中国の春秋戦国時代の末期、戦国七雄と呼ばれる七カ国同士の攻防が続く中、中華統一を目指す秦王「嬴政」と、戦争孤児の下僕から、天下一の大将軍を目指す「信」が、ともにその夢の実現を目指していく歴史大スペクタクル「キングダム」シリーズ第26弾と第27弾を総解説します。
前巻で、魏の山陽地方を攻略し、中原進出の足がかりをつくった秦の野望を挫くため、趙の李牧が音頭をとって結成した斉を除く五カ国の合従軍が秦国国境へそれぞれが侵攻を始めています。合従軍が最終的に目指すのは函谷関。秦国を外国から守る最後の砦「函谷関」での秦国の存亡をかけた戦が開始。ここでは函谷関戦の序盤が描かれます。
あらすじと注目ポイント>秦国の存亡をかけ函谷関の戦、開始
第26巻 王騎軍残党の”騰”、実力を全開にする
第26巻の構成は
第273話 趙軍の指揮官
第274話 蜘蛛の巣
第275話 本能型の才
第276話 鳳明の子
第277話 桓騎、向かい合う
第278話 父子の情
第279話 蒙恬の剣
第280話 部隊長の質
第281話 莫邪刀
第282話 王騎が認めた男
第283話 互いの自負
となっていて、冒頭のところで、秦の麃公軍は、函谷関へ攻め上がってくる合従軍の動きを少しでも抑えるため、現在は趙の本軍と戦っています。
趙軍の指揮をとるのは宰相の李牧ではなく、副将の慶舎です。彼は趙軍に攻め入ってきた麃公の狙いを「火の起こし所を探しにきた」と見抜き、動じません。
慶舎には麃公の戦術が手に取るようにわかるらしく、あえて彼に誘いをかけておびきよせ、その背後を万極軍に襲わせます。実は、慶舎も麃公と同じ「本能型」の武将なので、彼の考えていることは想像ができる、というわけ。この風貌の違いに騙されてはいけないようです。李牧は、慶舎を「彼は本能型の中でも、蜘蛛のように罠をしかけ、えものをが飛び込んでくる沈黙の狩人」と評しています。
ここで、万全の備えとみえる趙の攻めをかき乱したのが「信」。麃公の後ろから攻める万極軍に横から突撃し、飛信隊の乱入で、趙軍の攻めを耐えた麃公軍は趙軍の奥に陣する主将・慶舎に向けて突撃して、といった展開です。
ここで、物語は「函谷関の戦」に転じます。
函谷関を攻める魏軍は「井闌車」による攻城を始めます。しかし、井闌車による戦法は古くからあるので、その防御策も研究されていて、函谷関の城壁の高さも井闌車が届かない高さに築城してある・・はずだったのですが、呉鳳明のもちこんだ井闌車は、函谷関のスペックにあわせて独自設計したもの。百年間攻め込まれなかった函谷関の城壁に井闌車の梯子が届き、城壁内目指して魏兵がのぼっていきます。このあたりは、いままでの実績に安心して情報収集を怠っていた秦の上層部の落ち度ですね。
この状況に慌てふためく秦の守将・張唐なのですが、右壁を守る桓騎は慌てていません。井闌車に油の入った樽を大量にぶつけたところに火矢を放ち、井闌車を登ってくる魏兵を火攻めにします。このあたり、野盗あがりの桓騎が、頭の固い正規の軍人・張唐とは違うところですね。
そして、函谷関の左では、九万の蒙武・騰連合軍と十五万の楚軍の戦いが繰り広げられています。まず戦いの中心となるのは、王騎を失い、副将の騰が指揮を執る王騎残党軍です。この残党軍の生き残りである第一軍長・録鳴未と鱗坊が楚軍を切り裂き、本陣の臨武君へ迫ります。
しかし、鱗坊は楚の弓の名手・白麗によって射殺され、劣勢となった録鳴未に加勢する蒙恬も項翼の莫邪刀で阻まれます。王賁もかけつけるのですが、二人の連携プレーに邪魔をされ、といった展開です。
この膠着状態を崩すのは、今までその実力が王騎将軍の陰に隠れていた「騰」。王騎の残党兵に対し、自分の力は秦の大将軍と同等で、自分をまともに戦いたかったら、墓場から王騎を連れてこい、とうそぶく臨武君に、王騎を副将として支え続けた「騰」の本当の力が炸裂します。
第27巻 信は万極の「坑殺四十万」の恨みを受け止める
第27巻の構成は
第284話 呪いそのもの
第285話 穴だらけの荒野
第286話 答えのない
第287話 人間全て
第288話 初日の報告
第289話 化けてみせろ
第290話 女傑・媧燐
第291話 膠着
第292話 韓の兵器
第293話 短期戦
第294話 蒙武の檄
となっていて、函谷関の西の戦いで、楚の臨武君を斃したという情報は瞬く間に合従軍内に伝わり、合従に加わっている各国の将兵を動揺させたのですが、麃公軍の一員として飛秦隊が戦っている趙の万極軍は全く同様も見せず、信たちに襲いかかります。
実は、彼らは秦の将軍・白起が長平の戦で行った「坑殺四十万」の生き残りや遺児で構成された軍で、秦に対する「恨み」をその原動力として戦っているので、この怨念をどう打ち破るか、というのが武力対決よりも重要なことになります。万極軍vs飛信隊の大バトルの様子は原書のほうでお読みください。
そして万極の放つ「怨嗟の言葉」に信が出した答えは
というもので、斃した万極に、長平のような惨劇は繰り返さないことを約束します。
戦いの二日目、初日の軍の要である「臨武君」を失った楚軍は、第二軍の将軍・媧燐を投入します。
色っぽい女性の将軍ですが、初日で敗戦した臨武君の副将を蹴り殺すなど、かなり気の荒い女性将軍です。おまけに彼女は、自分の配下の兵は出さず、元臨武君軍に単独で戦い、「騰」の首をとって汚名を晴らすよう命じます。
ここで、第二軍を温存している媧燐を楚軍総大将の汗明が詰問するのですが、彼女は函谷関を陥とすために兵を動かさないのだ、とうそぶき、合従軍の総本陣にいる春申君と李牧に
という策を伝えてきます。李牧には通じた唐ですが、果たしてその意味は・・?というところですね。
ただ、この策を評価した李牧の指示のもと、合従軍全軍にわたり主力を温存した小競り合いの戦闘のみが行われていくことになります。
そして、七日目になり、ついに韓軍に動きが出ます。指揮をとる韓将「成恢」は魏軍に対し城壁から距離をとるよう要請し、函谷関の城壁上にいる秦兵に対し、弓矢を射かけます。矢が当たった将兵は悶絶して死に至るという毒矢攻撃ですね。そして、蒙驁将軍の居場所をつきとめるとそこに向かって、弩を発射します。弩から放たれた大きな矢からは煙が噴出し、毒ガス攻撃か、と思われたのですが数分で消えてしまいます。被害は全くないのですが、後になってその被害が出てくる、「成恢」独自の「毒攻撃」のようです。
さらに15日目、いよいよ合従軍が全戦にわたって総攻撃を開始します。
レビュアーの一言>楚の春申君の正体は
今回は、合従軍の総大将を務める「春申君」について解説しましょう。
春申君は元は楚の人で、紀元前274年のとき、韓と魏と連携して楚を攻めようとした秦の昭王を説得してこれを回避し、その際に楚と秦との和平条約の担保として秦の人質となった「太子・完」の侍臣として秦で暮らしてます。
後にその傾襄王が病気となったときに、密かに太子・完を帰国させ、完は即位して現在の楚王である考烈王となっています。
完を帰国したため、怒った昭王が彼を殺そうとするのですが、秦の宰相・范雎のとりなしと太子完の弟である昌文君が人質になることで命拾いをし、楚へ帰国して楚の宰相である「令尹」に任命されています。
昌文君や昌平君や、この春申君といい、楚に関連した人が、秦国で活躍したり、強敵となったりしているのがわかります。国同士の争いは苛烈だったのですが、人材は自分の主義主張や名利を求めて自由化されていたようで、今でいうと、外資系企業を渡り歩いているような感じでしょうか。
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