美庭園にはナチスから逃れた少女の犯罪が隠れている=深緑野分「オーブランの少女」

第二次大戦のヨーロッパ戦線で、アメリカ軍空挺部隊のコック兵を主人公に、戦場の「日常の謎」が解き明かされるミステリ小説「戦場のコックたち」を展開してみせた筆者による、「少女」にまつわる5つの謎を描いたミステリが本書『深緑野分「オーブランの少女」(創元推理文庫)』です。

「戦場のコックたち」の舞台となったフランスのほかイギリス、アメリカ、日本と北欧といった世界各地を舞台にした短編集です。

あらすじと注目ポイント

収録は

「オーブランの少女」
「仮面」
「大雨とトマト」
「片想い」
「氷の皇国」

となっていて、「オーブランの少女」は第七回ミステリーズ!新人賞佳作に入選した筆者のデビュー作でもあります。

第一話目の「オーブランの少女」の舞台は、ナチスドイツによる占領から解放されて50年ぐらい経過したフランスです。「オーブラン」という名前の広大な庭園の管理をしていた老婦人の一人が頭を叩き潰されて殺されているのが発見されるところから物語は始まります。その老婦人は足が不自由なため、車椅子を利用しながら、妹と名乗る口のきけない女性と二人で、この庭園の管理をして暮らしていたのですが、庭園の奥にあるプールサイドからつながった下水道あとに監禁され、精神に異常をきたしていた、これまた老女によって殺されるという「老婆による老婆殺し」です。

事件自体はセンセーショナルだったのですが、事件の背景を何もわからないまま3年が過ぎた時、この殺人の第一発見者となった幼女の父親が、その娘から事件の被害者の妹(この妹も事件のすぐあとに自死したのですが)から託されたという手記を手に入れます。それを読むと、その事件に隠されていた、ある秘密が明らかになり・・という展開です。

その手記には、マルグリッドと名づけられた、血液に疾患をもつ少女が、両親から引き離されて、「オーブラン」にある療養所へとつれていかれ、そこで手足が不自由であったり、マルグリットと同じように難病を抱えた少女たちと一緒に集団隔離生活をおくることとなります。

オーブランでは、食事や教育も提供される安全な暮らしが提供されているのですが、肉親をはじめ外界との接触は一切できない環境です。マルグリッドはそこで足の不自由な「ミオゾティス」という少女と仲良しになるのですが、ある日、カメリアという名の少女が木苺ジャムに入れられた砒素中毒で死ぬという事件がおきます。

それは、オーブランに居住している少女たちが、ある人物によって惨殺されていく事件の予兆でもあったのですが・・という展開です。

第二次世界大戦当時におきた、ナチスドイツのユダヤ人狩りに関連した悪夢が描かれ、それが冒頭の老女殺人事件につながっていくのですが、詳細は原書で。

第二話の「仮面」の舞台は、作中に「あったかいプランペット、焼きたてのクランペットが四個で一ペニーだよ」や「大英博物館を通り過ぎて」という表現があるので、イギリスのロンドンですね。

ここで繁盛していない開業医だったアトキンソンが、キャバレーの売れっ子少女ダンサー「リリューシカ」に魅せられて、彼女が出演するキャバレーの常連となります。しかし、キャバレーの支配人・バルベルが急死し、その商売を引き継ぐ気のないバルベルの妻「ベツィ奥様」はそこを売り払って「婦人会」に寄付し、リシューシカたち芸人はほかへ売り飛ばすつもりだという噂を聞きつけます。

「リリューシカ」を救うため、彼女の姉で「の小間使いをしている「アミラ」の手引きで、アトキンソンは「ベツィ奥様」を毒殺するのですが、そこには「アミラ」と「リリューシカ」の悪だくみが隠れていて・・という展開です。

醜い風貌で、「ベツィ奥様」に虐げられているような風情の「アミラ」の意外な凶悪さに物語の最後に驚くと思います。

このほか、アメリカの片田舎の安食堂に、嵐の夜、一人の少女が来店します。彼女は父親を探してこの町にやってきたというのですが、その食堂の店主兼コックの男が16年前に食材探しで訪れた南の町で浮気した女性とよく似ていて・・という「大雨とトマト」、東京の寄宿制の女学校に通う、群馬の大農家の娘で、がっしりとした体格で男のように背の高い「岩本薫子」と言う女学生が、長野の銀行家の娘で可憐で内気な「水野環」という女性と同室になります。環の入院中だった父親が退院するという報せを実家の乳母がもってきたあたりから、彼女の行動が不審になっていくのですが、そこにはある秘密が隠されていて、という「片想い」や、北欧のかつて強盛を誇っていた国でおきた、後継ぎの王子の毒殺事件の犯人の濡れ衣を王女によって着せられそうになった二人の少女の潔白を、国王から疎んじられている皇后が証明していく「氷の皇国」が収録されています。

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レビュアーの一言

時代設定的には、最終話の「氷のを皇国」を除き、第二次世界大戦前後と思われる作品が多いのですが、それぞれのお国柄の違いというか、雰囲気がそれぞれに異なるのが特徴です。個人的には、最近読んでいる「大正オトメ」や「昭和オトメ」や長田佳奈さんの戦前昭和シリーズの雰囲気に近い「片想い」の昭和の女学生のリリカルさが好みです。

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