コーヒーミルを挽きながら謎を解く「童顔美人バリスタ」登場 ー 岡崎琢磨「珈琲店タレーランの事件簿 また会えたならあなたの淹れた珈琲を」(宝島社)

食べ物屋を舞台にしたミステリーというと、最近では、「尾道茶寮」や「スープ屋しずく」のシリーズなどがあるのだが、その始まりは、2012年頃からスタートした本シリーズであろう。

舞台は、京都の珈琲店、といっても歴史を誇る「老舗」ではなく、代々土地持ちの家を継いだ女性が趣味と実益を兼ねた比較的歴史の浅い店。そして、メインキャストは奥さんが始めた店を引き継いでいる「若い女子」好きの老店主と、店のバリスタを称する、「切間美星」という20代半ばの女性で、彼女が探偵役。そして、物語のワトソン役の語り手は、究極の珈琲を探している「僕」こと「アオヤマ」という美星より少し若い男性という、見方によって、かなり頼りのないキャストで繰り広げる、街場のミステリーである。

 

【構成と注目ポイント】

構成は
第一章 事件は二度目の来店で
第二章 ビタースウィート・ブラック
第三章 乳白色にハートを秘める
第四章 盤上チェイス
第五章 past. present. f・・・・?
第六章 Animals in the closed room
第七章 また会えたならあなたの淹れた珈琲を

となっているのだが、長編仕立てではなく、各章がそれぞれに独立した話となっていて、それが組み合わさって、最後の話に繋がっていくという構成である。

第一章は、このシリーズの始まりの話。付き合っている女性と喧嘩した「アオヤマ」が「タレーラン」という喫茶店を偶然見つけることころからスタートで、最初の方は、この店のなりたちや「美星」ほかのタレーランで働く人の人間関係などの舞台設定の説明である。
で、この話で解くのは、「アオヤマ」がタレーランで傘を取り違えられた出来事に隠されたな謎を「美星」が明らかにする。あわせて、「アオヤマ」の職業の推理もセットになるのだが、こらは、最後のところの引掛けになるので、しっかり記憶していきましょうね。

第二章は、「アオヤマ」の従姉妹の帰国子女のボーイフレンドの素行調査に関する話。彼女は最近できた「恋人」が浮気をしているので、その証拠を抑えてくれとの依頼をうけて、「アオヤマ」くんが一肌脱ぐが・・、といった展開なのだが、帰国子女で活発で積極的な女の子、ということからくる思い込みに陥らないように推理しましょうね。

第三章は、八月に入った暑い日に、スーパーの入り口で、牛乳をを買ったら、少しわけてくて、とお願いする少年がいる。彼はサッカーの練習のときの水分補給用だと言うのだが・・、その背後には、転校してきた間がない上に、ハーフということもあってか友達もまだできない彼が必死に守ろうとしたものは何だったのか、というところが謎解きのヒントですね。

第四章は、第一話で「アオヤマ」がタレーランを訪れるきっかけとなった、柔道の達人の「アオヤマ」の元カノ・虎谷真美との再会の話。彼女は、「アオヤマ」とよりを戻そうと追いかけてくるのだが、彼の逃亡ルートを、きちんトレースしてくる、一体、どうして・・、という筋立てなのだが、京都の地理に明るくないとちょっと話についていくのが難しいのが難。京都の中心部の地図を片手に読むのがオススメですね。

第五章は、「美星」バリスタの、昔の古傷がぱっくりと口を開け始める話がスタート。「アオヤマ」は、京都中心部の大型雑貨店のダーツ売り場で出会った男から、美星が以前、ある男に優しくしたことを誤解されて、男に襲われた経験から、心を閉ざし気味になっている、という話をされる。話をしてくれた男は、「アオヤマ」に美星に危害が再び加えられようとしているので、何か起きそうな教えてほしい、と依頼する。彼は、事件以降も彼女を少し離れてところから見守っている、というのだが・・、という展開。

第六章は、知人からもらった、台湾土産の「猿珈琲」をダシに、自宅のアパートを美星に訪れてもらうことに成功したアオヤマ。美星にプレゼントするために「テデイベア」を用意していたのだが、クローゼットにしまっていた、そのぬいぐるみがいつの間にかズタズタにされてしまっている。このアパートに密かに出入りしたものがいるのか、そしてその目的は?、というのが今回の謎。
さては、美星を昔狙っていた男がここまで・・・といった疑惑はわくのだが、「幽霊の正体見たり」というのが真相ですね。

第七章は、美星が心を閉ざすきっかけとなった事件の犯人の男が、美星を再びつけ狙う事件の解決と、「アオヤマ」の正体が明らかになる話。美星を狙う男の撃退のところは爽快感があっるのだが、一転して、「アオヤマ」がタレーランに通いつめていた理由とその正体のところは、ちょっと俗物感がでてくるのだが、最終章に店へ二度と来ない、と啖呵をきった彼が、エピローグのところで、元カノと戻したはずの「ヨリ」が再びほつれ、長年の独立の夢もぐずぐずと崩れ、といった具合で、再び「美星」バリスタに惹かれて帰ってくるあたりは、なんとも頼りないところが溢れ出てますな。

【レビュアーから一言】

「エスプレッソ」や「世界三大珈琲」の話とか、珈琲に関する蘊蓄もあちこちに散りばめられているのだが、それ以上に特色を出そうとしているのが

送り火とは、葵祭・祇園祭・時代祭とともに京都四大行事と称される、五山送り火のことである。・・・毎年八月十六日に行われ、「大文字焼き」と呼ばれることもあるが、そうすすると地元民は激怒するらしい。「お精霊さんをあの世に送っているのに、《焼き》とは何事か」というのが主な理由だと聞くが、フル化は大文字焼きと呼ばれていたジダもあるそうで、よそ者の僕がわかった風な口を利けるほど、ことは単純ではないようだ。

といった「京都風味」で、これは後に続く「京都」を舞台にしたミステリーの先鞭となっているようですね。

シリーズ最初の一巻ということで、説明が続くところも多いが、美星バリスタと「アオヤマ」くんの腐れ縁の始まりということでお楽しみくださいな。

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