戊辰戦争の戦禍は残る。「会津」と「津川」の違いが悲しい。 ー 佐々大河「ふしぎの国のバード 3」(ビームコミックス)

第3巻では、会津の大内宿を経た、阿賀野川と常浪川の合流点にあって「雁木」の発祥の地である「津川」から阿賀野川を船で下って新潟へと向かう旅が描かれる。


イザベラが日本を旅した1878年は、幕末の戊辰戦争の一つであった「会津戦争」が起きた1868年から10年を経過した頃なのだが、戦禍による荒廃と新政府への恨みがまだ残っていた「会津」から、江戸時代は天領で、当時は開港地の一つとして栄えていた「新潟」へと至る道中もだんだんと明るい感じになっていくのが、新政府によってもたらされた、当時の格差を感じさせられますね。もっとも、「会津の悲哀」は当時だけでなく、東日本大震災後の原発事故でも見え隠れしていたのかもしれませんが。

【構成と注目ポイント】

構成は

第10話 会津道③
第11話 津川
第12話 阿賀野川
第13話 マリーズとパークス
第14話 新潟

となっていて、会津道の貧しい様子は会津の町に入ってからも継続する。江戸時代はま松平家の領地で、かなり年貢は高かったようだが、漆器などの伝統工芸が盛んなところであったのだが、戊辰戦争の影響が残っている。当時の農民が駆り出され、戦死したり負傷したり、村や作物が焼かれ、女性たちは陵辱された記憶はまだ色濃く残っていて、イザベラの荷物を運んでくれる馬子の甚兵衛の

といったところには、明治維新というのが、江戸幕府が明治新政府に政権移譲したという単純な話ではなく、また京都や江戸だけで起きた歴史的な事実でもなく、日本全体を巻き込んだ「内乱」であったことを教えてくれる。
ただ、自殺や逃散が続いても

とし、

と将来を展望する彼の姿に、焼け跡から復活した「日本人」の姿がオーバーラップするのである。

さて、「津川」の町や「阿賀野川くだり」へ進んで物語の景色は「明るく」なる。もとは会津若松と同じ「会津藩」の領地で、水陸の交通結節点で会津藩の重要な閃絡拠点であったらしいのだが、会津戦争の戦禍はここまで及ばなかったのですかね?、詳しい方がおられたら、教えてくださいな。

さらには、「お菓子づくり」の盛んな土地柄らしく、甘い物に目がない「伊藤」は「帯輪」、「黄菜粉ねじり」、「吹き飴細工」、「花林糖」「落雁」「しんこ細工」などなどを見て狂喜乱舞である。とりわけ、次の日の昼食代わりに食する、もち米を捏ねた新粉で味噌などを包んだ「笹団子」はとても美味しそうですな。

阿賀野川下りでは、女性に人気の船頭が登場するのだが、彼がいちゃついている場面よりも、舟の上で手を叩くのは縁起が悪い、とか、蛇や猿は忌み言葉であるとか、当時の船上での禁忌が興味ぶかいし、新潟で宣教師の娘ルースと街なかで住民たちに取り囲まるシーンで、西欧人の宣教師は「信者の目立をくり抜いて軟膏の材料」にする」であるとか「家にしまってあるお金を神通力で消せる」といった噂があるあたりは、明治政府がキリスト教の禁教を正式に解いた明治32年(1899年)までの我が国の宗教事情を垣間見せてくれますね。

そして、今巻で「伊藤」の前の雇い主であった、プラントハンターのチャールズ・マリーズが登場する。詳しくは次巻のレビューで紹介したいのだが、彼とパークス公使が激しいやりとりをするところで、イザベラ・バードを評して、

といったあたりには、「大英帝国」がなぜあれほど巨大で堅牢な支配を継続できたのか、という秘密が隠れているような気がしますね。ある意味、森薫さんの「乙嫁語り」にでてくる写真家の「スミス」の中央アジア旅行に共通することなのでしょうか。

【レビュアーから一言】

このシリーズでは、バリバリのイギリス人淑女が主人公のせいか、漬物は臭いものであるとか、イザベラはなにかと肉やバターが食べたいと言うなど、日本料理はあまり良い扱いをうけていない。
ただ、「津川」で日本料理の悪口をいうイザベラに対して、「伊藤」が調理して出した「鼈甲豆腐」は昆布と鰹節でとった出汁に、ちぎった寒天を加えて、砂糖、塩、醤油、山椒を加え、あらかじめ豆腐を入れておいた型の中に裏漉ししながら注いで固めたもので

といった出来具合のもの。

マンガ食堂の『「ふしぎの国のバード」(佐々大河)の鼈甲豆腐ほか』に再現料理がのってますが、上品なものでありますね。こうした料理も失われたものの一つかもしれんですね。

Bitly

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