「鎌倉府」を守った女性の「陰謀」の数々をみてみよう=伊東潤「修羅の都」「夜叉の都」

2022年のNHKの大河ドラマは、北条義時を主人公に、鎌倉幕府草創期の、源平や御家人同士の戦闘や陰謀うずまく幕府や朝廷内のかけひきを描いていて、ひさびさにドラマ内のあちこちにダークな雰囲気が漂って人気を博しているのですが、その北条義時の姉で、源頼朝の妻・北条政子を主人公にして、鎌倉幕府内のパワードラマを描いたのが本書『伊東潤「修羅の都」(文春文庫)』と『伊東潤「夜叉の都」(文芸春秋単行本)』の二冊です。

「修羅の都」のあらすじと注目ポイント

「修羅の都」の構成は

プロローグ
第一章 怜悧な人
第二章 天下草莽
第三章 武士の府
第四章 消えゆく日々
第五章 月となりて
エピローグ

となっていて、「修羅の都」で主に描かれるのは、源義経による平家討滅から源頼朝の死去のところまで。

冒頭では、義経からの平家を滅ぼした喜びに満ちた書状を手にしながら、苦り切った顔をしている頼朝がでてきます。どうやら本作の頼朝は平家討滅を喜んでいるのですが、それ以上に、三種の神器の宝剣と帝を失ったことがこれからの朝廷対策の痛手になることを悔やんでいて、ここからも彼が「武将」というより「陰謀」型の政治家であることを示しています。

そして、彼の傍で策略を考えているのが北条義時で、すでにダークな雰囲気をまとっています。

この時の「政子」は頼朝たちのめぐらす策略を傍観している風情で、まだ政治闘争の真ん中へはでていませんが、頼朝のそばにいて、義経の没落・討死や奥州藤原攻めの状況を見聞きして、だんだんと、政治色を増していっていて、それは、後白河院をはじめとする当時の宮廷勢力との政治的な駆け引きや暗闘を通じて開花していく様子が斬新です。

政子の政治的な才能や陰謀力は、頼朝が「老耄」、おそらくは若年性認知症を発症したために、比企能員や梶原景時たちに政権を牛耳られ、北条が狙われるのを排除しようとするところから、より磨きをかけられることになります。

そして、最終的に、比企や梶原といった敵対勢力を排除するために彼女がとった手段は、ということで、頼朝の落馬による急死の謎が明らかになっていきます。

「夜叉の都」のあらすじと注目ポイント

「夜叉の都」の構成は

第一章 王位を継ぐ者
第二章 雅なる将軍
第三章 月満ちる日々
第四章 罪多き女
第五章 尼将軍

となっていて、物語は頼朝が死去し、頼朝と政子の間の侍女・三幡も亡くなったところから、後鳥羽上皇たちのおこした承久の変に勝利し、さらに弟の執権・義時の急死後の伊賀の乱を鎮圧するまでが描かれます。

今巻の冒頭では、既に二代将軍・頼家との間には隙間風が吹き始めたいたようで、鎌倉府を守るために、大姫や三幡を無理やり入内させようとしていたのが根底にはあるようですが、もちろん頼家派である比企や梶原の影響があるのは間違いないですね。

しかし、この後、北条をターゲットにして追い落としを図る梶原や比企が、北条義時や昌夫たちの陰謀によって逆襲されていくのですが、頼朝の実子で二代将軍であることで危機感の薄かった頼家もまたその渦に巻き込まれていきます。

このあたり、「鎌倉府」というより自らの一族の安全を守ろうとする北条一族の「防衛本能」というのはすさまじいものがありますね。

そして、その防衛本能は、梶原景時や比企能員の誅殺にとどまらず、畠山重忠や和田義盛へと及んでいくのは大河ドラマでも描かれると思うのですが、本書では、政子が最初守り抜こうとした三代将軍・実朝が、後鳥羽上皇が主導する朝廷勢力と結ぼうとしたことで、実朝も義時たちによって踏みつぶされていきます。ここらへんは、大河を上回る「ダーティー義時」が登場してくるので、小栗旬ファンは感情移入しないほうがいいかと思います。

そして、鎌倉政権を潰そうとしてきた後鳥羽上皇たち朝廷勢力+版鎌倉武士たちを粉砕するため、政子が尼将軍として立ち上がり・・というには定説の日本史どおりなのですが、承久の変の後、勝利に奢って、専横を極め始める義時の急死や、その後の伊賀の局たちの政権転覆未遂の鎮圧に政子が深くかかわっていたとするのは斬新ですね。

うーむ。ここで夫とつくった鎌倉府を守るためにどんなダーティなことにも躊躇しない「尼将軍・政子」の完成ということかもしれません。

レビュアーの一言

同じ「北条政子」を扱った永井路子さんの作品「北条政子」では、「女性」「母」「祖母」といった側面が強調されてるのと、三浦義村がダーティーな謀家家として描かれているのとは対照的に、この作品の「政子」はいろいろ悩んではいるものの、もっと逞しく、もっと陰謀家で、三浦義村より北条時政や義時のほうが数倍、悪党に仕上がっています。

幕府創設の功臣や歴代将軍が不自然な死を遂げた鎌倉時代初期のことなので、誰が善玉で誰が悪玉か入り乱れているところはあるのですが、「陰謀渦巻く歴史小説」のお好きな方にはおススメの「鎌倉もの」です

コメント

タイトルとURLをコピーしました