タレーラン店主の妻の失踪の不倫疑惑の真相は=岡崎琢磨「珈琲店タレーランの事件簿 6 コーヒーカップいっぱいの愛」

京都の裏通りにあって古ぼけた外観ながら、美味しいコーヒーと旨い料理をだすことで知る人ぞ知る名店「珈琲店タレーラン」。その店でコーヒーを淹れるバリスタをしている謎解きを趣味とする美人店員・切間美星と、この店の常連で、美星に惚れていて、何度もアタックを繰り返すのだが、うまくいかないようでいかない「アオヤマ」くんが繰り広げる、京都の街を舞台にした謎解きシリーズ「珈琲店タレーランの事件簿」の第6弾が本書『岡崎琢磨「珈琲店タレーランの事件簿 6 コーヒーカップいっぱいの愛」(宝島社文庫)』です。

前巻では、アオヤマくんの少年時代の初恋の人の想い出と彼女との再会と彼女に絡んだ謎を、美星バリスタが謎解きしてみたのですが、今巻では、美星がバリスタとなるきっかけをつくってくれた「珈琲店タレーラン」の実質的な創始者で現在の店主・藻川又次の妻の7年前の失踪事件の謎に迫ります。

あらすじと注目ポイント

構成は

プロローグ 或る老人の余生
第一章 割れたコーヒーカップの謎
第二章 影を追って
第三章 不在の朝
第四章 すべては明るみに
第五章 コーヒーカップいっぱいの愛
エピローグ そして、愛は受け継がれていく

となっていて、まず「プロローグ」のところでは、色鉛筆を抱えた自宅の庭に入り込んできた少女と死を間近にした画家の男性とのふれあいが描かれます。これで、この物語が本篇の謎解きに関連しているかのようなイメージを与えるのですが、ここらから作者の張る伏線が始まっているのでご注意を。

本篇のほうは、「珈琲店タレーラン」の老店主・藻川のじいさんが心臓の発作で店内で倒れるところから実質的にはスタートします。病気は狭心症で、手術をすれば大丈夫のようなのですが、気弱になっている藻川から、美星たちは4年前に早逝した彼の妻の思い出話を聞かされます。

それは、二人が還暦ごろのことなのですが、妻の大事にしていたコーヒーカップを謝って藻川が割ってしまいます。それがもとで口論になり、妻は家を飛び出して、一週間の間、音信不通になってしまいます。一週間後、家に戻ってきた妻に、破片をかき集めて接着剤で修復したカップを見せて謝り、赦してもらえたのですが、妻の方も突然飛び出して一週間帰らなかったことを涙ながらに詫びてきて・・という話です。そのカップは少々値は張るのですが、デパートで買った既製品で、想い出の品とも思えません。それを割っただけで突然怒り狂って、一週間も行方知れずになっていた理由を調べてほしい、と美星に頼んできます。

手術の前にこれだけが気がかりだという藻川の頼みを引き受けた美星は、彼女に惚れていて、”忠犬”のように動く「アオヤマ」くんと、藻川が倒れたことをきいて、父親といっしょに見舞いにやってきた、という藻川の姪・小原(オハラ)とともに、調査を始めます。

藻川の家で、妻の遺品などを調べていた三人は、その中に失踪時に一人の男性と映っている写真をみつけます。その男性が浜松在住だった画家であることをつきとめた、美星とアオヤマは画家の住んでいた家で、彼の遺作と若い頃の習作をみせてもらい、描かれているのが藻川の妻であることと、若い頃の習作には画家らしい人物と妻が「矛」を挟んで立つ姿が描かれ、題名は「国生み」であることを知らされ、二人が若い頃。恋人同士で会ったことを知らされます。日本神話のイザナギ・イザナミに二人をなぞらえ、神話では二人の神が一緒に矛で海をかきまぜ、日本列島や神々を生んでいったことを考えると、この絵が何を象徴しているのかは明白なのですが、それを聞いて大慌てする「美星バリスタ」は可愛いですね。

一方、遺作のほうは、中心となる一部が失われているので、二人の間に何が描かれていたかはっきりしないのですが、もし「矛」が描かれているのなら、藻川の妻の行方のわからなくなっていた「一週間」は、昔の恋人との浮気旅行であった可能性が濃厚になってきます。

自分を、ストーカー被害で精神状態がどん底になっている状態から回復させてくれ、バリスタとなる途を示してくれた藻川の妻の不倫を信じたくない美星は、絵の舞台である「天橋立」へと向かいます。

そこで、画家と藻川の妻が七年前に泊まった旅館へ行くのですが、そこで美星たちは当時の旅館の女将から、二人が一週間同じ部屋に宿泊していたことを聞くのですが、「致した」形跡があったかどうかまでは明らかにできません。

藻川の妻は不倫していたのかどうか、真相をつきとめるため、絵画の失われた一部を探し出すため三人は捜査を開始するのですが、単独調査を行う美星と、彼女に置き去りにされたアオヤマと小原は別々に捜査を行うのですが、彼らが到達した真相は・・という謎解きが展開されていきます。

さらに、謎を解いて京都に帰った美星が、何者かに襲われてバッグを奪われた上に、頭に怪我をするというハプニングもおきるのですが、当初、「物取り」と思われていたこの事件も別の様相を示し始め・・と展開していきます。

そして、アオヤマと一緒に謎解きに参加していた藻川の姪の女子高生・小原にも意外な秘密があって・・と二重三重の仕掛けが施されているのですが、詳細は原書のほうでどうぞ。

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レビュアーの一言

今回は、このシリーズの特徴でもある、コーヒー豆をミルでコリコリ轢きながら謎解きをするという「美星バリスタ」独特の謎解きスタイルは影を潜めていて、ドタバタと駆けまわりながらの謎解きが展開されています。

もともとは、「珈琲店タレーラン」の店主・藻川の妻の、還暦間近の頃の「不倫疑惑」の調査という、場末の私立探偵もどきの調査なのですが、美星バリスタの手にかかると「純潔証明」みたいなおおがかりなものになってくるのが彼女らしいところです。

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