アイルランドの貧乏少女アメリア、黒人奴隷問題に直面=北野詠一「片喰と黄金」4・5

土地のほとんどをイギリス人の地主たちに所有され、慢性的に食料不足の状態におかれている状況の重ねて、人々が主食にしているジャガイモの伝染病で国中が飢饉となったアイルランドから、ゴールドラッシュのアメリカへ一攫千金を狙ったやってきたアイリッシュ少女・アメリアとその従僕・コナーの冒険を描く「片喰と黄金」シリーズの第4弾と第5弾。

前巻までで、ボルチモアのダラの義父母の家に逗留して、セント・パトリックデーまで経験させてもらったり、旅用の靴もプレゼントされたり、と厚遇を受けて旅に出発したアメリアたちだったのですが、グレートフォールスで風変わりな絵描きに出会ったり、オハイオへ向かうB&O鉄道では、鉄道技師のセオドア・D・ジュダのせいでコナーが列車に乗れなかっtリ、といったハプニングが起きたのですが、今回はアメリアがイザヤと落ち合うために向かったケンタッキーで、アメリカの年来の課題である黒人差別に直面します。

あらすじと注目ポイント

第4巻 アメリアの「旅の仲間 」に天才鉄道技師夫妻が加わる

第4巻の構成は

第15話 B&O鉄道②
第16話 ケンタッキー①
第17話 ケンタッキー②
第18話 ケンタッキー③
番外編 パイプの話

となっていて、まず冒頭では前巻に引き続いて、B&O鉄道での出来事が描かれます。天才鉄道技師・セオドア・D・ジュダの邪魔で従僕のコナーが列車に乗れなかったことから二人の間で諍いが生じるのですが、そこにジェダの妻・アンナが騎馬で登場します。

ライフルを背負い、コナーを後ろに乗せての登場で、作中では「鬼嫁」と称されているのですが、「鎌倉殿の十三人」風に言うなら「巴御前」の登場ですね。

ここで、ジェダとアンナの間で、大陸横断鉄道の敷設の夢に邁進しようとするジェダについていきたいアンナの希望と、アンナの安全を思って東海岸に残らせようとするジェダの思いが交錯するのですが、この感情もつれる問題を、ばっさりと解決しようとするアメリアの剛腕はさすがです。

物語の中盤では、アメリアのカリフォルニア行きの同行することになったイザヤに合流するため、ケンタッキーに立ち寄るのですが、ここで、今なおアメリカに残っている大課題の「黒人差別」にアメリアたちは直面することとなります。

ここで、アメリアは逃亡の罪で手足を拘束され拷問された黒人奴隷の姿を見て戦慄を覚えます。その後、そうした奴隷制度に疑問をいだき、南部の中規模の綿花プランテーションの経営者でありながら、寛大な待遇を実現している農場主・モラレスの屋敷の世話になります。

モラリスの屋敷の黒人奴隷に対する待遇はほとんどの奴隷が満足しているのですが、半年前に買われてきた「ロス」という黒人奴隷だけは不満を抱いています。

そして、彼が屋敷を逃亡するときに、偶然、散歩のため屋敷の外に出ていたアメリアが出くわしてしまい、逃亡したことがバレて追手がをかかることを警戒したロスによって、アメリアは人質として拉致されてしまい・・という展開です。

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第5巻 アメリアの拉致でモラレス農場の「調和」が崩壊する

第5巻の構成は

第19話 ケンタッキー④
第20話 ケンタッキー⑤
第21話 ケンタッキー⑥
第22話 シンシナティ①
手引  わがままなひと

となっていて、前巻で、黒人奴隷の「ロス」に拉致されたアメリアのその後が描かれます。

この巻では、奴隷たちに配慮された暮らしが保障されていながら、あえて逃亡の道を選んだロスの過去と、農場主のモラレスがこうした体制をつくりあげていった動機が描かれていくのですが、モラレスが死ねば「完全な自由」が手に入るとと知った料理人の女奴隷が衝動的にモラレスの殺害を図ったところから、この屋敷の「予定調和」が崩れていきます。

さらに、温情あふれる奴隷主であった「モラレス」も、ロスの捜索を「奴隷狩り」と言われる逃亡奴隷捜索の専門家に依頼することで、彼が堅持してきた「理想」もぐらついてくることとなります。

そして、アメリアの捜索に同行したコナーも、誤ってアメリアを銃で撃ってしまったことから動揺して・・といった感じで、すべての「予定調和」にきしみが生じていきます。

最終話の「シンシナティ①」では、ケンタッキーのモラレスの農場を出発し、オハイオ州内の大都市・シンシナティに到着し、そこでカリフォルニアに向かうパーティーを物色します。ただ、子供でなおかつ女性ということで参加させてくれるパーティーが見つからない中、教師あがりのおせっかいな男性と出会うこととなるのですが、そこで出くわすトラブルについては原書のほうで。

Bitly

レビュアーの一言

第5巻の最終話では、アイルランドでアメリアがアメリカへ黄金探しに行くきっかけの一つとなった「カイルの死」の前日譚が描かれています。

第1巻の描写では飢えからきた人肉食の陰惨なイメージが強かったのですが、この話でその経緯が明らかになり、いくらかそれが緩和されているのかもしれません。

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