豪雨の中、消えた美少女の行方をつきとめろ=吉川英梨「雨に消えた向日葵」

埼玉県の寂れたニュータウン「鶴舞」で母親と姉と暮らしている小学五年生の「石岡葵」という、地域で評判の美少女が、ある大雨の日、下校途中に行方がわからなくなってしまいます。
埼玉県警捜査一課の警部補・奈良は急遽組織された、彼女の捜査本部に加わるのですが、家出、事故、事件、様々な可能性が考えられる少女失踪事件の捜査は拡散する一方で犯人はおろか疾走した少女も見つからないまま迷宮入りが近くなるのですが、という少女行方不明事件の解決に向け、懸命に動く、妹をレイプ犯から」助けられなかったというトラウマをかかえる刑事と被害者の両親と姉の捜索活動を描く警察小説が本書『吉川英梨「雨に消えた向日葵」(幻冬舎文庫)』です。

あらすじと注目ポイント

構成は

プロローグ
第一章 失踪
第二章 泥沼
第三章 音
エピローグ

となっていて、事件のほうは7月の埼玉県のあたりに農地の残る寂れたニュータウンでおきます。地域の公立小学校に通学している「石岡葵」という女子児童が、友人と自作のマンガを見せあっているうちに遅くなって、激しい雨に遭遇してしまいます。親友の藤岡絵麻は親の車で迎えにきてもらうので、葵も誘うのですが、彼女はそれを断り、雨の中を一人で帰宅している途中に行方不明になった、という事件です。

彼女の家庭は父と母が離婚調停中で、都内の大手銀行のエリート銀行員である父親が多忙なため、娘二人は母親と同居をしているという環境です。姉の沙希は都内の有名進学校への進学を希望しているのですが、妹の葵は勉強嫌いで、BL系のマンガを描くのが趣味という対象的な姉妹です。また、行方不明になった葵は、地元のお祭りの「よさこい踊り」の地域のチームで参加したところ、市の広報誌の表紙にもなったという美少女であったので、彼女の失踪の理由として考えられるものが複数あって、このため捜査が混迷していくこととなります。

で、行方不明になった少女の周囲にいる疑わしそうな人物が、幼女ビデオを隠し持っている担任教諭や、葵にピアノを教えている不動産収入で生活している音楽教師、姉・沙希が通っている中学でJK風俗に巻き込まれている不良少女と、まあ洗えば洗うほどあぶり出されてきて、隠していた秘密が、「葵」の失踪捜査の過程で顕になり、それぞれの生活がボロボロになっていくあたりは、犯罪捜査のもつ「負の刃」の鋭さを見せています。

さらに、事件当日、葵を送っていかなかった葵の親友・藤岡絵麻の家庭も第三者からの心無い批判の中で崩壊していったり、姉の沙希も受験のため母親の家を出て、父親と同居をはじめたり、父親は娘の捜索の時間をつくるため銀行も退職し、と容疑者以外の人々の暮らしも大きく変化させられていくこととなります。

しかし、捜査本部の刑事たちの地道な捜査や、父親をはじめとしたボランティアの熱心な捜索にもかかわらず、捜査は遅々として進まず、犯人はおろか「葵」の行方も一向につかめず、とうとう「捜査本部」解散の時を向かるですが、担当の刑事・奈良は諦めきれず・・といった展開です。
捜査本部が解散した後、事件を引き継いだ継続捜査係の班長・大前緋沙子との継続捜査で導き出されきたのは・・という筋立てです。

ちなみに、奈良の妹は過去にレイプ被害にあって、その後遺症で男性恐怖症になったうえに自宅に引きこもりになっていて、犯行現場の近くにいながら、妹の悲鳴に気づかなかった自らへの贖罪のトラウマを抱えていて、二人の「再生」のエピソードが本筋の事件とあちこちで絡んでくるので注意しておいてくださいね。

雨に消えた向日葵 (幻冬舎文庫)
埼玉で小五女子が失踪。県警の奈良も捜査に入る。錯綜する証言、意外な場所で出&...

レビュアーの一言

誘拐事件を扱ったミステリーは、被害者が不幸な結果となるストーリーが多いのですが、ネタバレを少ししておくと、今巻は担当刑事の諦めない捜査と結束を取り戻した被害者家族、さらには被害者家族を支え始めた同級生たち、といった感じで陰惨な結果になることなく、安心して読めるミステリーになっています。
イヤミスやダークミステリーばかりだと、心が荒んでくる一方なので、こういうミステリーで定期的に心を癒やしたほうがいいかもしれません。

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