若竹七海「静かな炎天」ー書店員兼探偵となった「葉月晶」は四十肩になる

気づかないうちに、自分の周囲にトラブルの数々を招き寄せてしまう、フリーランスの私立探偵・葉村晶シリーズの第七弾が『若竹七海「静かな炎天」』。

前話までで、今まで勤めていた「長谷川探偵調査所」の突然の閉所によって職を失い、ようやく手に入れそうになった「東都総合リサーチ」の社員の道も、警察からの脅しに弱い経営者の弱腰で閉ざされてしまった葉村晶であったが、「MUERDER BEAR BOOSHOP」の店主・富山が洒落で登録していた「白熊探偵社」の社員となっていることが判明して、探偵に復活するこできた「晶」に降りかかるトラブルと彼女のドタバタの解決が描かれます。

【収録と注目ポイント】

収録は

 「青い影 七月」
 「静かな炎天 八月」
 「熱海ブライトン・ロック 九月」
 「副島さんは知っている 十月」
 「血の凶作 十一月」
 「聖夜プラス1 十二月」

となっていて、まず第一話の「青い影 七月」では、晶がバイト先の「MUERDER BEAR BOOSHOP」への通勤途上に遭遇した衝突事故がきっかけの調査です。

その衝突事故は、意識を失った運転手が運転するダンプカーがセダンを跳ね飛ばし、そのままバスの後部に衝突したというもので、高校生二人が死亡するというもの。その事故のとき、晶は、セダンに二重衝突された小型車から、青いバッグをもってでてくる若い女性を目撃するのです・・・というのが前置き、

後日、その小型車に載っていた女性の母親から、娘が持っていたバッグがその車からきえうせている、という話をきく。晶が目撃したバッグを持って車から降りる女性は誰?といった謎解きです。

第二話の「静かな炎天 八月」では、「MUERDER BEAR BOOSHOP」や店のある住宅街で様々なトラブルがおきます。

書店のほうでは夏休みに雇うことになっていた学生アルバイトがドタキャンしてくるし、近所の老夫婦のところには、昔の教え子が「母さん助けて詐欺」を仕掛けてきたり、といった事が起きたり、さらには晶のもとに、突然に探偵の仕事が舞い込んだりします。さらに、店のある町の町内会長から、知り合いの蔵書整理の話も持ち込まれてきて・・、という感じです。

それぞれ何の関連もなさそうですが、いずれも町内から人をいなくなるようにする仕掛けで、そのわけは・・という展開です。

第三話の「熱海ブライトン・ロック 九月」は* 「熱海ブライトン・ロック 九月」は、書店に出入りしている出版社の編集者が持ち込んでくる、四十年前に失踪してそのまま行方不明になった人気ミステリー作家の特集と失踪の謎を解く企画がもとで起きる事件です。

晶はこの企画のため、疾走した作家「設楽創」の当時の関係者に手がかりをもとめて調査を開始するのですが、合成麻薬の製造や密売に話に結びついてきて、さらのはそこに大手製薬会社の創業者の放蕩息子も関係しているようで、といったキナ臭い話に発展していきます。そして、晶は事件の鍵を握ると思われる、疾走した作家の元担当編集者に聞き込みをするのですが・・ということで、晶が思わぬ災難に会いますね。

第四話の「副島さんは知っている 十月」では、台風が近づく中、店番をしている晶のもとに、以前勤めていた「長谷川探偵調査所」の同僚・村木から突然に依頼の電話がかかってきます。

彼は「星野久留美」という女性の身元を調べてくれと依頼してくるのですが、その女性はその日、都内のマンションで撲殺されていることが報道されます。依頼の本音のところは、彼女を殺した容疑がかけられている男から、真犯人を捜すよう強いられて、苦し紛れの「葉村」頼みのようです。

その男に監禁されている村木のところへ警察が突入する隙きをつくるため、晶は、「星野久留美」殺しの真犯人をでっち上げていくのですが、なんと・・という展開です。

第五話の「血の凶作 十一月」では、店のイベントのゲストでやってきていただいたハードボイルドの大家・角田港大が、2週間前に死んだ「自分」の謎を解いてくれ、とやってきます。実は2週間前に三鷹のアパートで火事があったのですが、その火事で死んだ入居者が彼の戸籍抄本を使って、彼になりすましていたことが判明します。

警察は、角田港大が彼に戸籍を故意に使わせていたのでは、と疑っているので、これを晴らしてくれという依頼なのですが・・という筋立てです。

最初は、作家の幼馴染が、彼の名前を騙っての仕業かと思われていたものが、そうではなく、高田馬場の「呪いの土地」に関わる話へと、どんどんあやしげな方向に進んでいくので、この後は原本で。

最終話の「聖夜プラス1 十二月」は、元外交官で、スパイ作家との面識もあるノンフィクション作家からの蔵書処分で出された掘り出し物の「サイン本」を、晶が作家の自宅まで受け取りにでかけることでおきるトラブルの数々です。

発端は、その作家の家を訪ねたところ、作家の奥さんから、知り合いのところへ、焼いたクリスマスケーキを届けてくれないかと頼まれ、安請け合いしたことから始まり、届け先で母と息子の刃傷沙汰に巻き込まれたり、店へ帰る途中に、作家から預かった本を強奪しようとする三人組に襲われたり、といったことをいかにして「葉村晶」が切り抜けたか、の武勇伝ですね。三人組を最後に出し抜いた「晶」の冴えたやり方が見事です。

【レビュアーから一言】

彼女が二十代後半からスタートしたシリーズなのですが、とうとう

四十歳をすぎると怪我の治りは遅くなる。なにもしなければ体力は戻らない。走り込めば膝を痛め、腹筋すれば腹がつる。とかくこの世は生きづらい。

と、年齢を意識させられる年代となり、

左折しながらそう呟いて、ふと左肩に違和感を覚えた。痛い、というほどはっきりした感じではないが、なにか「うまくない」という感じがする。・・・狭い隙間から抜け出ようとして身体をひねったとき、今度ははっきりと左肩の痛みを感じた。・・・肩全体、特に肩甲骨から腕の脇にかけて痛みがある。

と、今回では、なんと「晶」が四十肩になってしまいます。「悪いうさぎ」では、犯人に拉致されてコンテナに監禁されたり、「暗い越流」収録の「道楽者の金庫」では本の詰まった書棚が倒れかかっても、打撲ぐらいで済んでいた「晶」も無理がきかない年代になったということでしょうね。さて、年齢的なハンディが増す中で、ふりかかるトラブルをどうはらっていくか、楽しみな展開です。

静かな炎天 (文春文庫)
ひき逃げで息子に重傷を負わせた男の素行調査。疎遠になっている従妹の消息。依頼が順調に解決する真夏の日。晶はある疑問を抱く(「静かな炎天」)。イブのイベントの目玉である初版サイン本を入手するため、翻弄される晶の過酷な一日(「聖夜プラス1」)。...

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