中原圭介「定年消滅時代をどう生きるか」ー中高年の新しい定年後の対策を考える

年金の支給開始年齢が65歳になったかと思うと、すぐさま70歳への延長の話が出たり、公務員の定年延長法案は、ある検察高官の麻雀賭博で先送りになるし、企業の寿命は労働者の勤続期間より短くなるし、といたように、昔は「定年まで無事勤めあげ、あとは年金で生活を」ということが当たり前であった時代は遠い過去の話。
今では、高齢になっても、働かざるをえない時代が到来しつつある、という認識のもとに書かれたのが本書『中原圭介「定年消滅時代をどう生きるか」(講談社現代新書)』です。

【構成と注目ポイント】

構成は

第1章 日本から「定年」が消滅する
第2章 大きく変わる企業の採用
第3章 トヨタ「採用の半数が中途」の衝撃
第4章 人材育成の仕組みを再構築する
第5章 これからを生きるための最大の武器

となっていて、第1章から第3章の中ほどまでは、定年まで面倒を見切れない、あるいは面倒をみない人事制度となっていく日本企業の姿が、第3章の後半がそれを受けての防衛策、第4章が教育、特に大学教育の変革論、第5章が個人の能力を磨く方向性といった感じになっています。

人事制度、年金制度の変化については、若い年代よりも中高年世代には厳しい環境変化で、少々気が滅入ってくる中高年世代が多いかと思うのですが、類書の多くが若者向けの能力開発の記述が多く、企業社会に適合するように努力してきた中高年は除け者のように扱われることが多いに対し、本書はこれから人生の後半部分をリタイアせずに働いていかないといけない世代に対しても有用なアドバイスがなされているのが特徴です。

もちろん、それは今までの経験がそのまま活かせるということではないのですが、

大したスキルを持っていない高齢者世代にとっても、これからの新しい企業社会で生き抜いていくカギは、「仕事は楽しみながらする」という価値観を取り入れることができるかどうか、という点です

であったり、

私たちがデジタル技術を駆使して、専門家のスキルを習得する時間が劇的に短縮できるというのは、非常に有意義なことであると考えています。
10年前や20年前であれば、ひとつの専門性を身に付けるのにつ年程度かかったものが、デジクル技術の飛躍的な発展によって、私たちはやる気次第で3年もあれば、専門家としてひとつのスキルを習得することができるのです

といったあたりは心強いアドバイスになるのではないでしょうか。さらに

個人の価値を飛躍的に高める方法というのは、なにもひとつの専門性を極めるだけということではありません。
極めるというレベルにまで達していなくとも、個人が複数のスキルを持つことで1000人に1人、きらに1万人に1人の価値を獲得することは、みなさんが思っているほど難易度が高くはないのです。
少なくとも、現時点では、スキルを3つも持っていれば、スキルの相乗効果も相まって個人の価値は相当に引き上げられるはずです。というのも、個人の価値はスキルの数の「足し算」ではなく「掛け算」で決まるからです。

ということであれば、仕事の経験の長い中高年であっても、学ぶ気持ちがあれば、今までの経験を深めたり、周辺領域に範囲を広げることで、高度なスキルの数を増やしていけるということでもあって、中高年世代も夢をもっていいようです。

さらに、筆者がこれからの企業社会で、AIに負けない仕事の力として重要度を増してくるといっている「直観力」は

「直感」も「ひらめき」も、誤解を恐れずに別の言葉で表現すれば、「これまでの経験知の集大成一と言えるのですが、「直感」のほうは「意識的な経験知と無意識的な経験知の集大成」、「ひらめき」は「意識的な経験知のみの集大成」と分けることができると思います

ということのようなので、あきらめずに「考えること」で経験を磨いていくことが大事なようですね。

【レビュアーからひと言】

日本は一回失敗すると浮かび上がれない傾向の強い社会だといわれていて、それがいわゆる氷河期世代や中高年の世代が、ビジネス社会で復活したり、再デビューする芽を摘んでいるような気がしています。デジタルによる学びなおしの機会の増大で。筆者のいう

ひとつの会社でしか適用しないスキルを身に付けたとしても、働いている企業が衰退に向かえばそのスキルの有用性は薄れてしまいます。
そうはいっても、私たちはデジタル技術を駆使して、多種多様なスキルを習得する時間を短縮化できるので、人生でも仕事でも何度でも挑戦ができる世界が訪れようとしています。
人生を通して成功の軌道に乗り続けるのは難しいかもしれませんが、失敗しても再びチャンスを与えてくれる社会では、天職を見つけて遅咲きの花が開くケースは尽きることがないでしょう。

という社会が到来すれば、AIに職を奪われるのではなく、AIと共存する「働く場」が生まれる気がするのは理想論なのでしょうか。

定年消滅時代をどう生きるか (講談社現代新書)
すべての日本人の人生にとって、深く関りがある本を書きました。 2020年は日本の雇用が大変革を遂げる年になるからです。 AIなどのデジタル技術の普及に伴って、若手にとっても、 中堅にとっても、ベテランにとっても、高齢者にとっても、 無縁では...

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