モチベーションの源泉は「報酬」か「満足感」か — ダニエル・ピンク「モチベーション3.0」(講談社)

ダニエル・ピンク氏の論述は「フリーエージェント社会の到来」など時代の一歩先のあたりの動きを論じてくるのが特徴で、すぐさまの利益にはならないかもしれないが、近い将来にブレイクするネタとしておさえておきたいもの。
 
本書の構成は
 
第1部 新しいオペレーティングシステム
 第1章 <モチベーション2.0>の盛衰
 第2章 アメとムチが<たいてい>うまくいかない7つの理由
 第2章の補章 アメとムチがうまくいく特殊な状況
 第3章 タイプIとタイプX
第2部 <モチベーション3.0>3つの要素
 第4章 自律性(オートノミー)
 第5章 マスタリー(熟達)
 第6章 目的
第3部 タイプIのツールキット
 個人用ツールキット
  モチベーションを目覚めさせる9つの戦略
 組織用ツールキット
  会社、組織、グループ能力を向上させる9つの方法
 報酬の禅的技法
  タイプI式の報酬
 保護者や教育者用ツールキット
  子どもを助ける9つのアイデア
 おすすめの書籍ー必読の15冊
 フィットネスプラン
  運動へのモチベーションを生み出す(そして持続させる)ための4つのアドバイス
本書の概要
ディスカッションに役立つ20の質問
自分自身とこのテーマを、さらに掘り下げるために
 
となっていて、今回のテーマは「モチベーションを上げる方策」。
 
「モチベーションを上げる」というと、組織体制がどうとか、心理的なものがどう、とか心理学、経営学、教育学などなどの指揮者が入り乱れて面倒くさいのが、本書の論点は一つ。
 
「今どきの人は金や地位だけではやる気をださないのではないの」
 
ということ。
 
氏によれば、モチベーションには三段階あり、
 
モチベーション1.0は人間は生物的な存在なので生存のために行動する
モチベーション2.0は人には報酬と処罰が効果的だとみなす
モチベーション3.0は、人間には、学びたい、想像したい、世界をよくしたいという第三の動機づけがある
 
ということであるらしい。そして、
 
報酬には本来、焦点を狭める性質が備わっている。解決への道筋がはっきりしている場合には、この性質は役立つ。前方を見すえ、全速力で走るには有効だろう。だが、「交換条件つき」の動機づけは、ロウソクの問題のように発想が問われる課題には、まったく向いていない
既存の問題を解決するのではなく、新しいことを次々と応用する必要がある課題に対して、これと似たような現象が起きる
 
外的な報酬が重要視される環境では、多くの人は報酬が得られる局面までしか働かない。
 
として、今までの産業革命に始まる製造業中心の社会をリードしてきた、アメとムチのモチベーション論から、新しい対応のモチベーション論、「外部からの欲求よりも内部からの欲求をエネルギーの源とする。活動によって得られる外的な報酬よりも、むしろ活動そのものから生じる満足感」に基礎をおいたモチベーション論(筆者はこれを「タイプI」といっている)への転換を提案する。
 
ただ、この論理、製造業中心からソフト産業中心の産業社会の変化にフィットし、働く側から見ると、人間的な側面を重視してくれる歓迎すべきもののように思えるのだが、「働かせる」側からみると、ちょっと扱いづらいものであることは間違いない。というのも、「金銭」や「出世」というアメとムチの管理手法は、非常にわかりやすく提供しやすいに対し、「活動そのものの満足感」を与える方策というのはちょっと、今までの「労務”管理”」の概念を超えてしまうのである。
 
もっとも、筆者にはモチベーションの議論において「管理」とか「統制」といったものが時代遅れになっているという認識があるようだから、そもそもの土台・基礎が変わってきているのかもしれない。
 
まあ、モチベーションをいかに高めるかは、最後は個人の問題なのだが、生活を支えるという生存に関する部分もあるし、承認欲求や、生物本来のマウンティングの衝動もあるので、すべててを「活動そのものの満足感」で整理してしまうのも乱暴ではある。
一方の議論に偏しない、バランスよい議論が必要な気がしますね。
 

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