美星バリスタの妹・美空が「賑やか」に登場。二人の父親の謎もまた。 ー 岡崎琢磨「珈琲店タレーランの事件簿2 彼女はカフェオレの夢を見る」(宝島社)

純喫茶・タレーランを舞台にしたミステリーの第二弾。第一巻目で、過去の怖い思いでの影響を振り払った「美星」バリスタの推理はますます冴えてきて、さらには、犯人に立ち向かう「大胆さ」も発揮されてくるという成長ぶりが見られる第二巻である。

一方で、第一巻では美星の「ワザ」を盗もうとするいう「ワル」なところを見せていた「アオヤマ」くんはすっかり毒気を失ってしまって、美星にぞっこん、という役回りになってきた。
今巻は、そんな二人の間に、美空という賑やかな妹が乱入してきて、動きの早い展開となっている。

【構成と注目ポイント】

構成は

プロローグ 彼女の夢
第一章 拝啓 未来様
第二章 狐の化かんす
第三章 乳白色のハートを壊す
第四章 珈琲探偵レイラの事件簿
第五章 (She Wanted To Be)WANTED
第六章 the Sky Occluded in the Sun
第七章 星空の下で命を繋ぐ
エピローグ 彼女はカフェオレの夢を見る

となっていて、単話仕立ての味も持ちながら、全体としては美星の妹・美空の京都滞在中の出来事が主筋となっている。

まず第一章は、美星バリスタの長年来の友人・水山晶の姉と彼女の元恋人に関する話。水山晶の姉のもとに、沖縄に住む別れた恋人から手紙が届く。その姉は最近埼玉県内に引っ越しをしたのだが、手紙が投函された日付は引越し先が決まっていない時に投函されたことを示す消印となっていた、という謎解き。姉妹の好みは共通することが多いらしいね、というのがヒントですね

第二章は、東京で学生生活を送っている、美星の妹・美空の京都観光でおきた出来事。美空が京都で最初の観光地として選んだのが「伏見稲荷」で、本殿だけでなく、「お山めぐり」をしたいと言い出す。体力に自信のない美星とアオヤマ二人を置いて、美空一人で山登りをするが、彼女が山頂でとったスマホの記念写真には、同時刻に京都駅にいた「アオヤマ」と美星でみかけた風変わりな少年が写っているのだが・・・、という謎解き。

少年の正体が謎なのか?といったところがカギですね。この話以降、しばらく美空が京都の滞在することになるのだが、彼女が京都に来た理由そのものが、今巻を通じる「謎」の一貫ですね

第三章は、美空のほうからちょっと離れて、タレーランの経営者である藻川の爺さんが女子高校生・巴奈からの、文化祭で披露する「ラテアート」の指南を美星にしてほしいという依頼を安請合いするところからスタート。涙ぐましい努力の末、彼女はラテアートの技術を習得するが、文化祭でつくったラテアートの「ハート」が無残にも、その発表会の壇上でいつの間にか壊されてしまう。壇の前には、彼女の恋のライバルもいて、そのライバルの仕業だと彼女は指摘するのだが、実は、その犯行の原因には、巴奈の悪意が引き金になっていて・・・という展開。裏の裏まで見通す「美星」バリスタの推理ここにある、といった感じですね

第四章の「珈琲探偵レイラの事件簿」というのは昔、盗作騒動で一人の新人作家が筆を追ったいわくつきのミステリーと、京都の珈琲店を取材して回っているフリーライターに関する話。美星バリスタが、このライターの正体と表題のミステリーの謎解きをするところ本体にみえて、実は、美空が京都に来た目的がはっきりするのと、美星と美空の「実の父親」が出現するところが本体。だが、このことが次章以降に事件の伏線になっていて、という凝った仕立てである。

第五章は、ちょっと箸休め的に、美空の後輩の満田凛という女の子の失踪騒ぎに関する謎解き。三ヶ月前に村治という恋人と別れ、自分の親との関係もうまくいかず、世の中に嫌気がさしてしまった彼女が突然姿を消す。心配した村治と美空は、凛のアパートを訪ね、幸いにもカギが掛かっていなかったので中へ入り、東尋坊のところが開かれた旅行ガイドを発見する。自殺を止めなければ、と東尋坊の近くへいった二人は凛を見つけ出すことに成功するが、凛は部屋にカギは掛けたと主張する。合鍵は神戸の実家の母親しかもっておらず、その母親は美空たちがその実家に電話をかけた凛のアパートを尋ねる前夜の10時過ぎには実家にいた。果たして部屋を開けた犯人は?、そして実家の母親は行方をくらました娘のことが新バイでなかったのか?、といったところを美星が解き明かす話
親の愛情、といったところを話の主筋のところで見せながら、最後の方で美空が事件に巻き込まれてしまいます。

第六章と第七章は、第五章の最後のほうで誘拐された美空の救出劇。彼女を人質に身代金を請求してくる犯人の裏をかいて、美空を監禁する車の場所を突き止めたり、身代金を渡すと見せかけてのその車を奪取したり、といった緊迫感あるやりとりがハラハラさせますね。
話の途中で、アオヤマと美空がつきあっている、と避難する美星バリスタの「恨み節」がちょっとカワイイですね。さらにネタバレすると、「実の父親の出現」という第4章以降の展開がここでがらんと「どんでん返し」にあってしまいます。
でも、実の父親が亡くなった経緯とか、父親の娘への想いとかを最後は感じさせて、サスペンス仕立てながらも、このシリーズらしい、しんみりとした終わり方になってますね。

【レビュアーから一言】

エピローグのところで、美星と美空の意外な関係とか、「美空とアオヤマがつきあっていた」真相とか、いろいろと明らかにされてきて、最初のほうはちょっと反則では、と思わないでもないのだが、まあ美星バリスタの純情に免じて許しましょう。

「美空」という美星バリスタとは全く違うカラーのキャストの登場で、第一巻とはまた違って賑やかで、サスペンス色の強い仕立てになっていて、また違う味が楽しめる二巻目となってます。

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