藤波匠「人口減が地方を強くする」ー第1次地方創生の移住定住施策を点検しておこう

地方自治体関係者を戦慄させた「地方消滅」論をうけて、政府が2014年に「地方創生」の名目下、東京圏から地方への人口移動の旗を振ったのですが、当方の感覚としては、その後の好景気によって、東京圏への集中はとまらなかったよね、と言う感じがあります。

そして、その後の施策方向も、実際の人口移転から「関係人口」という気分的なものも含む方向へと展開していきつつあったのですが、今回のCOVID-19の流行で、第2次地方創生の目玉として、再び実際の住居移転を伴った「移住定住」シフトが始まっている感じがします。

しかし、第1次当方創生時代の「移住定住」対策の陰陽をふりかえっておかないと、再び前車の轍を踏んでしまうことになるよね、というところから、全国各地での移住定住者獲得「合戦」の結果がぼちぼち見え始めた頃である2016年4月に出版された本書『藤波匠「人口減が地方を強くする」(日経プレミアシリーズ)』を読み返してみました。

【構成と注目ポイント】

構成は

序章「地方消滅」への恐れが日本を誤らせる
第1章 若者は地方にもいる
第2章 無理に人口移動を促してはいけない
第3章 仕事が人を引きつける
第4章 新しい仕事を生み出す仕組みづくり
第5章 地方大都市の果たすべき役割
第6章 コンパクトシティだけが解ではない
第7章 「生き残り」を超えて

となっているのだが、最初に総じておくと、本書は、この当時、政府や地方公共団体が熱狂した「移住定住競争」には批判的である。

というのが、筆者によると

そもそも、「東京一極集中」と「地方消滅」という考え方は、日本が直面している人口の分布や地方都市の現状を正しく表しているとは一言えません。
まず、東京への人口流入があることは確かですが、決して一極と言える状況にはなく、全国の中枢・中核都市への人口流入も見落とすべきではありません。
東京一極集中と地方消滅という一言葉はあまりにシンボリックで、私たちを冷静な議論を欠いた地方創生策に誘導してしまうでしょう。
短期間で若者を過度に地方に定着させようという政府の取り組みゃ目標設定は、まさにこうした危慎を具現化するもの

といった危惧を抱いていて、確かに、いわゆる移住定住のための誘導策が「金額競争」や「PR合戦」のようなところを見せてしまったことは間違いなく、他所ではなく「うちに来い」と地方間で過当競争を演じた側面が、第1次の移住定住施策を歪めたような気がしている。
これは、移住定住の「働く場所」の議論でもいえて、

いくら雇一用が少ない地方とはいっても、介護が雇用の受け皿であるという認識を持ったままでは、その地域の平均的な所得水準を今後も低く抑えることになってしまうでしょう。
若い世代が減少する社会では、彼らがより高い所得を得ることができるよう産業振興を図り、社会の仕組みを変えていくことが必要です。
介護を、地方における雇用の受け皿と考えること自体、旧態依然とした発想に基づく誤った地域政策と言わざるをえません

であったり、

「農的暮らし」には定まった定義はありませんが、いわゆる販売目的の農業ではなく、土に触れ、自然の移ろいに寄り添った暮らしのイメージです。
日々競争社会に身を置いている若い世代が、こうした暮らしにあこがれる気持ちはよくわかります。
しかし、国や地方の経済成長や地域の持続性などの観点から、若い世代がこうした生活に流れることについては、社会的に許容できる範囲は限られています

といったように、新しい形での「働く場」「産業」の創設へとチャレンジがないまま、「介護」や「農業」へ寄りかかることの危険性」が指摘されている。

このあたりは、リモートワークが流行し始めたので、地方へ人が来るんだ、という最近の論調への批判でもあって、地域の中で「リモートワーク」を支える生活インフラや「働くスタイルの構築」がなければ、都市のカルチャーがもてはやされるようになれば、再び都市の吸い上げられていく結果となることは間違いないであろう。

【レビュアーからひと言】

COVID-19の流行による、リモートワークの隆盛によって、再び、地方で暮らすことが注目され、政府も「第2次地方創生」の方向性を打ち出している今、地方部の地方公共団体が色めき立つのもわかるのですが、今までのような東京一極集中の是正の議論は、いかに新しい人口「集中」地域をつくるベクトルでの議論です。

当方は、COVID-19の対応として、これから求められている地域振興策。移住定住策は、経済活動を維持・発展をさせながら、いかに「分散」するかの議論で、今までの集中させることを目的とした地域振興策では対応しきれないような気がしています。
新しい「分散時代」の地域振興策の提示が必要となっている気がするのであるがどうでしょうか。

Bitly

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