秋葉図書館にはまだまだ謎があふれている=森谷明子「星合う夜の失せもの探し」

東京の西のはずれのほうにある「秋葉市」のさらに農地やれんげ畑の広がる中に、ぽつんとある市立の小さな図書館「秋葉図書館」を舞台に、その図書館に勤務する名探偵ばりの司書たちが、図書館利用者や地域の人の日常に起きる様々な謎を解き明かす、心がほっとする、ほんわか図書館ミステリ「秋葉図書館」シリーズの第3弾が本書『森谷明子「星合う夜の失せもの探し 秋葉図書館の四季」(東京創元社)』です。

あらすじと注目ポイント

収録は

「良夜」
「事始」
「聖樹」
「春嵐」
「星合」
「人日」

の六話。

第一話の「良夜」は秋葉図書館の底地の寄付者である、地元の大地主・秋葉家の一族・秋葉健一の元奥さんの茉莉さんのお話。彼女は、健一と離婚して、息子の佐由留と暮らしていたのですが、息子が学校のクラブの合宿で留守の間、ネットサーフィンをしていると、秋葉市で、以前なじみになっていたブックカフェの女主人の突然の訃報をみつけます。

あわてて弔問に秋葉市を訪れた茉莉だったのですが。亡くなった女主人が借りたままになっていた秋葉図書館のアガサ・クリスティのミステリ本の返却を頼まれ、図書館で出向くのですが、そこで、ブックカフェで飼われたいた猫にそっくりなきつね色の毛並みの猫をみつけます。

実は、亡くなった女主人は生前に遺書を残していたらしいのですがそれが見当たらなくなっていて、彼女が店のスタッフによく「私に何かあったら猫を見てね」と言っていたらしいのですが、その猫と遺言書が何か関連しているのでは・・という展開です。

謎解きの鍵は、図書館から借りていた「ヘラクレスの冒険」の中にあったのですが、茉莉が本を返却するついでに読むことになったクリスティ唯一のノンフィクション「春にして君を離れ」が、彼女の人生にある示唆を与えてくれることになります。

第二話の「事始」は第一話ででてきた茉莉さんの元旦那さん「秋葉健一」さんのお話です。茉莉さんと離婚後、住んでいたマンションを母子に渡し、自分は実家に戻ることにした彼はひさびさに故郷の図書館を訪れ、息子の佐由留が台風のときに避難させてもらったお礼をいいにやってきています。このあたりは、多忙なビジネスマンの典型らしい彼の性格描写がされています。

そして、実家に寄った彼は父親と「山芋」採りに山へ入ったのですが、そこで幼い頃、山の中に足をくじいて一晩迷子になるい、従兄のお嫁さんだった「道子さん」という女性に発見され、その夜がその女性と山の中の作業小屋で一晩明かし救出された、という記憶がよみがえります。

その記憶の中に、夜目を覚ました時に、近くに誰もおらず一人っきりにされていた時があったような記憶も蘇り・・という筋立てです。この話の裏にある男女の逢引きを、秋葉図書館の司書・能勢が解くのですが、その話を元妻の茉莉にした際、彼女が読んでいた「風と共に去りぬ」の、サブキャストの「メラニー」を理想の女性と言ったことから茉莉さんが怒りはじめ、といった展開です。

「風と共に去りぬ」は映画のワンシーンぐらいしか記憶にないのですが、茉莉さんの怒りの原因を知るには、健一さん動揺、原書を読むしかないようですね。

三話目の「聖樹」はおばあさんを自転車でひき逃げした、という疑いをかけられ、小学校でイジメを受けている男の子・光彦の危機を同級生の男の子・平野進が救う話。その男の子が図書館の閲覧席で、「つるにょうぼう」の絵本を広げて、読むでもなく眺めているところから、光彦の悩みに気づくわけなのですが、光彦を救うために、進のとった手段とは本当はあまり褒められることではなくて・・という展開です。

このほか、高校生が先輩から借りた「桃尻版枕草子」から、オークションに出されていたアンティーク人形を盗んだ犯人を見つけたことから、秘密にしていた恋とそれによって一人の老人が偶然に事故死してしまった経緯が明らかになる「春嵐」や秋葉家の孫・佐由留が天体観察で実家の秋葉の家に泊ったことから、曾祖母が大事にしまっていた鍵のかかった文箱に封じられた秘密がこぼれ出てくる「星合」、そして、秋葉図書館建設秘話が語られる「人日」が収録されています。

レビュアーの一言

今巻の6つの話では、前二作で謎を呼び込んでくる「日野さん」や、茫洋とした風貌にもかかわらず的確に謎を解き明かす「能勢」といったこのシリーズのホームズ・ワトソン役は、メインで目立つことなく、それぞれの話の登場人物をアシストする枠役を務めていて、そこが「番外編」といわれる由縁なのでしょう。

ただ、ほんわかとしたこのシリーズの特徴はしっかりと健在なので、「花野に眠る」や「れんげ野原のまん中で」が好きなコージー・ミステリ・ファンならきっと気に入ると思いますよ。

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