才能をもつ天才西洋絵画家・有村礼をワトソン役にして、明治時代後期に帝都・東京でおきる奇妙な事件の数々を解き明かしていく「帝都探偵絵図シリーズ」の第4弾が本書『三木笙子「怪盗の伴走者 帝都探偵絵図4」(創元推理文庫)』です。

今巻の主役は、里見・有村のコンビではなくて、彼らのライバル役の見事な盗難の手口で、大衆に人気の「怪盗ロータス」。この怪盗の少年期や、彼の逮捕に執念を燃やす東京地方裁判所の検事・安西省吾とロータスとの因縁が明らかになります。

構成と注目ポイント

構成は

第一話 伴走者
第二話 反魂蝶
第三話 怪盗の伴走者

まず第一話の「伴走者」は、米問屋の小僧をしている「蓮」と、病身の母親から若死した父親の後を継いで検事になることを期待されている築地の尋常中学校の生徒である「安西省吾」が出会った少年時代の頃の話です。本来ならば知り合いになることもないほど違った境遇の二人ンなのですが、偶然、学校の帰り道で、蓮からメモを受け取ったことが縁で仲良くなります。双方が、相手の全く違う性格と住む世界に興味をもちあったという感じですが、ある「人助け」を二人が頼まれたことからさらに深化していきます。

その「人助け」というのは、二人が仲良くなったメモの持ち主の氷水屋の元治という男からもちこまれたもの。彼は、蓮の勤めている米問屋の「豊島屋」の以前の経営者の子孫で、彼の父親が経営主だったのですが急死したために、店を番頭格であった、今の豊島屋の主人に乗っ取られたという主張しています。彼は店を取り戻そうという意思はないのですが、 はないのですが、父親が彼に遺した「隠し金」は取り戻したいので力を貸してほしいと二人に頼んできます。
しかし、その隠し金が埋められているところは豊島屋の蔵で、今は水が出た時のための土嚢が積んである、ちょうど真下のところ。豊島屋の今の主人や従業員に気付かれずに、どうやって土嚢をどかして、埋蔵金を掘り出すことができるのか、蓮が知恵を絞るのですが・・・、という筋立てです。
彼は、当時、外国商人の買い占めによって吊り上がっていた米相場に目をつけて、その米相場を正常化したいと思っている、豊島屋の主人をはじめとする日本人米問屋の旦那方にあある策をアドバイスするのですが、それによって土嚢も動かすことのできる策で・・・、という展開です。
まあ、この話では、依頼主の元治も、そう善人ではないことがわかってひと悶着あっての解決といなるのですが、安西省吾と蓮の「くされ縁」の始まるとなるのは間違いありません。

第二話の「 反魂蝶」は蓮の奇術の師匠をしている人気絶頂のマジシャン・一翔斎天馬からの依頼事です。
彼は趣味で「蝶」の収集をしているのですが、イギリスから有名な昆虫の研究家で蝶の収集家でも有名な人物が来日することにあわせて、日本の蝶を紹介しようということになるのですが、これが幻の蝶といわれる「マホロアサギチョウ」だったものですから、その入手や代金のことで揉め事が起き・・。という筋立てです。
この話の依頼者である人気のマジシャンが、蓮の奇術の腕前をべた褒めしているのはチェックが必要ですね。この「蓮」が、里見・有村コンビを幻惑する「怪盗ロータス」であろうことは想像できるので、ロータスの盗みの技が、付け焼刃ではなく、マジシャンも舌を巻く高レベルのものであることがわかります。

最終話の「怪盗の伴走者」では、いよいよ怪盗ロータスが、本編の主人公・里見高広の前に姿を現します。
そして、今回彼が狙ったのが、「凌雲閣」という人気の衰えかけた高層タワーに飾られていた油絵なのですが、これも、わざわざ盗む意味がわからない作品です。しかも、これを盗もうとする時に、そこの番人に出くわして盗み出すのに失敗する、という怪盗ロータスらしからぬ手際の悪さです。
失敗した盗難にロータスが再挑戦するらしい、ということで、異例なことに、安西検事が自ら怪盗ロータスの逮捕に出動するのですが、実はそこにロータスこと「蓮」の本当の意図が隠されていて・・・、という展開です。

今回で、里見・有沢の探偵コンビの強敵だった「怪盗ロータス」が自分の腹心ともいえる人物を味方に加えることに成功して、かなりの戦力アップを果たすことになります。

レビュアーから一言

今巻の最終話ででてくる「凌雲閣」は、最終的には大正12年に発生した関東大震災によって12階あるうちの8階以上が壊滅状態になり、結局は経営難が原因で爆破解体されることになります。こうしたアイテムが「明治」の香りを漂わせるこのシリーズにはかかせない存在ですね。

Amazon.co.jp

コメント

タイトルとURLをコピーしました