時代は経ても、この「戦略思考」論は傾聴すべし — 田坂広志「まず、戦略思考を変えよ」(ダイヤモンド社)

経営における「戦略」「戦術」についての著者の論説の厚さが伝わってくるのが本書なのだが、底本は2001年の著作であるらしく、当方の無知というか不勉強を恥じた次第。
 
構成は
 
はじめに まず戦略思考を変えよ
第1話 「抜去り」の戦略思考を捨て、「先回り」の戦略思考を身につけよ
第2話 「市場に働く重力場」を見定め「その先の展開」を読め
第3話 「戦略の待機時間」を縮め「組織の耐久時間」を伸ばせ
第4話 「成功の鍵」を分析するのではなく「市場の理」を洞察せよ
第5話 「山登り」の戦略思考を捨て「波乗り」の戦略思考を身につけよ
第6話 「重層的な戦略」を準備し「戦略的反射神経」を鍛えよ
第7話 「戦略と戦術の垂直統合」を図り「戦略の創発プロセス」を促せ
第8話 「機会的なデザイン」を描くのではなく「生命的なビジョン」を語れ
 
となっているのだが、刊行から月日が経過しているのに、当方には、この本の論説は非常に新鮮で、どうやら当方が浸っていた仕事の環境は
 
「山登り」の戦略思考とはどのようなものでしょうか?  それは、あたかも「山登り」をするときのように、登るべき山の周辺の「地図」を広げ、その山に登るための最適の「道筋」を定めるといった発想の戦略思考のこと
すなわち、あたかも山登りをするときに、登るべき山の「頂上」(経営目標)を見定め、現在立っている地点からその頂上までの「地形」(経営環境)を地図で調べ、その頂上に登っていくのに最適の「道筋」(経営戦略)を考えるといった思考のスタイル
という「山登りの思考スタイル」のまま凍結していたらしく、
波乗りによって向かうべき方向を定める(ゆるやかなビジョンを描く)   乗っている波の刻々の変化を感じとる(環境変化を刻々に把握する)   刻々の波の変化に合わせて瞬時に体勢を変化させる(経営戦略を迅速に修正する)   波と一体となってめざすべき方向に向かっていく(経営戦略を柔軟に実現する)といった戦略思考のスタイル
である「波乗りの戦略思考」に遅ればせながら着地せねば、と冷や汗をかきかながら思う次第。
であるので、今回、論評するのはちょっと身の程知らずといった感があるのだが
 
「抜去り」の戦略思考を捨て 「先回り」の戦略思考を身につける
 
とか
 
「リスク感覚」を喪失するということが、実は「最大のリスク」
 
そうした「リスク感覚」というものは、決して「科学的手法」によって代替できるものではありません。たしかに世の中には「リスク分析」の専門家と呼ばれる人々はいますが、彼らは「科学的手法」の専門家ではあっても、「リスク感覚」の研ぎ澄まされたプロフェッショナルではありません。  したがって、ここでいう「リスク感覚」とは、誰よりも経営者やマネジャーこそが身につけ、磨いていかなければならない能力
 
 
組織の耐久時間」とは、きわめて組織心理的な問題なのです。それは、決して「どれだけの累積投資額が支えられるか?」といった財務体力的な問題ではありません。どこまでも、生身の人間が集まる企業組織特有の心理的な問題なのです。 そして、戦略マネジャーは、もし企業の現場で「先回り」の戦略を実行しようとするならば、こうした「人間心理」の問題を深く理解しておかなければなりません
 
といったあたりは時代を超えた至言であるように思う。このあたりに、おや」と思い、この本が初見であれば読んでおいて損はないと思う、ホント。
 
とはいうものの
 
市場競争においては、かならず、その主戦場が移行していくのです。したがって、「先行ランナーがこれから走っていく方向に先回りする」とは、市場競争における「次なる主戦場」にいち早く着目し、その主戦場での「競争優位」を築くための打ち手を他社に先駆けて打つことです。言葉を換えれば、次なる主戦場に先回りして、「橋頭堡」を築いておくこと
 
が大事であることは理解しつつも、なかなかできることではないよね、と凡人たる当方としては泣き言を言ってみるのである。
 
さて、ほぼ20年前の著作とはいうものの
 
言葉を換えれば、多くの日本企業においては、経営会議のメンバーが、「社長の目線」ではなく、「部門の目線」で会社の将来を見つめているのです。経営会議のメンバーが、「部門の代表」になってしまい、「社長の代理」になっていないのです。 
 
といったところを見ると、時間が経過しても、なかなか変わらない「悪弊」というものは存在することがよくわかる。新しいビジネス書ばかり追わないで、いろいろ振り返りながら研鑽を積むべし、という忠言でありましょうか。
 

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