「波乗りの戦略思考」が「山登りの戦略思考」を駆逐できない理由

=「山登りの戦略思考」と「波乗りの戦略思考」=
  
先だっての田坂広志氏の「まず戦略思考を変えよ」で、
 
「山登り」の戦略思考とはどのようなものでしょうか?  それは、あたかも「山登り」をするときのように、登るべき山の周辺の「地図」を広げ、その山に登るための最適の「道筋」を定めるといった発想の戦略思考のこと
 
すなわち、
①山登りをするときのように登るべき山の「頂上」(経営目標)を見定め、
②現在立っている地点からその頂上までの「地形」(経営環境)を地図で調べ、
③その頂上に登っていくのに最適の「道筋」(経営戦略)を考える
といった思考のスタイル
 
という「山登りの戦略思考」と
 
①波乗りによって向かうべき方向を定める(ゆるやかなビジョンを描く) ② 乗っている波の刻々の変化を感じとる(環境変化を刻々に把握する)   ③刻々の波の変化に合わせて瞬時に体勢を変化させる(経営戦略を迅速に修正する)
④波と一体となってめざすべき方向に向かっていく(経営戦略を柔軟に実現する) といった戦略思考のスタイル
すなわち、「波乗り」の戦略思考とは、「偶然性」というものを積極的に活用しようとする戦略思考。市場の環境変化や企業の意思決定にともなう「偶然性」というものを否定的に受けとめ、排除しようとするのではなく、肯定的に受けとめ、活用しようとする戦略思考
という「波乗りの戦略思考」を紹介した。(戦略思考の定義については「まず戦略思考を変えよ」からの引用)
「まず戦略思考を・・」の著者の田坂氏は、経営環境がどんどん変わる時代(業界のMAPPINGがどんどん変わる時代)には、「山登りの戦略思考」ではなく、「波乗りの戦略思考」に切り替えるべきだと主張されているのだが、当方的に思うのは、」まだまだ「山登りの戦略思考」のほうが日本の組織では、「方法論」として優勢をしめているように思う。

 

=なぜ「波乗りの戦略思考」は劣勢なのか=

 

その原因は、おそらくは、

 

①「変化に合わせた即座の修正」

 

 

②「偶然性の容認」
という二つのことがネックになっているように思う。
まず一番目の「変化に合わせた即座の修正」という点でいうと、リーダーがワンマン的な統制をしている、極度なトップダウンの組織を除いて、一度決定した「組織決定」を変えていくのは、通常の日本的な組織では容易ではない。

 

もともと「組織決定」自体が、組織の大方の構成員の「同意」「合意」のもとに成り立ったものなので、変更しようとすれば、大方の構成員による承認がいるのである。
 

 

次の「偶然性の容認」ということでは、即座の変更が可能な「ワンマン的な組織」ほどそれが容認できない。というのも、「偶然」を認めるということは、リーダーが示した方向性が、大した原因もなく、突然に揺らぐ、ということを示しているからである。なので、方向性を変えるべき事態が起きても、それは、「想定外」で「未曾有」のことなので、方向性を変えるほど頻発する出来事ではない、と思い込もうとする心理が働くのではないだろうか。

 

=とりあえずの処方箋=

 

こうしてみると、「山登り」から「波乗り」へ方向転換していくのは、そんなに簡単ではない気がしてくるのだが、では「山登り」の方法の継続でよいかとなると、環境が刻々と激変する情勢下では、それも上策とは思えない。
では、ということで、当方としては
①「山登り」の戦略の緻密度・精密度を落として、粗い仕上げにしておく。
②粗い戦略に基づいた戦術のチェックを頻繁にやり、PDCAではなく、D(ドゥ)→C(チェック)、D(ドゥ)→C(チェック)を回転をあげて行い、微修正を積み上げる。
③これにあわせて「組織決定」も決定に関与するメンバーの数を減らすと共に、「決定」自体の「粒度」を小さくする仕組みに変えていく。
というやり方がベターではないか、と思っている次第。

 

もともと、「波乗りの戦略思考」のやり方は、旧来からの組織にとっては不安を感じさせるものには間違いなく、これも普及を阻害している要因でもある。「山登り」を簡略化・変形させていって「波乗り」に近づけていくやり方が、日本的組織のメンタリティーに合っているように思うのだが、いかがであろうか。
 

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