大崎梢「バスクル新宿」(講談社)=高速バスターミナルに集まる日本中の「謎」を解け

移動にかかる時間だけをみれば鉄道や飛行機に軍配があがるのですが、運賃では断然安いため、長距離の移動に根強い人気を持つ「高速バス」の東京の拠点「バスクル新宿」から発着する高速バスの乗客を主人公にしたトラベル系のコージー・ミステリーが本書『大崎梢「バスクル新宿」(講談社)』です。

物語の舞台となる「バスクル新宿」は日本各地39都道府県の300都市と新宿を結ぶ、三年前にオープンした国内最大のバスターミナルで、一日1600便を超えるバス便があるという設定です。このため、乗車する乗客も様々な境遇で、彼らが抱える悩み事も種々雑多なため、バスの中で起きる事件や謎解きも色とりどりのミステリーが描かれます。

あらすじと注目ポイント

構成は

1 バスターミナルでコーヒーを
2 チケットの向こうに
3 犬と猫と鹿
4 パーキングエリアの夜は更けて
5 君を運ぶ

となっていてまず第一話の「バスターミナルでコーヒーを」は、山形駅から東京ヘ向かう「北川葉月」という36歳の女性が主人公となります。彼女は若い頃、東京の書店に勤めていたのですが、母親の介護のため山形にUターンしたのですが、今回は東京で勤めていた時の元上司に会うための久々の上京という設定です。

彼女は乗車前に、かかあ天下の元先生夫妻・大久保夫妻と、山形にいるのに函館にいると嘘の電話を職場にしている「榎本」という女性と知り合いになります。元先生夫妻の旦那さんがマスクを忘れていて奥さんに叱られているところを、榎本さんが自分の余分のマスクを提供して、といったことがきっかけなのですが、その榎本さんが、途中休憩したサービスエリアから消えてしまったのですが、運転手にそのことを告げると彼は全員揃っている、といってバスを発車させてしまいます。「バスクル新宿」で降車した時もやはり榎本さんの姿はなく・・といった展開です。

ちなみに「バスクル新宿」で降車後にコーヒースタンドの場所を教えてくれた「小学生くらいの少年」が登場するのですが、彼がこの後の全話で登場してきます。これは最終話の前ぶりになっているので覚えておいてくださいね。

第二話の「チケットの向こうに」は、大学のサークルの活動費を持ち逃げした友人を探している「益子哲人」という男子学生が主人公です。彼は地方から東京にでてきて初めて友人になったのが、その持ち逃げをした友人・生駒であったため、彼の無実を信じながらも行方を探しているのですが、その彼にある俳優の兄だという「柳浦」という男性がアドバイスをしていく、という展開です。少しネタバレすると、話の終わりで、哲人くんは今まできづいていなかった別の友人の存在に気づくこととなります。

第三話の「犬と猫と鹿」は、東京の沼袋に住んでいる「那須田絵美」という中学生のところへ刑事二人が訪ねてくるところから始まります。彼らは絵美が同級生の男の子・市村崇史くんにわたしたはずの「春日大社のお守り」をもっていて、それをいつ失くしたのかと聞いてきます。実は、そのお守りは彼女が就学旅行中に崇史くんに渡したのですが、その夜、崇史くんは泊まっていた旅館を抜け出し、次の日の昼になって宿へ帰ってきたということが起きています。彼は、離婚して別居中の父親と会っていた、と主張するのですが、その夜、絵美の兄が東京の彼の実家で姿をみかけたと言う証言もあって、崇史がどこで何をしていたかはっきりしないのですが・・といった展開です。

第四話の「パーキングエリアの夜は更けて」は、ダイニングバーで働いている「莉香」という女性が友人の結婚式の出席後、新潟から新宿へ帰ってくるバスの社内で起きた事件の数々です。第一の事件は、事故のため渋滞しているバスの運転士に無理を言って栄パーキングエリアに停車してもらった乗客が降車中に、バスの中に刑事が乗り込んできて聞込みを始めます。その男性は降車していたためスルーしたのですが、莉香には刑事んが捜査している事件とその男性がなにか関わりがありそうな気がするのですが・・という筋立て。さらに、バスの後部座席に乗車している老婦人から、隣に乗車していた乗客が、いつの間にか男性から女性に変わっていたという相談をうけたり、莉香の近くに乗車していた男性の旅行バッグの中から子供の足のようなものが見え隠れしていて、と重層的な事件が起きていきます。

最終話の「君を運ぶ」では、第一話から第四話までの話で登場してきていた「小学生の男の子」が行方不明になっているという報道から始まります。偶然、バスクル新宿に集まっていた第一話の主人公「北川葉月」ほかの登場人物たちが、その小学生の行方探しを始めるという設定です。そして、その少年の名前が記入されている図書カードやポイントカードが、米子や長野など日本のあちこちで見つかり始めるのですが・・という展開です。

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レビュアーの一言

鉄道ミステリーというのは、発着ダイヤもしっかりしていて、駅の旅情も豊かなせいか、時刻表ミステリーという一大ジャンルを形成しているのですが、高速バスの場合は、途中のパーキングエリア以外は乗り降りできないせいかミステリーの題材となることは珍しいのですが、本巻は、高速バス本体でなく「バスターミナル」を舞台にして、人情味豊かなミステリーになっています。

「コージーミステリーの女王」(と管理人が勝手に命名している)である大崎梢さんの手練の技が惜しみなく注ぎ込まれていますので、「バス」のもつ物悲しいイメージとあわせてお楽しみください。

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