安達智「あおのたつき」7=「薬丸」と「あお」は廓番の試験をクリア。復活の初仕事は絵師の再生。

江戸を代表する遊郭「新吉原」の羅生門河岸の角にある「九郎助稲荷」の奥の浮世と冥土の境にある「鎮守の社」を舞台に、売れっ子の時に死んだ花魁の霊「あお」と宮司の「楽丸」と社の主神・薄神の三人が、思いを遺して死んだ遊女の霊を浄化させていく、少しコミカルなオカルト時代劇本『安達智「あおのたつき」(マンガボックス)』シリーズの第7弾です。

前巻で、恐丸宮司の命ずる修験で、「あお」のわだかまりを祓うよう命じられた「楽丸」は、「あお」のわだかまりに迫り、彼女から金を搾り取っていた実母によって遊女屋に売られた妹の「こう」への執着がその正体であることに気付きます。濃紫の生きていた当時の夢に迷い込んだ楽丸が、彼女のわだかまりを祓えるのかが前半の焦点になります。

あらすじと注目ポイント

構成は

其ノ参拾壱 微神黒狐社⑤ー狐と蛇ー
其ノ参拾弐 微神黒狐社⑥−お祓いー
其ノ参拾参 かげ男①
其ノ参拾肆 かげ男②
番外編 屁負比丘尼
単行本限定 はなとみつる

となっていて、全巻の最後に続いて、こうを助けるために吉原を抜けようとして、吉原の妓夫や遣り手婆に追われる「あお」こと「濃紫」は、「濃紫」の属する廓「三浦屋」に通ってくるなじみ客「権八」に匿われることになります。もし、妓夫たちに捕まれば、吉原から足抜けをしようとした女郎として、場合によっては命を落とすぐらいの厳しい折檻を受けるところなのですが、権八の機転で、間夫との狂言芝居に見せかけ、「部屋持ち女郎」への格下げ程度で許されることになります。

もっとも、今まで売れっ子花魁として羽振りを利かせていたのが、格子女郎と同じレベルまで落ちぶれたわけなので、朋輩からの嫌味やいじめを受けることになりますし、濃紫を救った立役者の「権八」による「曼陀羅華」という薬をつかった閨事で「濃紫」は命を落とし、「あお」となるわけですが、その詳細は原書のほうで。

そして、自らのわだかまりを楽丸に語った「あお」に対し、楽丸は恐丸の命じた修験を果たすため、「あお」に祓いを行う「鍵」を振り上げるのですが、彼が祓ったのは、「あお」のわだかまりではなく、彼の師匠格の人物のわだかまりで・・という展開です。

この巻で、壊された神具の「鍵」を復活させて、廓番の宮司として復活するために他の4つの「社」の宮司の試験を受ける「廓番衆編」の完結編となります。

後半部分の「かげ男」編は、廓番として復活した「楽丸」と「あお」が復活後始めて受ける浄化案件です。

依頼人となるのは、女郎ではなくて、日本橋で「吉原細見」という吉原のガイド本を出している当時の出版社である地本問屋の「耕書堂」の手代をしていた「文七」という男性です。

彼は酔っ払って川に落ちて死亡するというドジな死に方をしているのですが、生前にその才能を見出し、世に出そうとあの手この手で手助けをしていた「創次郎」という浮世絵師を結局世に出すことができなかった悔恨から成仏できずに、楽丸のところに助けを求めてきた、という次第です。

ただ、創次郎が世間に受け入れられなかったのは、不運というよりも、自らを「天才」として、摺師などのアルバイト仕事には精進せず、絵の依頼があっても注文通りの絵を描かず、自分の好む「怪奇絵」を描くというワガママのせいですね。

創次郎を改心させ、絵師として再出発させるため、「楽丸」と「あお」の手配で、創次郎の「夢枕」にたつこととなるのですが、夢の中でも、「天才」気取りの創次郎はやりたい方第です。そこで文七は歌麿や写楽を世に出したある人物に扮して説得を試みるのですが・・といった展開です。

レビュアーの一言

「あおのたつき」の舞台となるのは、吉原遊郭にお祀りされていた5つの稲荷社とあの世との境にある「吉原」なので、現在は失われてしまった「廓」の風習や風情がふんだんに出てきたのですが、今回は、江戸趣味としては吉原と並んで無視できない「浮世絵」の世界が現出していますので、いつもの「あおのたつき」とは違う江戸風味をお楽しみください。
ちなみに、今巻のおまけとなっている「番外編」は濃紫と権八の最初の出会い、「単行本限定」は第一話で登場した富岡ときよ花が現代を舞台に再登場する「現パロ」となってます。

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