少女の綴る「殺人ノート」は「加害恐怖」のトラウマの真実を見抜くか?=逸木裕「少女は夜を綴らない」

小学生の頃、同級生の女の子・加奈子が死ぬ場面を目撃してから、「他人を傷つけてしまうかもしれない」という加害恐怖症にかかり、刃物や尖ったものが持てないというトラウマを抱えている「山根理子」という中学校の女の子が、同じ中学に転校してきた、加奈子の弟・悠人とともに、彼の父親の殺害計画を練っていくうちに、近くの土手でおきたホームレス殺人事件の謎ときに引き寄せられてい、青春ミステリーが本書『逸木裕「少女は夜を綴らない」(角川文庫)』です。

あらすじと注目ポイント

物語は、まず本作の主人公である山根理子の小学生時代に遡ります。理子には瀬戸加奈子という同級生がいたのですが、彼女は普段は温厚で可愛い少女なのですが、爆発するととことん相手を痛めつけてしまうという行動から、クラスの皆に怖れられている存在です。

そんな彼女が死んでしまうのを目撃してから、理子は「加害恐怖症」というトラウマをかかえることになって、というのが前ぶりのところとなっています。

本篇のほうは、それから理子が中学生となった数年後から始まります。彼女は、そのトラウマから同級生や他人と関わることに臆病になっていて、クラスの中では目立たず浮き気味で、加害の恐怖をなだめるために、「夜のノート」と名付けている、周囲の人を「殺害」する計画を記したノートをつけて、どうにか心の平衡を保っています。家庭生活では、父親が突然の交通事故で亡くなり、母親はそれ以来「うつ」状態。家計は中学校の教員をしている兄が支えています。ただ、日々の家事は彼女の分担となっていて、このため、学校で同級生とつながるたった一つの趣味である「ボードゲーム研究会」にもほとんど参加できなくなっている、という設定です。

そんな折、彼女の通学路に近い土手に住んでいる「ホームレス」の一人がホームレス狩りにあい、住居に放火されて殺されるという事件がおきます。犯人は、近くの高校の悪ガキたちでは、という噂が出るのですが、被害者が発見された時写された写真の近くにいた野次馬の中に、ジョギング中の兄の姿が映っているのを発見します。そして、その時来ていた兄のパーカーのポケットの内側に、赤い血がついているのも見つけてしまい・・という展開です。

さらに、理子の中学校に同級生だった「加奈子」の弟である「悠人」が転校してくるのですが、彼は、理子が姉・加奈子を殺害したことを秘密にしておくので、自分の父親殺しを手伝ってほしい、という依頼をしてきます。実は、加奈子の「死」には、硝酸ストリキニーネを使って同級生の大量殺人をやると予告してくる加奈子から、同級生を守るため、その「毒薬」をオレンジジュースにいれて飲ませた後、加奈子はマンションの屋上から足を滑らせて墜落死した、という秘密が隠されていて、そのショックで理子は「加害恐怖症」を発症したという顛末です。

悠人の要請を断り切れず、理子は、彼女の書き溜めてきた「殺人ノート」のデータをもとに、悠人と父親殺害計画のプランニングを開始するとともに、兄のホームレス殺害疑惑を、同級生でボードゲーム研究会の「マキ」と一緒に調べ始めます。しかし、ここに「理子」を敵視している「沙苗」という同級生が執拗なイジメをかませてきます。そして、とうとう、理子が殺人計画を記していた「ノート」の存在が明らかになり、同級生や学校関係者の目が冷たくなり、理子へのイジメも始まり、と物語が動いていきます。

そして、物語の後半で、理子は悠人の父親殺害の実行計画をつくるのですが、毒殺による方法を考えたところで、自分が殺したと思っていた「加奈子」の死の真相に気付くととともに、兄の犯罪についても新たな事実が判明し・・という筋立てになっています。

少女は夜を綴らない (角川文庫)
「人を傷つけてしまうのではないか」という強迫観念に囚われている中学3年生の理...

レビュアーの一言

家庭的にはヤングケアラー状態で、兄に殺人犯の疑惑があり、自らは小学校時代の隠していた「犯行」をネタに脅されて殺害計画の片棒を担がされる、というこれだけ並べられると、逃げ場のない物語なのですが、物語の筋立てがテンポよく展開していくせいか、陰惨な感じはあまり抱かないまま、引っ込む事案で、イジメられキャラの主人公「理子」に声援を送ってしまう作品です。

とりわけ、理子たちが同級生からの「イジメ」をはねのけ、今まで見ないふりをしてきた学校の教員がアタフタするあたりは、学校の先生方には悪いのですが、スッキリしたことは否定しません。

コメント

タイトルとURLをコピーしました