美星バリスタの「安楽椅子探偵」の活躍が復活=「珈琲店タレーランの事件簿7 悲しみの底に角砂糖を沈めて」

京都の裏通りにあって古ぼけた外観ながら、美味しいコーヒーと旨い料理をだすことで知る人ぞ知る名店「珈琲店タレーラン」。その店でコーヒーを淹れるバリスタをしている謎解きを趣味とする美人店員・切間美星と、この店の常連で、美星に惚れていて、何度もアタックを繰り返すのだが、うまくいかないようでいかない「アオヤマ」くんが繰り広げる、京都の街を舞台にした謎解きシリーズ「珈琲店タレーランの事件簿」の第6弾が本書『岡崎琢磨「珈琲店タレーランの事件簿 7 悲しみの底に角砂糖を沈めて」(宝島社文庫)』です

本巻の紹介文では

累計235万部突破!大人気喫茶店ミステリー。
女性バリスタは安楽椅子探偵ーー
ビブリオバトル決勝大会で起きた実際の出来事をはじめ、日常にさりげなく潜む謎のかけらを結晶化したミステリー短編集

とあって、前巻では、珈琲店タレーランの店主・藻川の妻の「謎の一週間逃避行」で疑われた彼女の若い頃の恋に端を発した不倫疑惑の謎を解いたのですが、今巻は、いつものような日常がもどった「タレーラン」で美人バリスタ・美星の繰り広げる7つの「コージー・ミステリー」です。

あらすじと注目ポイント

収録は

「ビブリオバトルの波乱」
「歌声は響かない」
「ハネムーンの悲劇」
「フレンチプレスのいくつかの嘘」
「ママとかくれんぼ」
「拒絶しないで」
「ブルボンポワントゥの奇蹟」

となっていて、まず第一話の「ビブリオバトルの波乱」は、「全国高校ビブリオバトル大会」の運営スタッフの一人であった新聞社勤務の女性・徳山実希がその大会の優勝の最右翼であった女子高校生・榎本純とおこしたトラブルの解決です。

「全国高校ビブリオバトル大会」高校生が自分で読んで面白いと思った本を持ちより、五分の持ち時間の中でその本のすばらしさをプレゼンし、会場にいる参加者が「どの本が一番読みたくなったか」を基準に一冊を本を選び、もっとも多くの票をあつめた本をプレゼンすた生徒が優勝者となる、いわば読書のプレゼン大会のようなものなのですが、その女子高校生は、プレゼンの順番も発表内容に織り込んだりといった斬新な工夫と落ち着いたプレゼンで、優勝間違いなし、と言われています。

このプレゼンの順番は決勝では、抽選箱を使ったくじで決めるのですが、その抽選箱の管理をしていた徳山が目を離したすきに、8つつくじのうち、7と8がなくなり3と4が二つになっているというイタズラが起きます。そのイタズラが判明した時に、すでに「6」番のくじを手にしていた純は、発表順番を8番目に繰り下げられるのですが、それすっかりプレゼン内容と調子が狂ってしまい、惨敗を喫してしまいます。純は、自分が注意喚起したように、しっかり抽選箱を見張っていれば、こんなことは起きなかった、榎本のことを一生恨むし、二度と大会には出ない、と徳山を罵倒して、故郷へ帰っていくのですが・・という筋立てです。

この失態のお詫びに純の住む京都に来て、彼女と待ち合わせた先が「タレーラン」ということで、ここでの二人の会話を聞いて、バリスタ美星が事件の真相を明らかにしていきます。勝負にこだわる純が抱えていた秘密が、事件の謎解きの鍵ですね。

第二話の「歌声は響かない」はタレーランで高校時代の友人と偶然再会した美星が、今は有名な歌手となっている同級生が、高校時代に、学校の合唱コンクールの練習をさぼろうとして、同級生たちからつるし上げをくいそうになっているところを救ったエピソードが語られます。この同級生の言葉の端々で、美星がストーカー被害に会う前の、明るくて人懐っこい性格がうかがい知れて、スト―カー事件が美星の性格をガラッと変えてしまったことを教えてくれます。

第三話の「ハネムーンの悲劇」では、オカルト雑誌の編集長と、女性読者が記事ネタとなる実話を「タレーラン」で聞いている内容を小耳にはさんで、美星がこのオカルト話の真相を推理します。

その話というには、その読者の姉が結婚して、ハワイにハネムーンに行くこととなったのですが、空港へ向かう途中で交通事故にあい、結婚相手の男性は事故死してしまいます。意識を取り戻した姉は、行ったはずのないハネムーンからの帰りに事故にあったと主張します。しかも、姉のキャリーケースから、ハワイでしか買えない貴重なコーヒー豆の袋もでてきて、という展開です。パラレルワールドといったSFっぽい話も登場するのですが。謎解きのヒントは、このコーヒーを轢いて淹れた美星の「どうして反応してくれないの・・」という一言です。

このほか、ハンドドリップで淹れたコーヒーをフレンチプレスで淹れたと嘘を客に告げた美星の意図が焦点となる「フレンチプレスのいくつかの嘘」や、父親の折り合いの悪い女子高校生が、癌で死を真直にしている、今は別れて暮らしている実母と経験した幼い頃の、束縛の激しい父親(夫)からの「5分間」の逃避行に隠されていた真相と本当の気持ち。そしてそれを知った女子高校生がとった行動が興味深い「ママとかくれんぼ」など、日常の中に隠されていた謎と苦い真実が溢れ出る短編集となっています。

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レビュアーの一言

Amazonのレビュー欄ですでにネタバレのところもあるのですが、今巻では、美星バリスタとアオヤマくんの恋の進展は全くありません。というか、アオヤマくんの存在感はほとんどない「コージー・ミステリー」となっていますので、案外に、今までの二人の「恋バナ」展開をうるさく思っていた美星バリスタ・ファンには、彼女の「安楽椅子探偵」ぶりを純粋に楽しめるかもしれませんね。

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