田舎の図書館に起こる「ほんわり」とした謎の数々 ー 森谷明子 「れんげ野原のまんなかで」(創元推理文庫)

最近、流行のミステリーは、心理サスペンス的にちょっと陰惨なところがあるものが多いのだが、そうした中で、ほっとさせる風合いのミステリーがこれ。

舞台は、秋庭市という中小地方都市(雪の降り具合とかを考えると南東北か北陸あたりかと勝手に推測。)のこれまたはずれにある、ススキ野の真ん中に立つ秋庭図書館が舞台。主人公は、一応、ここに配属になった新米司書の「文子」なのだが、まあ狂言まわし、語り部、ワトソン役としての主人公と考えておけばいい。

【収録と注目ポイント】

収録は

第一話 霜降ー花薄
第二話 冬至ー銀杏黄葉
第三話 立春ー雛支度
第四話 二月尽ー名残の雪
第五話 清明ーれんげ野原

となっていて、おおむねススキの咲く晩秋頃からレンゲの咲く早春までの図書館で起こるあれこれの事件というかエピソードで、ワトソン役の「文子」を語り手としながら、ホームズ役のベテラン司書の能勢が謎解きをしていくという筋立て。

売り上げに触らない程度に、判じ物風にレビューすると

第一話の「霜降」は図書館の閉館後もあの手この手で図書館の中に潜り込んでおこうとする小学生たち。彼らが、そんなことをする理由は実は、家族思いの・・・。

第二話の冬至は、図書館の本を使った「暗号」のお話。「暗号」を使って何をしようかってのは、謎を解くまでが興味津々なのだが、なんとなく昔風の軟弱者の恋っていうのはぞっとしないというところか。

第三話の立春は図書館の貸し出しリストの一部が漏洩したことが発端の話。古ぼけた館の中にある宝物は、わかる人にだけわかるってな例え

第四話の二月尽は、突然の雪に降り込められ、秋庭図書館に敷地を提供した秋葉氏の邸宅に泊まられることになった、文子が、秋葉氏が子供の頃に遭遇した「雪女」の謎を解く話。

第五話の清明も、この地の少し昔の事件といえば事件といえる老女の凍死事故の謎解き。春らしく明るくっぽく仕上げようとしてはいるのだが、最近の子供たちが苦難に遭う事件の中で読むと、ちょっと苦い。

といった掌編たちである。

【レビュアーから一言】

少しばかりの苦みはあって、すっきりさわやかといかないところはあるが、血が飛び散ったり、凄惨な争いと殺し合いがあるわけではないので、不満の向きもあるかもしれないが、心が弱っているときのミステリーにはもってこいと思う。

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