格安宇宙モニターツアーで起きた無重力首吊り殺人の謎を解け=桃野雑派「星くずの殺人」

宇宙旅行を目標に掲げる宇宙ベンチャー企業が募集した、お一人様料金「3000万円」の格安民間宇宙旅行のモニターツアーの客や添乗員たちが、憧れの宇宙ホテルで発見したのは、無重力空間で「首吊り」をして死んでいるパイロットの姿だった・・ということで、中国の南宋末期を舞台にした中華ミステリーで江戸川乱歩賞を受賞した筆者が贈る受賞後第一作の密室ミステリーが本書『桃野雑派「星くずの殺人」(講談社)』です。

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あらすじと注目ポイント

構成は

第一章 HOPE!!
第二章 宇宙ホテル星くず
第三章 こわれもの
第四章 さらば星くず

となっていて、冒頭は、この物語の語り手となる宇宙ツアーの添乗員・土師穂希が、一人前料金3000万円の格安ツアーに参加した6人の乗客とともに、宇宙空間に浮かぶホテル「星くず」を目指して飛び立つところから始まります。

少し説明しておくと、主人公の土師は大学院の博士課程まで修了しながら、就職氷河期のために職を転々とした末に、小さな宇宙ベンチャー企業に就職し、今回、モニター旅行として企画された旅に副機長兼添乗員として乗り込んでいます。

宇宙旅行はすでにアメリカやヨーロッパの大企業が手掛けていて、事業としては先駆者性は薄いのですが、今回のモニター旅行で格安で宇宙を旅できると実証すれば、宇宙ステーションや宇宙空間上の研究施設への物資や人の格安輸送の道も開ける、経営基盤の脆弱なベンチャー企業としてはなんとしても成功させないといけない、社運をかけたプロジェクトです。

なので、万に一つでもツアーに傷をつけるようなことは防がないといけないのですが、宇宙ホテル「星くず」にドッキングし、乗客をホテルへ送り込んだところで、宇宙船の操縦士をしている「伊東」が無重力空間の倉庫の中で「首を吊って」死んでいるのが発見されます。

地上から警察がやってくるのを待とうとするツアーのクルーと乗客、そしてホテルの従業員なのですが、ホテルと地上とを結ぶ通信設備が壊れて動かない状態となり、いわば「空」の孤島状態となってしまいます。

さらに、今までの待遇への不満から、脱出用ポッドの半数を使って、ホテルの従業員たちが地球へ脱出してしまい、土師たちはホテルの運営責任者と6人のツアー参加者とともに、宇宙ホテルへ取り残されることになり・・という筋立てです。

首を吊って死んだ伊東の首には首を誰かに占められてときに抵抗してできる「吉川線」はできておらず、自殺が一番有力なのですが、そうすると無重力状態でどうやって首を吊ったのか、という疑問が残ります。また他殺だとすれば、ツアーの途中で操縦士を殺した犯行の理由は?と数々の謎が産まれてきます。

土師は、ツアーに無料招待で参加している京都の女子高校生・真田周とともに謎解きと聞取りを始めるのですが、参加しているツアー客は冤罪で長期間収監され、家族関係も破壊されたことから世間に恨みを抱いている男・澤田や、地球平面説を実証しに宇宙にやってきた大金持ち・政木、世界各地の紛争のアドバイザーをやっている元NGO職員・山口など様々な経歴をもっている人物ばかりで・・という展開です。

この後、通信設備が壊れているため、宇宙空間に出てイリジウム電話で地球に連絡をいれた土師の携帯に、地球から「危険だからまだ戻るな」というメールが入ってきたり、冤罪の被害者で警察に恨みを抱いて乗船してきた「澤田」が二酸化炭素で窒息死させられそうになったり、山口の部屋に入ろうとした土師が電気スパークで弾き飛ばされたり、と次々と宇宙ホテルにいる人間が襲われていきます。

伊東の死は自殺ではなく、他殺なのか?犯人の目的は何なのか、宇宙空間を舞台にしたミステリーをお楽しみくださいね。

レビュアーの一言

第一作の「老虎残夢」では、南宋末期の海の中の孤島の、さらに島の中の湖の中にある小島でおきた殺人、という二重の密室を創り上げた筆者なのですが、今回は宇宙空間につくられたホテルを舞台にして、ツアー関係者以外のホテルの従業員は全員逃げ出し、地球からの救援もやってこないというシチュエーションで、奇想天外な「クローズドサークル」をつくりあげてくれました。

さらに前作は登場人物のほとんどが武道関係者という「カンフー・ミステリー」だったのですが、今回は犯行に使われる凶器も、二酸化炭素あり、電気スパークありの「科学ミステリー」仕立てになっています。

しかも、容疑者となるツアーの乗客たちの経歴が掘り起こされてみる、いずれも「陰」と「屈折」を抱えた人ばかりで、その抱えた過去のトラウマと犯行の奇想天外さがいいコントラストをつくっています。
こうなると、筆者の次回作はどこに「密室」をつくりあげていくのか、それ自体が愉しみになってきますね。

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