ケンが備中より引き返す中、光秀は本能寺へ=梶川卓郎「信長のシェフ」36

現代からタイムスリップをしたフレンチのシェフが、織田信長の専属料理人となり、その後、信長の家臣として、彼の天下統一に「料理」をもって協力していく歴史フィクションマンガ『梶川卓郎「信長のシェフ」(芳文社コミックス)』シリーズの第36弾。

前巻では、信長を襲撃するのが、彼の一番の忠臣と思われてた「明智光秀」であることに気づき、この情報を中国攻めで毛利と対峙している秀吉に伝えて援軍を頼むとともに、光秀の監視網をかいくぐって信長に伝えようと走る「ケン」だったのですが、今巻ではとうとう「本能寺の変」が勃発してしまいます。

あらすじと注目ポイント

第36巻の構成は

第294話 謀反人
第295話 届け簪
第296話 最後の手段
第297話 追いついた背中
第298話 朝もやの行軍
第299話 この時代に生きる意味
第300話 届かぬ思い
第301話 自責

となっていて、冒頭では明智光秀が本能寺で信長を急襲しようと兵を動かし始めたことを知った「ケン」とそれを知らされた隠密の「楓」、そして「ケン」へ鍋を返そうとする「望月」と三者それぞれが京を目指して進んでいます。

しかし、京都への出入りを厳しく監視するよう敷いた光秀の監視網は厳しく、楓は閉じられた関所に入京を阻止され、洛中のはずれの市まで行くのが精一杯ですし、関所を避けた望月は山中へと迷い込み、ケンは豊臣秀吉に光秀謀反の情報を伝え、兵を返してもらうよう頼むことに成功したものの、京から遠く離れた備中から引き返しのため、相当の時間を使っています。

さらに、ケンが自らの企みの妨害にでることを察知した光秀によって「謀反人」として指名手配までされていて、ここをどうかいくぐって京都へ入るか、っていうのが前半部分の注目ポイントとなりますね。

少しネタバレしておくと、関所に入れなかったため、山中の迂回路を選択した「ケン」は偶然にも亀山城から山陰道を通って京都へ向かう明智光秀の軍勢に出会う事ができ、そこで行軍の一番しんがりにつけている光秀を見つけることができたのですが、これは光秀の想定内であったようです。

さらに、「料理」とそれに伴う「交渉術」で、信長の天下統一を助けてきていたため、「武術」にはからっきしだった「ケン」の弱点もここで現れています。

そして、巻の後半では、斎藤利三率いる先鋒隊と合流した光秀がついに出陣の命令「敵は本能寺にあり」と大声で宣言します。ここで注目しておきたいのは、光秀配下の兵士たちが信長への謀反ではなく、「これよりの戦は全て上様の御ためである」と考えていた、とこのシリーズでは解釈しているとことです。

確かに、この時点で、日本最強の軍隊を統帥していたのは「織田信長」で、その苛烈さに畏れる人はあっても、反乱しようと考えているのは毛利とか長宗我部、島津とかの敵方だけで、織田配下の将兵がそんなことを考えているはずもありません。

その敵方も、浅井・朝倉、武田といった戦国時代を代表する大名や、石山本願寺を敗退させた「信長」の前にはいずれ膝を屈するだろう、というのが当時の一般的な認識だったと思います。

そういう情勢の中で、配下の将兵に、「信長への謀反」と思わせずに本能寺を急襲させた光秀の采配と用兵術は見事というしかないですね。

これに対して、下手をうったと考えざるをえないのは、信長の跡継ぎ・織田信忠で、彼は父・信長の起居する本能寺近くの妙覚寺にこの日は宿泊しています。

中国の大大名・毛利がもう少しすれば:屈服し、四国の平定も近く、天下統一も間近、という油断もあったのでしょうが、堺へ戻らず、京へ居残っていた信忠の行動には「将器」というものを疑わざるをえませんね。信忠は勇猛な武将であったとされているのですが、智将と言う点ではどうかなー、というところでしょうか。

本巻は、ひとまず光秀の本能寺攻めのところで終わっていますので、戦後処理、さらには京へ秀吉が大返しを行う中、天下の行方はどちらに、といったところは次巻以降となります。

レビュアーの一言

本巻の最後では、本能寺を攻める斎藤利三の前で、信長は寺に火をつけ、光秀に「残念であったな」と伝えろと言って焔の中へ入っていきます。

史実でも、この後、寺の中で自害したと推測される信長の遺体は見つからず、信長の生死は厳密には不明のままとなっています(ここらが、信長の亡命説につながってもいるのですが)。そして、信長の遺体が見つからず、生死がはっきりしなかったことが、光秀側と思われていた細川や筒井といった武将たちが光秀側につかなかった理由ともされているので、この信長の発言はこれを予告しているものと思われます。

案外、この信長の行動が、ターニングポイントだったのかもしれません。

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