絶滅した二ホンオオカミ研究者を襲った人狼の正体は?=内藤了「BEAST 警視庁特捜地域潜入班・鳴瀬清花」【ネタバレあり】

DVによって妻を殺害し、息子に重傷を負わせた犯人に精神を徹底的に痛めつける尋問を行い、勾留中に自死させた責任をとらされて、警察庁の中に新設された捜査はするが逮捕はしない特務班に左遷されたヤリ手の女性警察官・鳴瀬清香が、次第に家族愛や出生だけでない家庭の幸せに目覚めると同時並行して、各地で起きる奇妙な事件の捜査を行うオカルト伝奇ミステリの第3弾が本書『内藤了「BEAST 警視庁特捜地域潜入班・鳴瀬清花」(角川ホラー文庫)』です。

前巻では、東北の山奥の旧家に眠る数体の生きているような実物大の花嫁人形の謎を解いた「特捜地域潜入班」チームだったのですが、今回は、秩父山中に生き残っているかもしれない「二ホンオオカミ」と「人狼」の謎に迫ります。

あらすじと注目ポイント

構成は

プロローグ第一章 ヤマンバの降臨
第二章 サンタさんと寂しいオオカミ
第三章 神使が棲む山
第四章 秩父山系人狼譚
第五章 消えてしまった子供たち
第六章 オホいなる山の神たち
エピローグ

となっていて、前巻「LIVE」で事前告知がされていた今巻の出だしでは、義理の父と実の母から虐待を受けていた男の子をキャンプに連れ出して保護しようとした同級生の父親は、その男の子を乗せた車の捜査を誤って崖下に転落して車が大破。かろうして車を脱出した男の子が山中をさまよっているうちに山に棲息している犬のような獣に遭遇するとことから始まります。

このプロローグのところは、内藤了さんの作品でよくあるように、最後の謎解きの重要ヒントになってきているので、細部に注意を払っておきましょう。

で、今回の本筋のほうは、前半部でできてから半年経過して、「実績」というものを警察庁の上層部にプレゼンしなけれないけないこととなった捜査班のメンバーが、捜査班の班長の土井と過去に因縁を抱えているらしい刑事部長とひと悶着を起こすところを「前菜」にして、「メインディッシュ」は秩父山中で、二ホンオオカミの調査を行っていた民間研究者の太田が崖から滑落して遭難死するのですが、その直前に「ヒトオオカミを見た。幻じゃなかったぞ・・」といった内容の電話を妻にかけてきています。さらに、彼の遺体には何かの動物がつけたと思われる「噛み傷」が複数残されていたとのこと。

「ヒトオオカミ」とは何か、それは彼が研究をしていた、日本では明治時代に絶滅をしたと言われている「二ホンオオカミ」と関係しているのか、謎が深まります。

この研究者の死の謎を解くため、清花たち特捜地域潜入班のメンバーは、秩父山系の奥へと調査に入るのですが・・といった筋立てです。

ここで「二ホンオオカミ」について、少し情報提供しておくと、ニホンオオカミの最後の確実な生息情報は、明治38年に奈良県で捕獲された若いオスが最後で、その後明治43年に福井県や群馬県で目撃情報はあるもののニホンオオカミと確証されていないようです。

そして、ニホンオオカミの絶滅原因の一つとして、明治になってから西洋犬が導入されたことによる狂犬病の発生があげられているのですが、すでに江戸時代の享保年間にニホンオオカミに狂犬病が流行していたという記録もあるようなので、一番大きな原因は森林の伐採・開墾と人間による駆除の進行ではないかな、と思う次第です。

話を物語に戻すと、オオカミ研究家の太田の遭難情報を持ってきた同じ民俗学者の宗像からもたらされたインドで保護された「狼少年」の情報をヒントに、太田を襲ったのは、この「二ホンオオカミ」あるいは野犬の群れに育てられている人間の子供ではないか、と推測した「清花」たちは、秩父の山中で行方不明になった子供たちの情報を探すのですが手掛かりになりそうなものは見つかりません。そんな中で、数年前に秩父山中のキャンプ場近くの道路から転落して運転者が死亡した事故の車中に子供のリュックが載せられていて、同乗していたと思われるその男の子は、どういうわけか車に乗らなかったと家族が証言していたことがわかります。

清花たちは、その男の子の家族から事情を聞くために引っ越し先を訪ねるのですが、父親はアルコール中毒による肝硬変で病死、母親も酒浸りで家の中はゴミ屋敷の状態です。

肝心なことは何も聞き出せなかった清花は再び、捜査班の土井や  とともに秩父で調査を継続するのですが、家族の聞き取りから帰ったその日、車に「獣」らしきものが近寄ってきて・・というう展開です。

ここから「ヒトオオカミ」の正体とその悲しい過去がだんだんと明らかになっていきます。少しネタバレしておくと、家族の聞き取りの際に着ていた服はゴミ屋敷の臭いが付着したため、清花は袋にいれた車外のバケッジにいれておいたのですが、これが「ヒトオオカミ」を引き寄せる原因となっていたようです。

さて、「ヒトオオカミ」の正体と、それを清花たちはどうするのか、人間世界へ「ヒトオオカミ」を連れていくのか・・といったところは原書のほうでどうぞ。

レビュアーの一言

特捜地域捜査班のリーダー・土井が、末期がんの妻と子供たちと日本全国を思い出旅行をし、現在は車内を大改造して移動活動拠点として使っている車がTOYOTAのコースターとされています。

本文中では「キャンピングカー」となっているのですが、見た目はマイクロバスですね。ただ、そ車内の広さと居住性を利用して、キャンピングカーに改造する人は多いらしく、ネットにも豪華なホテル仕様のものも含め数多くアップされています。

ただ、秩父の山中を走行するには少々、車体幅がありすぎるかも、ですね。

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