田丸と吉敷は洞窟を脱走し、アメリカ軍へ投降。ペリリューの戦い、終わる=武田一義「ペリリュー」8~11

大東亜戦争中の1994年9月15日から11月27日のおよそ2ヶ月間に渡って、現在のパラオ共和国のに属するペリリュー島で、日本軍守備隊一万の兵士とアメリカ軍上陸部隊四万の兵士との間で繰り広げられた、太平洋戦争屈指の戦闘といわれた「硫黄島の戦い」へと続いていく南洋諸島戦線での代表的な戦闘を、日本軍に従軍していた作者の祖父からの聞き語りをもとに描かれる『武田一義「ペリリュー 楽園のゲルニカ」(白泉社)』シリーズの第8弾から最終巻の第11弾まで。

ペリリュー守備隊本部が総自決後もジャングルに潜伏し、反撃のチャンスをうかがっていた島田少尉率いる日本軍残留部隊に加わっていた田丸と吉敷だったのですが、日本本土では終戦を迎え、ペリリュー島のアメリカ軍の防衛体制や島民の様子にも変化が出てくる中、残留日本軍にもほころびが見えてくるのが今回です。

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あらすじと注目ポイント

第8巻 田丸たちの潜伏が続く中、ニーナやケヴィンたち旧島民の帰還始まる

第8巻の構成は

第56話 ペリリュー 昭和21年秋
第57話 もしかして
第58話 だとしたら
第59話 WAR ENDS
第60話 生きる希望と絶望
第61話 日常の中の悪夢
第62話 吉敷佳助
第63話 違う道

となっていて、アメリカ軍の掃討作戦をかいくぐり、田丸たちが島田少尉たちと潜伏生活に入ってから1年半が経過しています。年代的には昭和21年になっていて、日本本土では終戦からほぼ1年が経過しようとしています。
残留日本軍が潜伏している洞窟では、アメリカ軍から盗み出した食糧や弾薬の貯蔵は増える一方なのですが、彼らが待ち望んでいる、日本軍の反転攻勢の動きは全く見えず、だんだんと士気も緩んできています。

そんなときに起きたのが、アメリカ軍による旧島民のペリリュー帰還で、この中には田丸たちと一時期生活を共にしたニーナとケヴィンも含まれています。

このあたりから、残留日本軍の兵士の中には、すでに戦争が終わっているのでは、という疑問を持ち始める者もでてきて、アメリカ軍のキャンプから盗んでいた古新聞や古雑誌には日本が降伏したことと戦後の日本の復興の様子もでているのですが、島田少尉たち主戦派は、この事実を認めず、むしろアメリカ軍のプロパガンダだと頭から否定してかかります。
このあたり、思想に裏打ちされた「妄信」ほど、情報をはねつけるものはないのだな、感じさせるところです。

島民の帰還は残留日本兵に間にも妙な動揺をもたらしていて、兵士の一部が村人の中の女性に接触しようとしたところから、アメリカ軍の警戒を呼び覚ましてしまうことになります。
そして、古新聞や古雑誌に書かれたことが単純に「プロパガンダ」だと片づけられない吉敷はある決断を下します。それは、島田少尉たちの行動を真っ向から否定するもので・・という展開です。

第9巻 アメリカ軍の掃討に追いまくられて、田丸と吉敷は残留部隊に復帰する

第9巻の構成は

第64話 指揮官②
第65話 どうか
第66話 プリーズ
第67話 戦いは終わらず
第68話 捜索網の下で
第69話 台風
第70話 狂熱
第71話 仲間たち

となっていて、前巻で日本が降伏し、戦争が終わっていると考えて、アメリカ軍に投降しようとした吉敷と田丸は島田少尉たちに捕縛され、洞窟内に監禁されてしまいます。旧陸軍刑法に従えば、アメリカ軍に投降しようとするのは逃亡と反乱の罪に該当し、死刑にあたり、主戦論の強硬派の片倉兵長は二人の処刑を主張します。さて、二人の運命は?というところなのですが、少しネタバレしておくと、島民から日本兵の情報を得たアメリカ軍が捜索にやってきて島田少尉たちと戦闘になります。考えてもいなかった襲撃にアメリカ兵は退き、田丸たちも戦争が継続していることを認め、ひとまず隊への復帰を認められます。

アメリカ軍に一泡ふかせて意気揚々の島田少尉たちなのですが、これは旧日本軍の残兵が数多く残って抵抗をしようとしていることをアメリカ軍に知らせることとなり、この探査と掃討のためにグアムに駐屯していた一個大隊が派遣されることになってしまいます。まさに「藪をつついて蛇を出す」状態になってしまったわけですね。
しかし、残留日本兵たちの多くはこれには気づいていないようです。

一方、吉敷と田丸は隊への復帰は認められたものの、一回、仲間を裏切っているため、監視の意味もこめて洞窟内で病兵の世話をすること命じられていて、洞窟の外へは一歩もでることをゆるされていません。さらに、片倉兵長は未だに彼らが隙をすくれば脱走すると考えていて、部下たちに見張りを続けさせています。
そんな折、隊から離脱していた小杉伍長が残留兵たちに差し入れた燃料用亜ルールの入った酒を呑んで、兵たちの多くが行動不能に陥るのですがそのすきをみて、吉敷と田丸が再び逃亡を企て・・という展開です。

第10巻 田丸はアメリカ軍基地へ辿り着く。そして、残留日本軍はどうなる?

第10巻の構成は

第72話 脱走①
第73話 脱走②
第74話 脱走③
第75話 脱走④
第76話 投降
第77話 田丸均
第78話 戦場の匂い
第79話 残りし者、残されし者

となっていて、残留兵の洞窟を脱出した田丸と吉敷に島田少尉たちの追手がかかります。島田少尉たちは燃料用アルコール入りの酒で行動が不自由になっているのですが、一番の脅威は酒を呑まずに歩哨に立っていた片倉兵長です。彼の銃のスコープが吉敷たちをとらえるのですが、そこで、近くに潜んでいた小杉伍長と撃ちあいになり・・という筋立てです。

一方、田丸と吉敷は、島田少尉たちの追跡をかわしながらアメリカ軍基地に迫ろうとするのですが、彼らに捕縛されるのは次巻の問題です。ここで、吉敷が彼らの裏をかいて、あえてアメリカ軍基地から遠ざかり、島の反対側の島民たちの村へ向かい、しこへ身をかくすという提案をします。これは見事に成功したかと思われたのですが、吉敷たちの考えをトレースしていた島田少尉が本体から離れて村の近くで待ち伏せしていて・・という展開です。
島田少尉と吉敷とのバトルの結果は原書のほうでお確かめを。

後半部分では、アメリカ軍に投降した田丸が、未だ洞窟内に潜伏している旧日本兵たちのもとへ投降を勧めていくくだりと、固まるたちがペリリューを離れていく様子が描かれているのですが、ここはいろんなことが詰まってますので、しっかり味わいましょう。

第11巻 田丸たちは日本へ帰国し、それぞれの戦後を生きる

第11巻の構成は

第80話 鎮魂(ペリリュー2017/東京2015)
第81話 鎮魂(日本1947)
第82話 鎮魂(筑波1948)
第83話 鎮魂(水戸1948)
第84話 鎮魂(ペリリュー1972)
第85話 鎮魂(ペリリュー1975)
第86話 鎮魂)日本2016)
第87話 鎮魂(ペリリュー2017)

となっていて、このシリーズの主人公である「田丸」たちがペリリュー島へ従軍してから3年ぶりに日本へ帰国するシーンが描かれています。すでに終戦から2年経っていて、引揚船には出迎えもなく、帰国船の船員や援護局の役人に、パラオの日系アメリカ兵が餞別でもたせてくれたアメリカ製の缶詰や軍服や支給品を騙し取られるという世知辛い「歓迎」です。

戦友たちと別れ、水戸で食堂をバラックの闇市で再開している両親のもとへ帰った田丸は、店の物資趙達の合間を使って、戦死した戦友たちの家を尋ね、その時の様子を知らせる旅を始めます。
実は、吉敷くんの家を訪問した時に、ある出会いがあるのですが、これは「外伝」のほうへ譲ったほうがよいようです。

遺族の境遇はそれぞれで戦死者の夢を受け継いでいく遺族あれば、戦後のどさくさに紛れて物資の横流しで人財産つくっている軍隊の高官もいる、といった感じなのですが、詳しくは原書のほうで。

後半部分は終戦から30年ぐらい経過したところで、ペリリューを訪問した田丸が、ニーナや島へ残留した島田少尉に再会を果たしています。彼からも、吉敷の遺体がなくなっていた理由ははっきりとは聞けないままになっています。

さらにはさらに70年後、高齢となって動けなくなった「田丸」に代わってペリリューを訪れる孫の「後村」の遺骨収集の様子であるとか、最後まで洞窟に立てこもっていた片倉兵長のエピソードが語られるのですが、詳細は原書で。

レビュアーの一言

今回で、太平洋戦争でも激戦の一つといわれる「ペリリューの戦い」の一応の完結です。
この物語では、戦記物によくでてくる味方の兵士を救う「英雄」は登場して来ず、かといって戦争の悲惨さ、グロテスクなところだけが強調されるのでもなく、「普通の人」が経験した「戦争」が描かれています。

なので、「普通」のアメリカ軍の兵士が、日本兵の死体から「金歯」を奪う蛮行を行いますし、「普通」の日本兵のほうもアメリカ兵の死体の口に性器を咥えさせて辱めるような行為も行うシーンもでてくるのですが、それらも含めて「戦争」というものなのでしょうね。

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