人工知能(AI)と疑似恋愛ができる人気アプリを設計した有能な研究者が、そのAIアプリの利用によるクレームの増加による悪評を挽回するため、死者を人工知能によって蘇らせるプロジェクトの試作品としてっとりあげた、カルト的な人気ゲームクリエイターの自殺に秘められた謎に巻き込まれていく、SFミステリーが本書『逸木裕「虹を待つ彼女」(角川文庫)』です。
あらすじと注目ポイント
構成は
プロローグ 二〇一四年十二月
第一部 二〇二〇年十一月
第二部 二〇二〇年十二月
第三部 二〇二一年二月
エピローグ
となっていて、天才美少女ゲームクリエイターの自殺の場面が描かれるプロローグと本編となるAI研究者がその自殺の謎に巻き込まれていく第一部〜第三部という構成なのですが、タイトルとなっている年代は、2022年時点で、本書に登場するような画期的ゲームも、AIもそこまで進化していないので、近未来の物語と割り切って読んだほうがよいですね。
まず物語の冒頭では、水科晴という、ゾンビを倒していく人気のシューティングゲーム「リビングデッド渋谷」を開発したゲームクリエイターが、このゲームをつかって自殺をするシーンから始まります。
彼女はこのゲームの上級プレイヤーの操縦するゲーム内のドローと実際のドローンを連動させ、渋谷の街に実機を飛ばし、ビルの屋上にいる自分にむけて銃撃させることで自殺を図ります。彼女は末期の胃がんにかかっていて、これが自殺の理由と世間ではいわれるのですが、ここまでおおがかりなことをなぜしたのかは不明のまま時が過ぎていくことになります。
本筋の物語はそれから6年後、「金星戦」と言われるコンピュータと人間の棋士との混合トーナメントの準決勝の場面に遷移します。ここで登場するAI棋士の開発をしているのが主人公となる「工藤賢」という人工知能の研究者です。彼は子供の頃から優秀な上にスポーツ万能、しかもイケメンで女性にもモテるという人物で、なんでもできるがゆえに人生に倦んでいて、今は「人間を超える」可能性のあるAIの開発にしか興味をなくしています。
今回も、かれが設計した「スーパーパンダ」という囲碁アプリが人間の棋士を打ち負かすことになるのですが、決勝戦は、目黒というAI囲碁を目の敵にしているトッププロと対戦することとなる、という筋立てです。
そんな工藤が主体となって開発したのが、AIと擬似恋愛のような会話ができる「フリクト」というアプリなのですが、最近、それにのめり込みすぎたユーザーの家族からクレームが増えていて、会社の営業担当からプログラムの見直しを迫られている、という構造です。
そして、このAIビジネスの起死回生策として、すでに死んだ有名人をAI上の再生するという新ビジネスを考案するのですが、その試作品としてとりあげられたのが、プロローグで出てきたゲームクリエイターの水科晴の再現です。
営業的には、彼女には未だにカルト的な人気があり、家族は誰も生存していないので遺族の了解も要らないっていう理由から採択になったのですが、プロジェクトの技術部門を担当する工藤は彼女に自分と同じ「臭い」を感じて、彼女の生い立ちから経歴、男性犯歴などなど彼女の人生の隅々まで調べはじめるのですが、そのうち彼女に影響を及ぼしていた「雨」と呼ばれていた人物がいたことがわかります。
さらに調べが進むと「水科晴について嗅ぎまわるな。お前も殺してやろうか」という脅迫状が届きます。
ひょっとすると、水科晴は自殺ではなく、他殺なのか・・・という展開です。
そしてこの脅しに負けず、「晴」の情報を大量に手に入れ、さらに彼女の同級生を協力させることに成功した工藤はAI上に「晴」の人格を再生することに成功するのですが、そこで明らかになったから「晴」の自殺の理由は、という展開です。
レビュアーの一言
AIの進化が進んで、AIが人間を超えるシンギュラリティの可能性や人間がAIに追いやられるデストビアなどが真面目に議論されるようになった昨今なのですが、これから起きそうな近未来を想像させるSFミステリーです。産業革命のときは、自動機械を打ち壊すラッダイト運動が起きたのですが果たして今回のAI革命ではどうなるんでしょうか?
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