デジタルネイチャーの世界の新しい「介護」を探る=「落合陽一 34歳、「老い」と向き合う」

新型コロナウィルスの感染拡大で、ビジネス領域でも一挙にデジタル化の波に席捲されるか、という雰囲気もあったのですが、重症化率も下がり、感染にも人々が慣れてくると、「リモートワーク禁止」や「対面復活」といったコロナ以前の業務環境に戻ろうとする動きが出てきています。

そうした中、コロナ前と後で、全く変化することなく、DX、デジタル化の波から外れていると思われるのが「介護」の世界です。そんな介護業界に、テクノロジーの研究者、メディア・アーティストとして活躍中の現代のオピニオン・リーダー「落合陽一」さんが、テクノロジストの観点から「老い」「介護」について考察したのが本書『落合陽一「落合陽一 34歳、「老い」と向き合うー超高齢社会における新しい成長」(中央法規)』です。

注目ポイントはここ!

構成は

序章 デジタル化する自然の中で、「生」と「死」はどう変わるか?
  【特別対談:養老孟司×落合陽一】
第1章 発展するテクノ理事ーと変わる「老い」
第2章 ここまで進展した「介護テクノロジー」のいま
第3章 少子高齢化社会の日本が起こす「第4次産業革命」
第4章 人にとって優しいテクノロジーとは?ー求められるハッカブル
第5章 誰もがクリエーションできる未来へー勃興する「テクノ民藝」

となっていて、本書の底テーマは、コンピュータとそうでないものが親和することで再構築される新たな自然環境「デジタルネイチャー」が世界中に浸透していく中で、「老い」はどうなるのか、ということ。それに伴った「老い」をサポートする「介護」とそれを支えるテクノロジーとビジネスの現状と未来がテーマとなっています。

ただ、現実問題として、介護の現場で「テクノロジー」が浸透しているかというと、少しながらではあるのですが福祉業界に関わっている当方からみると、その度合いが少ない上に、介護の仕事に携わる人に拒否感すらあるように思えています。おそらく、それは経費の面だけではなく、筆者も指摘しているように

老人ホームの介護に代表される「人の手で行われる温もりのある補助」こそが介護だと感じている人が多いかもしれません。

といった「意識」の面が大きいような気がしていて、ここはテクノロジーを導入するにしても、今までの工業的世界のような効率性一辺倒ではうまくいかないことが容易に想像できます。筆者はここのあたりを

介護現場は生活すべてを網羅するツールを必要とするため、操作性だけでなく、「気持ちよく使える」ユーザビリティの追求をしていかなければならないと考えています。そのためには、テクノロジーを一人ひとりに最適化されたかたちで提供しなければなりません

と表現していて、介護におけるテクノロジーが今までの「マスプロダクト」的な機械化ではうまくいかないことを喝破しています。

こうした認識をもとに、第二章や第三章では具体的に今動いている介護テクノロジーやビジネスの現況が紹介され、将来展望がされていくのですが、そこでは、「網膜に直接映像を投影することで、視力に関係なく物体が見えるようになるディスプレイデバイス」や「サイボーグ義足・パワードスーツ」といったものから、「人とコミュニケーションをとってくれるロボット」まで多種多様です。

おそらくこうしたテクノロジーが当たり前に生活の中に入ってくれば、現在主流ともいえる「入所」形式の介護業界は大変化に見舞われるのだろうな、と思ってしまいます。

そしてそれは、筆者によると

「老い」がパラメータ化した時代、「介護」は不要になってしまうのでしょうか?

僕はそうは思いません。結論からいえば、介護の役割は「ライフコーディネート」になると、僕は考えています。医療とテクノロジーで大部分がカバーできるようになったとき、介護職は「コミュニティの中で共に生きる」仕事になると思うのです。

ということで、「介護職」の位置づけや役割が今までとは変化してくるということでもあるようです。

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レビュアーの一言

変化するようで変化してこなかったのが「介護」の世界であるように思うので、筆者の予言どおりの動きとなるのかは未知数ですが、効率化だけではない、「介護」のテクノロジー化のアイデアが非常に新鮮なのが本書です。「えー、機械化・・」と及び腰の介護職や福祉関係者に読んでいただきたい本ですね。

さらに、冒頭の「序章」での筆者と養老孟司さんの対談は、全てのものがデジタルに繋がり、ネットワークとなる時代の「生」と「死」、そして「老い」についての新たな知見が得られる興味深い対談になっていますので、テクノロジー不信の人もこの対談は見逃さないほうがいいでしょう。

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