少々昔の「ラテン」の明るさを偲ぼうーたかのてるこ「キューバでアミーゴ」

インドにはじまって、世界各地を旅する銀座OLであった「たかのてるこ」氏が訪れた「キューバ」の13日間の記録が本書『たかのてるこ「キューバでアミーゴ」(幻冬舎文庫)』である。キューバを目指した理由は

「こんなラテンな生き方にあやかりたい! よーし、いつか絶対キューバを旅して、ラテンのアミーゴ(友だち)を作るぞ!!」  世界中で大ヒットした映画『ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ』を見て、ハートをワシ掴みにされてしまった私は、心の中で絶叫していた

ということであるようで、インドやモロッコあたりをうろついた前の旅行記同様、「行きたいから行った」というレベルの動機であるな。

【構成は】

いざ、ラテンのテーマパークで
憧れのアーティスト集団とアミーゴに!
女優ミネルバと漫才デビュー!?
世にも不思議なラテンの祭司
祖先が中国人の、黒人母さんの謎
アフリカの神々の秘密儀式
世界でいちばん笑える午後
民宿のラブラブ夫婦とダンス三昧
行き当たりバッタリの冒険キャンプ
さよなら、アミーゴ!

となっていて、通して13日間を、首都のハバナに始まり、トリニダーといった田舎まで旅をするという旅程である。
多くの国で均質の発展ということはないに等しくて、特に、旧植民地系の国は、宗主国の富と文化が「集中投資」された首都などの大都市と、それ以外の「地方部」「辺境部」との落差は激しいから、この旅はキューバの諸相を見る旅といっていい。

【キューバの陽気さは嵐の前の「から騒ぎ」か?】

本書の刊行が2006年であるので、旅をした時はその前であろうが、時代背景的には、アメリカが渡航禁止と解くかどうかでアメリカ議会とブッシュ政権と間で葛藤があったり、カストロ兄が、健康上の理由からカストロ弟に、政権を禅定する少し前といったところであろうか。2008年にリーマン・ショックによって、冷水を頭から浴びせられた時より少し前であるので

ああ、ほんとうに、いつだってダンスだ! 踊って笑って、そして夜が更けていく。不思議なことに、今まで全く踊りに縁がなかった私なのに、こんなふうに踊り続ける日々が全然イヤじゃなかった。むしろ、彼らに日々ラテンパワーを注入してもらえて、私の体は喜んでいるかのように跳ねている。ナチュラルハイを地でいく人たちとの刺激的な夜は、まだまだ明けそうもない

といった風に、ラテンのノリで踊りつつも

キューバ人はいかにも享楽的な人生を送っているように見えるけれど、その場その場がよければいいという投げやりな感じなのではなく、彼らは毎日毎日を、瞬間瞬間を、大事にしながら生きているような気がしてならなかった。

と、「踊りだけではないよ」と筆者の目はとても「キューバ」に対して愛情が溢れているんであるが・・・。この語の、世界経済の冷え込みを考えると、「徒花」という言葉がよぎるのであるがどうだろうか。

【しかし、キューバには植民地の悲哀がある】

ただ、こういう「陽気」さに包まれて浮かれているような筆者の旅であるが。

それに、なんなんだろう、この、胸をきゅっとしめつけられるような感覚は……。この街に降り立ってからずっと、このやたらと陽気なムードとはかけ離れた、ずしりと重い何かを肌で感じていた。建物がボロボロで街は崩れかけているのに、人々の生きるパワーに満ちあふれているという奇妙なギャップのせいなんだろうか。それとも、この土地が持つ独特のエネルギーのせいなんだろうか。キューバは全体的に底抜けに明るい雰囲気なのに、その一方で、どこか切なく、そこはかとない哀愁を感じてならない

であったり、

ミルトンの両親はクリオーリョ(植民地で生まれたスペイン人)だから、革命前はどちらかというと裕福な層に属していたに違いない。クリオーリョは、同じスペイン人でありながら、ペニンスラール(本国生まれのスペイン人)から、植民地で生まれたというだけで差別と搾取を受けていたというけれど、奴隷だった黒人と比べればその差は歴然だ

といった風に、植民地支配とその終了が、原住の民だけでなく、遠い大陸から強制的につれてこられた人々、さらには、植民地時代の支配者の子孫まで巻き込んだ「悲哀」であることに、気づきながらの「旅」なのである。

【まとめ】

さて、筆者の旅から、ほぼ10数年が経過したのだが、アメリカとキューバの関係は劇的な融和に至るかと思いきや、再びの「冷え込み」の状態である。さらには、革命の指導者たちも年老いた後、キューバがどこへ向かうのか予測もできないところでもある。

ただ、「旅行記」の醍醐味は、今の現実の姿ではなく、その国の、ある一時期を切り取った姿を共有し、ありし日を愉しむことにある。しばし、現実の国際社会は忘れて、ラテンの明るさを楽しもうではありませんか。

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