育休と女性活用の「明けない」夜明けー中野円佳「育休世代の」のジレンマ

正直のところ、当方が「男性」で「男性優位」な時代に生きてきたせいか、この「育児休業」と「女性の活躍」のジャンルは少々苦手である。
であるのだが、今読んでおかねば、と思ったのは、制度は整いつつも離職が出てしまう「育児と企業社会」が制度が整いつつも、なにか「幸福感」が漂わないのはなぜなんだ、と思ったのである。
本書『中野円佳「「育休世代」のジレンマ 女性活用はなぜ失敗するのか?」(光文社新書)』は筆者の、大学院時代の修士論文を加筆修正したもので、執筆はおそらくは第三次安倍内閣の2014年の頃に書かれたものではと推測している。その後「働き方改革」の議論も本格化しているのだが、どうも、先に述べた「すぅすぅ感」が拭いきれず、ひょっとすると、この原因が「働き方改革」の議論全てに共通するのではないか、と思ったところでもある。

【構成は】

序 なぜ、あんなにバリキャラだった彼女が「女の幸せに目覚めるのか?
1章 「制度」が整っても女性の活躍が難しいのはなぜか?
1)辞める女性、ぶら下がる女性
2)どんな女性が辞めるのか
2章 「育休世代」のジレンマ
1)働く女性をめぐる状況の変化
2)「育休世代」にふりかかる、2つのプレッシャー
3)「育休世代」の出産
3章 不都合な「職場」
1)どんな職場で辞めるのか
2)どうして不都合な職場を選んでしまうのか
4章 期待されない「夫」
1)夫の育児参加は影響を及ぼすか
2)なぜ夫選びに失敗するのか?
3)「夫の育児参加」に立ちはだかる多くの壁とあきらめ
5章 母を縛る「育児意識」
1)「祖父母任せの育児」への抵抗感
2)預ける罪悪感と仕事のやりがいの天秤
3)母に求められる子どもの達成
6章 複合的要因を抱えさせる「マッチョ志向」
1)二極化する女性の要因
2)「マッチョ志向」はどう育ったか
補1)親の職業との関連
補2)きょうだいとの関連
補3)学校・キャリア教育との関連
7章 誰が決め、誰が残るのか
1)結局「女ゆえ」に辞める退職グループ
2)複数の変数に揺れ動く予備軍グループ
3)職場のジェンダー秩序を受け入れて残る継続グループ
8章 なぜ「女性活用」は失敗するのか
1)「男なみ発想」の女性が「女ゆえ」に退職するパラドクス
2)企業に残る「非男なみ」女性と、構造強化の構造
3)夫婦関係を侵食する夫の「男なみ」
4)ジェンダー秩序にどう抗するか?
5)オリジナリティと今後の課題(意義と限界)
おわりにーわたしの経緯
新書を出すにあたって

となっていて、内容的には、インタビューにかなり時間と利労力をかけてまとめてあって、かなりの労作であることを評価したい。

【本書の注目ポイント】

まず「ありゃ」と思ったのは、

米国の先進的なファミリーフレンドリー企業において、社員が家庭生活を外注できるよう様々なサービスを提供し、働きやすい職場を作ることで、むしろ家庭が効率を求め疲弊するという、家庭と職場の逆転現象を指摘する(P81)

というところ。どうも、育児も含めた「働きやすい環境」の整備が、家庭にとって幸せな結果ばかりを産まないのは、日本だけではないらしく、先進地であるアメリカでも、といったところのなにやら、根が深そうなものを感じる。

さらに

「仕事」も「夫」も得ようとする女性もいるものの、「自分よりも仕事の上で有能な男性を勝ち得ることが自分の「性的魅力」を確認させてくれる」が、自分が仕事をしている場合は特に、「自分よりも高い社会的地位の男性の妻となると、そうした男性たちが「家事・育児」に割くことができる時間的資源をほとんどもっていない場合が多い」ため、「『性的魅力』による異性獲得競争に勝利することが、結果として自分自身の『社会的地位』競争において相対的に不利になる(P127)

というところには、女性特有のジレンマを感じてしまって、なんとも複雑な思いにかられてしまいますな。この件で女性が「満足感」「達成感」を得るには「マウンティング」だけでは解決できない問題で、誰が勝者で誰が敗者か混沌としてきますな。

そして

「女性の働きやすさ」を嫌悪したり無視したりする女性たちは、「社会規範としての女性らしさの価値を自明視していない」よりは、むしろ積極的に女性らしさを切り捨てることで、男性が圧倒的に多い世界での競争や「女らしい女性」が損をする社会を生き延びようとしてきたと捉えられる(P281)

といったところになると、なにやらイギリスの分離対立戦略に踊らされて、最後は国を失った、インドの藩主国たちを思わせるところもある。「イギリス」って誰だ、という質問には答えないけれどね。

【まとめ】

なんともまとまりのつかないレビューとなってしまったが、それは、この問題が、なんともまとまりのつかない「状況」にあることを意味していることの反映という気がしてきた。

筆者の「本書では、出産後の女性の抱える問題は、育休をとるかどうかではなく、復帰後の働き方と処遇にあることを指摘してきた(P323)」という主張は、「正解」ではあるが、まだスキッとした「解決策」がでていないことでもあるように思う。

「子育て」と「女性の活躍」、「女性の働き方」の問題は、「制度」を作って終わりではなく、「魂」をどう入れるか、と局面になっててきているようですな。

【筆者のほかの著作】

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