ビジネスの「何が本質か?」を考え尽くす ー 森川亮「シンプルに考える」(ダイヤモンド社)

元LINEの社長で、現C CHANNEL社長の森川亮氏の2015年の著作。ソニーでジョイントバンチャー、ハンゲーム・ジャパンでネットゲーム、LINEでコミュニケーション・アプリとネット・ビジネスの社会の牽引車として活躍している人の「仕事の流儀」である。

「はじめに」のところに書かれているのだが、筆者の主張の根本は「シンプル」ということで『ビジネスの本質は「ユーザーが本当に求めているものを提供し続けること」』で、

ユーザーのニーズに応える情熱と能力をもつ社員だけを集める。そして、彼らが、何ものにも縛られることなく、その能力を最大限に発揮できる環境をつくり出す。

ということが”ビジネスの基本”とするあたり極めて「シンプル」というかあっさりしてる上に

「戦わない」「ビジョンはいらない」「計画はいらない」「偉い人はいらない」「モチベーションはあげない」「成功は捨て続ける」「差別化は狙わない」「イノベーションは目指さない」「経営は管理ではない」

を方針としているというのだから、世間の「フツー」といわれる常識とはかなり外れたところにあるのだが、これが短期間にLINEをグローバルサービスに育て上げた「秘密」「秘訣」であるのであろう。

 

【構成と注目ポイント】

第1章 ビジネスは「戦い」ではない
第2章 自分の「感性」で生きる
第3章 「成功」は捨て続ける
第4章 「偉い人」はいらない
第5章 余計なことは全部やめる
第6章 イノベーションは目指さない

となっていて、おおむね、前述の「戦わない」「ビジョンはいらない」等々の”方針”について詳述したのが本書の内容である。

 

で、一見すると、いずれの”方針”も世間一般のビジネス書で推奨しているところから外れているので、これもやり手の起業家が、自らの信念と自説に拘った論を展開しているのかな、と思わせるのだが、そうではなく、例えば

僕はビジネスとは戦うことではないと思います。 それよりも、シンプルにユーザーのことだけを考える。そして、「ユーザーが本当に求めているもの」を生み出すことに集中する。その結果として、勝利はもたらされるのです。

であったり、

イノベーションを生み出すのは人間であって、システムではありません。 社員をシステマチックに管理しようとすればするほど、イノベーションから遠ざかってしまうのです。逆に、彼らが生き生きと仕事ができるエコシステムを生み出したときに、はじめてイノベーションの可能性が生まれる。だから、今やるべきことはシンプルです。「経営とは管理することである」という固定概念を捨てる。これが、イノベーションへの第一歩だと思うのです。

といったあたりを見ると、ライバルとの競争や、新製品や新施策の開発競争に血道をあげるあまり、ユーザー・受益者を置いてけぼりにしてしまう、昨今の企業戦略、行政施策への反論でもあって、むしろ、氏の主張することのほうが「正論」「王道」であったな、と気付かされるのである。

さらに、当方のような年齢を重ね、ベテランと呼ばれる人にとって

成功を捨て続けることが、その人の成長につながると僕は考えています。 新しいことに挑戦すれば、当然、失敗のリスクは高まります。だからこそ、過去の成功にしがみついてしまう。「守り」に入ってしまうのです。そして、同じことをやり続けることに 執着し始める。しかし、その間にも、新しい技術は次々と生み出され、ユーザーのニーズも変化し続けます。気づいたときには、時代に取り残されてしまうのです。 だから、成功は捨て続けたほうがいい。たとえ厳しくとも、常に新しい価値を生み出すことに挑戦し続けたほうがいいのです。

といったところは、結構、耳の痛いところで、知らず知らず「過去の成功体験」を反芻してしまう我が身を振り返って、反省しきりである。

さらに、先が極度に見通せない現代社会に対応するために、「経営方針」とか「計画」とかを精密につくってしまうのが、一般的な組織の「常」なんであるが、これに対しても筆者は「経営理念を明文化することは危険ですらある。 なぜなら、明文化したがために、理念が 形骸化 していく恐れがあるから」や「むしろビジョンなど掲げないほうがいい。 なぜなら、それに縛られてしまうから」として

変化の時代を生き抜くために最も大切なのは、いち早く自分が変化することです。

としているのは、「変化する」ということを常態にしたほうが、むしろ安全で確実なことを言っていて、このあたりは組織マネジメントの新しい方向性といえる。

【レビュアーから一言】

最初のところだけ「つまみ読み」すると、世間一般の経営の「戦略」と呼ばれるものへの「アンチテーゼ」という風に見えてしまうのだが、当方的には、世間一般の「経営戦略」を「ユーザーのニーズに応える」という一点から洗い直すとこうなりますよ、という、より「本質」にに根ざした「仕事の流儀」の提案の書である。

若手ビジネスマンが、これからのビジネス人生をおくるために、自らの考えをブラッシュアップする本としてもよし、ベテラン・ビジネスマンが新しい道へ踏み出す時の、元気づけの本としても良し、である。当方的には、ビジネスのセカンド・ステージに踏み出すにあたっての「踏切り板」とさせてもらいました。

コメント

タイトルとURLをコピーしました