幕末のアンは、メリケンの黄色い粉の謎を解くー柴田よしき「あんの青春 若葉の季」

父親の借金のかたに、品川宿の料理が自慢の旅籠・紅屋に女中奉公にでた「おやす」が紅屋の料理人頭「政さん」や、同じ品川の脇本陣「百足屋」の一人娘・お小夜たちに囲まれ、自分のとても「鼻が効く」という特技を活かしながら料理人として成長していく「お勝手のあん」の第三弾が本書『柴田よしき「あんの青春 若葉の季 お勝手のあん3」(時代小説文庫)』です。

前巻で、人気の新進の料理屋「むら咲」の料理人「おみね」からめりけんの「香りの謎解き」の挑戦を受けたり、薩摩の身分の高いお武家のお嬢様であるらしい「おあつさま」の江戸入り、品川一の旅籠・百足屋のお嬢様の「お小夜」の嫁入りと旅籠・紅屋の同僚でもあり弟とも思っていた勘平の出奔など、今まで、紅屋に奉公してから仲良くなってきた人々との別れがやってきた「お安」だったのですが、今巻では、それを乗り越え、料理人として飛躍していく姿が描かれます。

構成と注目ポイント

構成は

一 勘平の消息
二 悲しい文
三 胡瓜と十六文
四 薬の匂い
五 消息
六 かりい
七 幽霊と日本橋
八 奇跡
九 駕籠に揺られて
十 おちよの秘めごと
十一 恋の後始末
十二 別れ

となっていて、「お安」の下働きの期間も終了し、正式な紅屋の女中として認められ、給金ももらえるようになったほか、台所でも、包丁研ぎを教わったり、焼き物を任されたり、と修行が始まっています。この紅屋の料理人頭の政一は「お安」を一人前の料理人として育てるつもりのようです。

今巻の読みどころの一番目は、修行するお安に、料理屋「むら咲」の女性料理人・おみねから出された瓢箪に詰められた「黄色い粉」の謎解きです。大繁盛をしていた「むら咲」も、最近では、若い女性が足を出して接客サービスをする競合店も出てきているのですが、料理人兼経営者の「おみね」は「むら咲」の商売を長く続けるつもりはないらしく、彼女の夫の借金を返し、女郎あがりの従業員を独り立ちさせ、次の店を出す資金がある程度できれば十分と思っているらしく、「お安」が謎ときに挑戦できる期間も夏までという期限付きです。

お安の前に現れたヒントは、同じ旅籠の女中頭・おしげが服用している「薬」です。彼女は第一巻ででてきた弟の駆け落ち騒ぎで弱ってしまった胃の薬を漢方医に処方してもらっていたのですが、その薬の香りの中に、「黄色い粉」と同じ匂いのするものを、嗅覚に優れた「お安」が嗅ぎつけた、ということですね。
この匂いの正体をつきとめるため、おしげの通院する漢方医の薬庫で様々な漢方薬の匂いを嗅がせてもらうのですが、そこでわかったのは「鬱金」「桂皮」「生姜」「甘草」「棗」は入っているということで、現代の読者なら「カレー粉」であることがわかりますね。そして、この解答を「おみね」に返すときに、「お安」の作ったのが。鯛のアラ、クズ野菜をつかった汁物で・・・、という展開です。

二番目の読みどころは、薬問屋にお嫁にいった親友の「お小夜」から、夫につくる料理をつくる指南に、「お安」を店のある日本橋に月1回出張させてくれ、という依頼が、お小夜の実家・百足屋から頼みが入るのが発端です。
もともとは「お小夜」が「お安」に定期的に会いたいがための理屈付であったのですが、固いものが苦手で、油ものが好物の夫に、健康的な料理のメニューを考えるという本格的な料理指南への発展していきます。この巻では、料理人頭の政一の定期的に日本橋へ行く許可を勝ち取るまでなのですが、次巻以降で何か発展がありそうな予感がします。ひょっとすると、嫁入り間近の「おあつさん」こと薩摩の「篤姫」にも関わりがでてくるのかもしれません。

最後のほうでは、紅屋の大旦那の世話をしている、老舗旅館の一人娘の「おちか」の妊娠と、紅屋への押し込み強盗騒ぎとか、勘平との再会といった出来事もありますので、これ以上の詳細は原書のほうでどうぞ。

レビュアーから一言

時代背景的には、薩摩の篤姫が13代将軍・家定の正室として輿入れする少し前のあたりですので、イギリス公使のハリスが下田に着任した少し後で、まだ開国に伴う幕末の大動乱は、「お安」たちにはまだ実感できない頃です。しかし、品川に薩摩藩士の数が増えたり、動乱の臭いはひたひたと押し寄せている感じがします。動乱の前の、つかの間の平穏な日々の「お安」の物語は、今巻まででしょうか。

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