そしてプリニウスの旅は「アフリカ」を目指す ー ヤマザキマリ、とり・みき「プリニウス 5」

ポンペイで地震にあってローマへ引き返し、しばらくは動きがないのかな、と思いきや、あちこちを旅してきた商人の話に触発されたのか、再び旅に出るプリニウス一行である。

今回の旅は、いままでのイタリア半島の中、つまりはローマ帝国のど真ん中だけではなく、エジプトも含めたアフリカなどの「属州」まで足を伸ばす、当時の「大旅行」である。

一方、正妃・オクタヴィアを殺害した後、ポッパエアは精神状態があまりよろしくない様子なのであるが、今巻の女性のメインキャストは、彼女ではなくて、水道技師や羊毛業を営むローマの「元気で気の強い」女性たちである。

【構成と注目ポイント】

構成は

29.ラルキウス
30.アッセリーナ
31.ウミウサギ
32.マーレ・ノストルム
33.ピーラータ
34.アエオリア
35.ストラボネ

となっていて、まず最初のところでアフリカを含め、世界各地を旅してきた、元はポンペイのワイン商の息子であった「ラルキウス」という男が登場。彼が語る、エチオピアに住む頭がなく口と目が胸についている「プレミュアエ族」であるとか

足が革のひものようになっている「ヒマントポデス族」とかの話は、プリニウスの「博物誌」のあやしげなところを助長しているのだが、このへんが魅力の一つでもある。

このラルキウスと再びポンペイを訪れたプリニウス一行は、ポンペイの公衆浴場を修理している、水道技師のミラベルと再会。この浴場の本格的修復を主張する彼女と地元の有力者が争っているところを収めるのが、地元の有力商人で羊毛業を営むアッセリーナという女性で、ここでもローマ時代の女性の力強さを思い知らされますね。「うちはもともと女性が力を持つ家系なのです・・・」という発言に、秘めた自信を感じるのだが、実はそう簡単な問題ではないようで・・・。

ただ、「うちなんか奥さんが完全に権力者だけどな」というフェリクスの発言に同意される方は多いとは思います。

ちなみに、公衆浴場の修理で

といった会話がされるところに前巻の毛織物業者が妙に強気な理由がわかりますね。

そして今巻の後半では、イタリア半島を離れてアフリカへ出発。船に乗るするネアポリスの港で、触るだけで体がおかしくなる「ウミウサギ」に遭遇。見た限り、日本の海にもよくいる「ウミ○○」なのだが、詳細なところ原書で確認を。

アフリカへ向けての航海の途中では、嵐にあう中で、海賊に襲われた貿易船とぶつかる。ここで、生き残りのフェニキア人の子供を見つけるが、これからプリニウスの旅と同行することになりますね。

貿易船に小さな頃から乗っていたため、地中海の海路もよく知っている、結構「使える人材」であります。

【レビュアーから一言】

いたるところで火山の噴火に出あうプリニウス一行なんであるが、今巻もストラボネで、ストラボン火山の噴火を見る。もともと、この当時の地中海地方が火山噴火が盛んな地質時代であったのか、プリニウスが「火山」と相性がいいのかわからないのだが、このあたりが「博物誌」にどう影響を及ぼしたのかは、興味のあるところであるな。

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