天の星の代替わりに巻き込まれて、若だんなは赤ん坊からリスタート=畠中恵「しゃばけ20 もういちど」

祖母の血筋のおかげで「妖」の姿を見ることができる病弱な廻船問屋兼薬種問屋・長崎屋の若だんな・一太郎と、彼を守るために祖母が送り込んだ妖「犬神」「白沢」が人の姿となった「仁吉」「佐助」、そして一太郎のまわりに屯する「鳴家」、「屏風のぞき」や貧乏神といった妖怪や神様たちが、江戸市中で、一太郎が出会う謎や事件を解決していくファンタジー時代劇「しゃばけ」シリーズの第20弾が本書『畠中恵「もういちど」(新潮社単行本)』です。

前巻では、祖母のおぎんの正体で九州の別府温泉に1年間、湯治の旅にでかけた両親の留守を守って、長崎屋の商売に降りかかる危難を払いのけながら、身代を守った一太郎だったのですが、今巻では、関東一円を襲った旱魃をおさめるために集められた龍神たちによって、二百年に一度の代替わりを邪魔された「天の星」を救ったために、赤ん坊に逆戻りした姿が描かれます。

あらすじと注目ポイント

収録は

「もういちど」
「おににころも」
「ひめわこ」
「帰家」
「これからも」

となっていて、まず第一話の「もういちど」では、一年間、別府に湯治にでかけたいた親夫婦がようやく帰ってくるのですが、この年は、九州の河童の大将・九千坊のいうところでは二百年に一度の天の星の代替わりの年にあたるそうで、その年のは世の中がひっくりかええう騒動がおきるという噂です。ちょうど二百年前には徳川が天下をとった時にあたっているのですが、今回はそれに匹敵するほどの旱魃という天災に見舞われています。

この旱魃をおさめるため、あちこちで雨ごいの祈祷が行われていて、そのため江戸の河川中に「龍神」が大量に集まってきています。そのため、全ての川が大荒れになってしまい、それに一太郎も巻き込まれるのですが、そこで行われていた「星の代替わり」にも巻き込まれ、なんと「赤ん坊」に退行してしまいます。赤ん坊から元の姿に戻るには、龍神がお詫びの印で持ってきた水天宮の薬を服用すればいいのですが、代替わりの「星」が傷ついたままなのを見た一太郎はなんとその薬を・・という展開です。

第一話で赤ん坊に退行してしまった一太郎は人目を避けて、根岸にある長崎屋の別宅に隠れ住むこととなります。幸い、成長が早くて、崇月間すれば大人の状態に戻れそうなのですが、今まで病弱だったの嘘のような健康体になったのがうれしくて、一太郎は近くの百姓屋の子供たちと毎日遊び暮らしています。そこで知ったのが、最近、根岸の村では幼い女の子が相次いで行方不明になっているということ。どうやら単純な失踪事件ではなく、最近の旱魃で生活が苦しくなってきているのに付け込んで、女郎屋に娘を売り飛ばす人買いが現れているようです。さらにその人買いたちは村の大人たちに、ある交渉を持ちかけているようで・・という展開です。

江戸期には、近郊の貧しい村から「吉原」に売られてくる娘もたくさんいたとのことですが・・といったところが謎解きのヒントです。

第三話の「ひめわこ」は、数月経過して、若だんな・一太郎は12歳ほどの見た目に戻っています。身体のほうはいたって丈夫に育ってきているので、普通の男の子同様、両国の盛り場で買い食いを楽しむこととなるのですが、そこで出会ったのが宮地芝居の斬られ役をしている浪人あがりの五郎右衛門という武家です。昔から倣ってみたかった剣術をこの浪人から習うことにした一太郎だったのですが五郎右衛門が、道場の後継ぎ争いに関わってくることから、一太郎もそれに巻き込まれていきます。後継ぎとなる条件は、その道場に道場破りを仕掛けてきた者をつかまえるというものなのですが、その道場破りは、他で人斬りや盗賊もやっている凶悪人物らしく・・という展開です。一太郎が、五郎右衛門とともに道場破りに命を狙われる羽目に陥ります。

第四話の「帰家」では、元通り成長した一太郎が、我が家に帰ってくるのですが、そこで、一太郎の幼馴染の菓子職人・栄吉の縁談相手である大店の紙屋の「如月屋」の「お多真」から水を浴びせられてしまいます。そして、着替えをしているうちに、蒼玉と小鬼の入った巾着を紛失してしまいます。巾着はその可愛らしいデザインから妹のものと間違えたお多真が、如月屋に持って帰ってしまったとわかるのですが、如月屋で見つけた巾着の中からは蒼玉と小鬼が:消えていて・・という展開です。

栄吉の縁談相手の実家の「如月屋」は家業も違いますし、相当のお金持ちの商家で、小さな菓子屋である栄吉の実家・三春屋とは本来が釣り合わない相手です。「釣り合い」を重要視した江戸時代にはあまり見られない縁組なのですが、ここらに蒼玉と小鬼行方知れず事件の鍵が隠れていそうです。

最終話の「これからも」では、前話で水を浴びせられたことで寝付いてしまった一太郎の隊長が思ったより早く回復したため、快気祝いに「羊羹」を買いにでかけたところ、途中で、藍色の着物を来た深編笠の浪人に追いかけられている商家の主人に出会います。刃物をもっておいかける浪人から、その商人を守ろうとして、崩れてきた大八車に積まれた木箱の下敷きになって再び寝付いてしまうという、いつもの「一太郎」らしい不運に見舞われます。

以前と同じように長崎屋の離れで静養する一太郎は、深編笠の浪人の正体を推理するのですが、これが第一話ででてきた「旱魃」の話と結びついてきて・・という展開です。

第一話で赤ん坊になったことから、病弱なところを克服して、あらたな「しゃばけ」展開か、とも思われたのですが、どうやら最後のほうでは病弱な若だんなに逆戻りしています。どうやら、しゃばけ外伝「えどさがし」で描かれていたような姿に長崎屋は移り変わっていくのでしょうね。

Bitly

レビュアーの一言>北極星は移りゆく

今巻は、一太郎が、天の星の代替わりに巻き込まれるところから始まるのですが、「二百年」よりもっと長いスパンなのですが、天の北極を指し示す「北極星」も地球の自転活動の歳差によって、だいたい1500年から3000年周期で移り変わっているようです。

現在は「こぐま座」の「ポラリス」が北極星とされているのですが、およそ4500年前エジプトのクフ王のピラミッドが建設された紀元前2500年頃は「りゅう座」の「ツバン」が北極星とされていたようですし、中国で周の武王が牧野の戦で殷を破り「周王朝」と建てた紀元前1046年ごろは「こぐま座」の「コカブ」が北極星の位置にあったようですね。

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