地政学コンサルは南アフリカのゲーマーやサウジのアイドルを見出す=「紛争でしたら八田まで」13・14【ネタバレあり】

目まぐるしく動く国際情勢や、他国人にはわからない民族対立が原因でおこる様々な揉め事を、「地政学」的チセイと、無鉄砲な行動力+プロレス技で解決していくリスク・コンサルタント「八田百合」の活躍を描く、紛争解決マンガ・シリーズ『田素弘「紛争でしたら八田まで」(モーニングコミックス)』の第13弾と第14弾。

前巻の後半で、同じコンサルタント会社に勤務する台湾出身のアレックスの祖父が病床で口にした「人形を捜してくれ」という依頼を受けて、彼が若い頃、人形劇の活動をしていた古い学校の捜索をはじめたユリだったのですが、今回はその謎解きがされるとともに、南アフリカやアメリカのバーニングマン・イベントに潜入することとなります。

あらすじと注目ポイント

第13巻 台湾の鄭成功人形捜索の依頼を片付けた地政学コンサル・ユリは南アフリカのゲーマー発掘に乗り出す

第13巻の構成は

第103話 台湾、ヒストリー&アイデンティティ④
第104話 台湾、ヒストリー&アイデンティティ【完結】
第105話 南アフリカ、ゲートとゲーム①
第106話 南アフリカ、ゲートとゲーム②
第107話 南アフリカ、ゲートとゲーム③
第108話 南アフリカ、ゲートとゲーム【完結】
第109話 異世界奔走、バーニングマン①
第110話 異世界奔走、バーニングマン②

となっていて、前半は前巻に続いてのアレックスの祖父からの依頼の「鄭成功の人形捜し」です。

第二次大戦で日本が敗れた後、国民党による戒厳令下で民族芸能である人形劇「布袋劇」を上演して人形師として成功し、戒厳令が解除された1990年代以降はその活動を休止した彼の過去に封印された学校時代の親友と、大陸からやってきた外省人と台湾出身の本省人との複雑な政治情勢との関係が明らかになってきます。

中盤の舞台は「南アフリカ」です。日系企業のマーケティング調査を依頼されたユリは南アフリカのレストランでボボディやチャカラカといった現地料理に舌鼓をうっているところを現地の集団窃盗犯にバッグを盗まれ、追いかけていった先に出会ったのが「タウンシップ」と呼ばれている半スラム街で、オンラインゲームの世界大会で優勝して名をあげようとしている「ターボ」という黒人青年で、という筋立てです。依頼を受けている日系企業の広告マーケティングとして、ターボのスポンサーとなって低所得層にアピールするプランを組み立てるのですが、そのターボのライバルとしてでてくるのが、南アフリカ有数の銀鉱の頭取の息子・ハースブルックです。

一見すると、南アフリカの階級対立がeスポーツの世界でも再現されるか、というところなのですが、ハースブルックがオランダ系の「アフリカーナ」であることから物事はそんな単純な構図ではなくなって・・という展開です。

eスポーツの大会が開催されるアメリカのラスベガスで、ゲーム途上国である南アフリカ出身の二人がどんな活躍をしていくか、は原書のほうで。ちなみに決勝の相手は、大手飲料メーカーをスポンサーにつけ、資金も豊富な中で腕を磨いてきた前チャンピオンの日本の選手ですので、勝負の行方が気になるというものです、

後半部分の舞台はそのまま、アメリカ。ネバダ州のブラックロック砂漠で毎年開催される「バーニングマン・イベント」にやってきたユリの目的は、このイベントに毎年お忍びで参加している、アメリカのテック企業「オレンジシード」のCEO「シドニー・ウェスト」との接触です。ユリの依頼者はウクライナの副首相のアドバイザーをしている、かつての同僚で同級生の「オクサナ」。ウクライナが現在利用している「スペースX」への依存を下げるため、オレンジシードの持つ人口衛星の通信網を利用するため、CEOと接触しようということなのですが、変わり者でメディア・政治嫌いのシドニーはオクサナの連絡を無視し続けています。

そこで、彼との面会のセットが「ユリ」へオファーされたというわけで、ユリはバーニングマンの会場で名前を隠してイベント内イベントを開催している彼に姿を見つけるのですが・・といった展開です。

第14巻 地政学コンサル・ユリは砂漠レースに参加した後、サウジのアイドルを見出す

第14巻の構成は

第111話 異世界奔走、バーニングマン③
第112話 異世界奔走、バーニングマン④
第113話 異世界奔走、バーニングマン【完結】
第114話 サウジアラビア、少女の夢と偶像①
第115話 サウジアラビア、少女の夢と偶像②
第116話 サウジアラビア、少女の夢と偶像③
第117話 サウジアラビア、少女の夢と偶像【完結】
第118話 イギリス、フットボール&ルール【前編】

となっていて、前半はアメリカ・ブラックロック砂漠でのバーニングマン・イベントでのお仕事の解決編です。

オクサナからの「オレンジシード」のCEOシドニーとの面談のセッティングの依頼をこなすため、シドニーがイベント内イベントとして開催する、日没まで相手を妨害しながら砂漠を地平線まで車を走らせ、最後まで完走できなものが勝利者となる砂漠レースに参加するのですが・・という展開です。

政治嫌いで、どの国の政府や軍にも衛星通信サービスを提供してこなかったシドニーを翻意させられるかどうか、は原書のほうで。

中程の舞台は「サウジアラビア」です。サウジアラビアの若きリーダー「ムハンマド・ビン・サルマーン皇太子」が国を石油依存経済から脱出させるため進める「未来都市・フルム」内に建設される巨大イベントスペースのイベント・プロジェクトの責任者アマルのサポートに入ります。

伝統的なイスラム価値観が強いサウジアラビアでヒジャブを浅く頭、明るい色のアバヤを身につける彼女は保守層から疎まれながらも、若年層には人気がある、というサウジアラビアの政治的な課題を煮詰めたような存在なのですが、そのアマルの姉の家庭で、日本への留学経験のある姪「ハナディ」がアバヤ姿で舞う姿を自らネットにアップする、というトラブルを起こし・・という展開です。

少しネタバレしておくと、メイド・イン・サウジアラビアのアイドルの出現にユリたちは立ち会うこととなるのですが、その詳細は原書で。

レビュアーの一言

このシリーズも2019年から連載が始まり、コミックスも14巻目となったのですが、その一方で、国際政治情勢はますます混迷し決着が見えない状況となっていて、シリーズの最初のほうでロシアへの抵抗組織を組織させたウクライナも紛争が膠着し、今回は「スペースX」問題に代表されるアメリカ・ヨーロッパの支援疲れ問題に直面していて、このあたりが国際政治コミック、地政学コミックの難しさですね。

さらに、今回の最後ではイギリスの少年サッカーにも新たな問題が生じているようで、そろそろユリの故郷・日本やシンガポールあたりでも何か起きてくるかもしれませんね。

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