田舎というお荷物の切捨てか、好きな所に住む自由か、あなたの選択はどっち=結城真一郎「救国ゲーム」

地方、とりわけ過疎地域をどう活性化するか、っていうのは、地方政府だけでなく、中央政府も、工場誘致や新産業育成から、観光振興、移住促進など、あの手この手で策を講じているのは間違いないのですが、起死回生の策といったものもなく、人口減少が続くとった状況で、投入される税金をめぐっては、都市民からの不満の声も聞こえる、根深い課題に間違いありません。

その過疎地域で移住者を増やし、村おこしに成功した一人の「過疎地域振興のヒーロー」が首を切り落とされるという殺人事件を発端に、日本国中を巻き込む大騒動へと発展していくミステリーが本書『結城真一郎「救国ゲーム」(新潮社)』です。

あらすじと注目ポイント

構成は

 犯人の独白(1)
プロローグ
第一章 すべての国民に告ぐ
 犯人の独白(2)
第二章 八千万人の人質
 犯人の独白(3)
第三章 絶望の新証言
 犯人の独白(4)
第四章 未来のゆくえ
エピローグ
 犯人の独白(5)

となっていて、物語は、地方創生や過疎地域の振興を所掌事務としている「内閣官房まち・ひと・しごと創生本部事務局」という中央官庁へ、地方銀行から派遣されている「中津瀬」が、「パトリシア」と名乗る「若女」の能面をかぶってYoutuverの動画を思い起こすところから始まります。

そのYoutuverは、「国家存続のために、全国民は大都市へ集住すべき。手始めに全ての過疎対策予算や施策は撤廃して、それを政令市や東京特別区にまわすべき」と主張し、これが60日以内に実現できない場合は「次なる行動にでる」と中央政府や地方政府に対し、無茶な要求をしてきます。

もちろん、政府が相手にするはずもないのですが、この動画に対して、廃村寸前だった「奥霜里」という過疎集落に、経済産業省を辞めて単身、移住し、そこで新しい産業おこしや府ドローンや無人運転車を使った地域おこしで、移住者を集めて集落を再生したことから「過疎集落の救世主」と呼ばれる「神楽零士」というイケメン男性が、動画サイトで反論をはじめ、これを「パトリシア」が受けて立ったことから議論が沸騰し、瞬く間に人気サイトに浮上してきたところです。

で、パトリシアが期限内に実行できなければ「次なる行動にでる」と宣言下61日目。岡山県の山中で「神楽零士」が殺されているのが発見され、という筋立てです。しかも、その死体は首をきられていて、胴体のほうは奥霜里集落で導入されていた「無人運転車」に載せられた上に、車自体は発火したために黒焦げ状態、首のほうは、集落内の食料品や日用品の宅配に使われていた大型ドローンの宅配ボックスの中に入れられてて、ドローン基地にかえってきたのが発見される、という最新テクノロジーに彩られた猟奇殺人です。

過疎の村でおきた猟奇殺人で、被害者は全国的な有名人ということで、全国からマスコミが押し寄せて取材攻勢をはじめ、県警のほうも面子をかけて躍起になって捜査をし、集落の中の70代の男性が容疑者として検挙されます。

しかし、自動運転車やドローンを使った犯行が、この70代男性の単独犯とも思えず、取材に来ていた雑誌記者・馬場園の誘いにのって、神楽の哲学に魅かれ、大手の広告代理店を辞めてこの集落に移住し、「ひなこの田舎暮らし」というブログが人気の「晴山陽菜子」が真相究明に乗り出していくのですが・・という筋立てです。

そして、神楽零士殺害の犯人だとして、「パトリシア」が犯行声明を出し、過疎振興施策のストップといった要求を30日以内にのまない場合は、無作為に選んだ地方都市に対してドローンによる無差別攻撃をかける、と政府を脅迫してきます。

ついに、牙をむいた「パトリシア」のテロ行動に対し、神楽殺害の地元に住む「陽菜子」は、彼女の有名進学高時代の同級生で、彼女をいつも二番手の地位におしやっていた、変人の推理の天才「雨宮」に助けを求めます。雨宮は大学卒業後、官僚となり、冒頭の中津瀬が派遣された「内閣官房まち・ひと・しごと創生本部事務局」に配属になり、隙あればさぼったり、手抜きをする人物として局内でも有名な人物になっていたのですが、今回の陽菜子の依頼にに対して、彼なりの目的から協力をすると申し出、かくして、東京の官庁街と奥霜里集落をリモートで繋いでの真犯人探しが進められていきます。

そして、パトリシアの設定する「無差別攻撃」の期限が迫ってくる中、雨宮が導き出してきたのは、「神楽零士」の過疎地活性化の成功譚の陰に秘められた本当の狙いと悲しい過去、そして、意外な真犯人で・・という展開です。

少しネタバレしておくと、無人運転車の炎上や大型ドローンによる生首搬送といったおどろおどろしい仕掛けが、雨宮の高額的な謎解きでぱらぱらとアリバイが崩れていくあたりは爽快です。

レビュアーの一言

今巻は、過疎集落での猟奇殺人事件の謎解きというミステリーの本筋と並行して、地方部の活性化・過疎地域の振興が都市部の財源によってまかなわれているのをどう考えるか、という都市住民と地方住民との表面に出てこない「対立と不満」というものをぼろんと問題提起してきていて、ミステリーであるとともに「政治小説」的な風合いをもっています。

この「地方vs大都市」の問題は、単なる「財源問題」だけでなく、廃棄物処理やエネルギー生産、水源といったものは地方部の基盤の上に都市生活がのっかっている構造が別に存在しているといった、別の側面でも論じる必要あるように思いますし、ところどころにでてくる「国家そのものの生死」という「国家」っていうのは大都市近辺のことだけをいうのかなー、といった思いもあって、個人的には、なんとも結論がでてこないのですが、読者の皆さんはいかがでしょうか。

物語に登場する「神楽零士」が主張した「今まさに沈まんとする客船に乗っていながら、その事実に気づいてすらいない愚かな乗客たちを一人残らず甲板へ引き摺り出す」ことが大事かな、と思いつつも、「国破れて山河あり」という不変の言葉もありますしねー。

コメント

タイトルとURLをコピーしました