ファシリテーションで会議を変えるコツは?ー榊巻亮「世界で一番やさしい会議の教科書」(日経BP社)

一生涯にビジネスパーソンが「会議」に費やす時間は「三万時間」と本書の冒頭にあります。およそ8年分の時間なのですが、この時間、どう過していたかなと振り返ってみると、説明者のかける「催眠術」との闘いであったり、いかに気配を消して内職をするか専念したり、といった会議とは真逆のことをしていたことを思い出す人も多いのではないでしょうか。
どうかすると、会社の業務で「ムダ」なものの一番に挙げられて改革のやり玉に挙げられる「会議」なのですが、その「会議」をガラリとかえてビジネスの重要なツールに変える技・ファシリテーションについてわかりやすく解説してくれるのが本書『榊巻亮「世界で一番やさしい会議の教科書」(日経BP社)』です。

【構成と注目ポイント】

構成は

第1章 初めてのダメ会議
第2章 確認するファシリテーションを始める
第3章 書くファシリテーションを始める
第4章 隠れないファシリテーションを始める
第5章 Prepするファシリテーションを始める
エピローグ 2つの転機

となっていて舞台はネットワーク関連ビジネスを手掛けている大手のIT会社の保守部門が舞台。そこの「顧客サポート課」で、入社2年目で職場の中でまだまだ発言権の少ない女子社員「鈴川葵」が主人公です。

◇おおまかな流れ◇

ビジネス書ではあるが、親近感をもってもらうためか「小説仕立て」のストーリー展開になってます。最初のところで初めての課内会議に出席した「葵」がダラダラな進行や何が決まったのかわからないような会議の実態に呆れて、家で愚痴をこぼしていたところに、業務改革のコンサルタント会社に勤めている父親が押しかけアドバイスを始めて・・、といった展開です。
父親から教わる「会議のファシリテーション」の技術を課内の会議で実践しているうちに、その課の管轄するコールセンターが業界雑誌のランキングで大幅に順位を落とすという事態が発生し、怒り狂った常務から、原因を究明し、改革案を早急に出さないと部署を廃止するというお達しが出ます。葵たちは原因究明と改革プランを練り上げるために、課内で会議を開催するのですが、突然の緊急事態に、再びグダグダの責任を押し付け合う会議になってしまいます。さて、葵は会議を立て直して改革プランを仕上げることができるのでしょうか・・・といった筋立てですね。

基本的には、こういうビジネス書定例のプチ・サクセスストーリーで、最後のハッピーエンドを期待しながら、ファシリテーションについての主要なビジネススキルが学んでいけるというスタイルです。
具体のスキルは本書のほうで詳細を確認してほしいのですが、今回は本書でどんなスキルが学べるかを中心にレビューしておきます

◇ファシリテーションスキルその1「確認する」◇

本書で学べるファシリテーションスキルの一番目は「確認する」ということです。
うまくいった会議の要因はいろいろあるのですが、グダグダな会議には

①何が決まったか。誰がやるのかわからない
②何が決まったら会議の目的達成かわからない
③全体時間だけ決まっていて、議題ごとに使う時間配分がされていない

という共通点があるようです。この解決方法は「会議の出席者に確認する」ということなのですが、立場や経験が短い場合はなかなか難しい場面も多いもの。その時に抵抗感少なく確認していく方法もアドバイスされてます。

◇ファシリテーションスキルその2「書く」◇

本書で2番目に提供されているのは紙やホワイトボードに書くことによって会議をファシリテーションするスキルです。ホワイトボードはどこの会社の会議室にも常備はされているのですが、プレゼン用には使っていても会議での活用は・・というところも多いと思います。
この「書く」という行為は、とっちらかりそうな発言を戻したり、まとまりのない発言をまとまった形に誘導したり、あるいは会議の終わりには忘れてしまっていることを記録に残しておけたり、とかなり有効なファシリテーション・スキルなので本書でしっかりエッセンスを掴んで実践してみるとよいと思います。
ちなみに、この「書くファシリテーション」でのポイントは

①発言をそのまま書く。そのときは「意見」「論点」「決定事項」を意識して書き分ける
②意見は一言一句正確に書く必要なし。意図が分かればOK。ただし番号をふっておく
③字はゴシック調で書く
④はっきり、丁寧に書く
⑤行間は空ける。文字間隔は詰まってもOK

ということのようなので、少しネタバレしておきます。ちなみにファシリテーションでこうやって書き留めていくことを「スクライブ」っていうようですね。

◇ファシリテーションスキルその3「PREP」◇

「PREP」とは「準備をする」という意味なのですが、そのためには4つの「P」
①P(Purpose、目的):会議で何を達成したいか
②P(Process、進め方):会議の終了条件に、どんな風にたどりつくのか、どの順番で議論するのか
③P(People、会議の参加者):必要な出席者は誰か、不必要な人を読んでいないか
④P(Property、装備):会議をする会議室とかプロジェクターとか
を十分にそろえることが大事だとアドバイスされてます。このうち難物なのか②と③で、ここについては本書独自の「Prepシート」というものが紹介され、その使い方も開設されているのですが、このへんは本書のほうでご確認を。

◇まとめ◇

本書は展開をわかりやすくするために「定例会議」や「プロジェクト会議」の改善を例にとっているのですが、本書ででてくるテクニックは、かっちりとした「会議」だけでなく「打ち合わせ」や「相手先との商談」といったシチュエーションでも使えるものが多いと思います。要は、「人が集まって話をする」シチュエーションで、効率的・効果的に物事を進めていくテクニックと考えると、ビジネス現場だけでなく、いろんな場面での活用が考えられるのではないでしょうか。

ちなみに、「会議ファシリテーションの始め方の失敗原因」として初心者が陥りやすい失敗原因が出ていたので掲げておきます。
・フレームワークなど高度なことを始めること
・いきなり会議の進行役を買って出ること。進行役をおこうとすること
・会議の目的を偉そうに確認すること
・参加者の曖昧な発言を要約して言い換えること
だそうですが、特に一つ目のあたりは、「ビジネス書」読みたての時にやらかしそうなことですね。

【レビュアーからひと言】

本書では、途中まで裏方として会議の進行を助ける「隠れファシリテーター」をしていた「葵」と「片澤」が表に立って、コールセンターの廃止を回避するためのプランニングを主導していく展開になるのですが、職制上、会議を仕切る立場に立たされやすい組織の中堅どころや管理職は、若手を育てる意味で、本書の前半部分の「隠れたファシリテーション」をやってみてもいいかもしれないな、と感じたところです。
特に自分はワンマンかな、と自覚している人は意識的にそうしてみてはいかがでしょうか。

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