「豪華観光列車」の成功の陰には、熱気あふれる「前史」があった — 唐池恒二「鉄客商売 ー JR九州大躍進の極意」(PHP研究所)

「ゆふいんの森」や「ななつ星」で、鉄道業界に大きな波を巻き起こした、JR九州の社長である唐池恒二氏の自叙伝。もっとも「自叙伝」とはいっても、1980年代の国鉄バスの営業所長あたりからの自叙伝なので、管理職としての奮闘記、という印象。
 
構成は
 
 
大嶋部長のこと
 ーJR九州は逃げない
ビートルから教わったこと
 ーJR九州は海もゆく
二メートル以内の男たち
 ーJR九州はとことん話し合う
外食王への道①
 ーJR九州は小さな「一家」の集まり
外食王への道②
 ーJR九州は教わってすぐ実践
ネーミングの神様
 ーJR九州はまちの思いも乗せる
外食王への道③
 ーJR九州は焦らず騒がず
外食王への道④
 ーJR九州は「気づき」のプロ集団
コンセプトこそすべて
 ーJR九州は言葉の感性を大切にする
外食王への道⑤
 ーJR九州はカレーも焼き鳥も究める
外食王への道⑥
 ーJR九州は常識を覆す
まちづくりと鐡道
 ーJR九州はまちと「元気」を交換する
櫻燕隊のこと
 ーJR九州は踊る!
ななつ星の不思議
 ーJR九州は世界最高峰を常に目指す
 
となっていて、実は、JRマンとして企画列車を走らせたところは、どちらかというと端に置いてあって、読後の印象は、労使対立激しい「国鉄バス」やお荷物といわれた「外食事業部」での奮闘が記憶に残る。
 
というのも、「ゆふいんの森」や「ななつ星」の成功譚はすでにいろんなところに、いろんな人の手で書かれているので少々手垢がついた感があるに対し、国鉄バスや外食事業部の話は、鉄道の成功の基礎となっている、いわば成功の「前史」のようなところがあって、成功の自慢話より、よほど味わい深い。
 
で、その「前史」となるものは、とても人間臭く、また、熱を帯びていて、
 
労使対立の厳しい国鉄バスの棚倉営業所で挨拶を何日も何日も繰り返し、ついには、そこのボス的職員から「所長は、どこから来たんかね」という言葉を引き出し、職場を「二メートル以内の男たちの軍団」に生まれ変わらせた話
 
とか
 
「当時のJR九州は、鉄道事業の効率化であぶれた社員を鉄道以外の、いわゆる関連事業に配転させることが常であった」外食事業部を、「われわれ外食軍団」に作り変え、「驛亭」や「きどらない洋食屋さん」「うまや」といった人気店を作り出した秘訣は
 
人生や仕事にも通じる。難局にも逃げずに真正面から立ち向かうと、必ず解決するのだ。嫌な仕事から逃げたり、やっかいな仕事を直視しなかったりあと回しにしたりすると、余計に問題が大きくなって取り返しのつかなくなることがよくある。 「逃げずに真正面からぶつかっていく」
 
 
人も職場も会社も「気」がなくなると、すべてのことがマイナスに働いていく。逆に、「気」を集め、「気」に満ち溢れた人は、必ずや勝利を手にすることができる。職場なら、明るく元気になっていく。会社なら、業績がよくなる。「気」には、そういう力がある。なんといったって、「気」は〝生命の原動力〟なのだから。
赤字を黒字にするには、「気」だ。これしかない。店舗に、外食事業部全体に、そして働く人全員に「気」を満ち溢れさせなければいけない
 
といった風で、まあ、かなりの「アナログ」ではあるのだが、これが妙に響いてくる。これに加えて、この「気」を集める方法とか、「ななつぼし」の成功のポイントとか、盛りだくさんなのであるが、全部をレビューするとこれは営業妨害であるので、後は「本書」で。
 
さて、成功者の自叙伝というものは、ともすると成功特有の臭いが気になるものなのだが、本書は、その熱気と泥臭さでそういうものを感じさせないですね。役人よりもっと役人らしい民間企業と揶揄されることもあるJRに、こういう熱い人もいたんですね、と感じ入った次第であります。
 

コメント

タイトルとURLをコピーしました