悩み尽きない新任マネージャーへ「羅針盤」を進呈しよう ー 中原淳「駆け出しマネジャーの成長論」

会社や官庁に入って働いていて、新任のころは五里霧中の中で仕事を覚えるのに精いっぱいでも、数年経過して組織の中で年数を経ていくと、気になってくるのが「昇進」というもので、その一番目の段階が、課長という役職で象徴される「マネジャー」職である。

ただ、いざマネジャーになってみると本書で

これまでの成果を認められ「論功行賞」としてマネジャーに昇進したはいいものの、何をやったらよいかについては、誰も教えてくれない。

といった状況にとまどいを感じている新任マネジャーも多いだろう。しかも、マネジャーとなれば、上司のムチも厳しくなるし、部下からの突き上げもあると悩みばかりが大きくなばかり・・・。そんな悩めるマネジャーの方々に向けて、「働き方」について数々の研究成果と著作のある筆者がアドバイスするのが『中原淳「駆け出しマネジャーの成長論 7つの挑戦課題を「科学」する(中公新書ラクレ)』である。

【構成と注目ポイント】

構成は

プロローグー駆け出しマネージャーの皆さんへ
第1章 マネジャーとは何か
第2章 マネシャーからの移行期を襲う5つの環境変化
第3章 マネジャーになった日ー揺れる感情、7つの挑戦課題
第4章 成果を挙げるため、何を為すべきかーリフレクションとアクション・テイキング
第5章 マネジャーの躍進のため、会社・組織にできること
第6章 <座談会>生の声で語られる「マネジャーの現実」

となっていて、第1章から第2章が、マネージャーの総論と環境、第3章と第4章がマネージャーがぶつかる課題と解決策、第5章が、マネージャー以外の上司や経営陣がマネージャー育成のためにすべきこと、といった構成になっているので、著者のおススメの読み方とは違うとは思うが、自分のポジションに応じて、チョイスして読むのもよいのでは。

まず前提として、マネージャというものの位置づけを確認しておかないといけないのだが、本書では、『「他者を通じて物事を成し遂げること」がマネジャーの本質』で『「自分のタスクを追ってきた人」「自分が動いてきた人」が、マネジャー候補になって「自ら動かないこと」を求められている』となっていて、マネジャー論というと「リーダー論」と混同してしまう例がよくあるのだが、あくまでも本書は「マネジメントをする人」へのアドバイスだ、と捉えてておかないと読み違ってしまう。さらには、プレイング・マネジャーとしてのスキルアップや効率を上げるハウツー本でもないところは注意しておかないといけないところだろう。

で、その前提にたって、今回はマネジャーになった人向けの課題と対処法にフォーカスしてレビューすると、まず新米マネジャーが乗り越えないといけないのは

①部下育成
②目標咀嚼
③政治交渉
④多様な人材活用
⑤意思決定
⑥マインド維持
⑦プレマネバランス(プレイヤーとマネジャーとのバランス取り)

となっていて、その中の、いくつか課題と解決法をレビューしてみよう。

まずは、当方からみて、まず一番にぶつかって悩みが大きいと思われるのが②「目標咀嚼」。これは会社の決めた目標を部下に説明し、部下に仕事を割り振り、成果をあげる、といったことなのだが、プレイヤーであれば自分が納得いかなければ不満を漏らしたり、サボったりと、まあいろんな対応方法もあるのだが、マネジャー・課長職となると、会社の方向性に従った動きをせざるをえず、ストレスが一番溜まるところだろう。

この課題について、本書では

マネジャーの役割は「翻訳機」なのです、マネジャーは「がらんどう」のパイプをつくるのではなく、情報を加工し、翻訳を行わなければなりません、上から会社が伝えてきた情報を加工・翻訳し、下に自分の言葉でわかりやすく伝える、

ということを第一番に挙げていて、ステロタイプな企業モノのドラマでよく見るように、役員や部長の言うことをそのまま部下に押し付ける上司にになっちゃいけません、ということですね。
さらに加えて「ポジティブ・ストーリーが大事」とされているので、部下が持ち上げてくることにまず「いちゃもん」を付ける課長になっちゃいけません、ということだろう。

次に難しいと思われるが、④「多様な人材活用」で、これは、外国人、高齢者、OB活用、パート・派遣さんなどなど働く人材が多様化している中で、いかに皆を納得させ、協力的でない部下を「コントロールできるか」というところ。
これについては、例えば、特に扱いの難しい、自分より年長の部下への対処法の一例をあげると

年長者に指示するときに「権力を有する上司」と「権力に従う部下」という関係で接するのではなく、「立場・役割上、指示をする」と「立場・役割上、指示を受ける人」という考え方を常に念頭に置き、指示を出すこと。・・・いくら「人生の先輩」であったとしても、「ご理解いただけない」場合には「気持ちはわかるけど、自分としては、立場上、こう言わざるをえない」とするのです。そのことに戸惑う必要はありません。なぜなら、この部分を「曲げて」相手に迎合してしまうと、「年長者の言いたい放題」になってしまい、さらにはその悪影響は職場に蔓延します。

ということなので、ここはしっかり肝に銘じておきましょう。特に一番遠慮しがちになって、年長者に気をつかったばかりに、若い部下たちにはそっぽを向かれ、かといって年長者が感謝してくれるわけでもない、ということがおきがちなので、ご注意を。当方も十数年の管理職経験の中で、一番扱いに悩んだのがこれで、経験があってプライドも高い年配職員の扱いに一番苦労したのですが、本書のように「言うべきことはパチッと言う」ってのが一番、王道だったような気がします。余談ながら、武田信玄亡き後、武田家を継いだ「武田勝頼」の悩みも案外こんなところが主だったのでは、と思ってみたりします。
(余談ながら武田勝頼や武田家の盛衰は、本ブログでもレビューしている「信長のシェフ」や「センゴク」あたりが面白いので興味がある人は読んでみてください。)

このほかの5つの課題についても正面からとらえて対処法が提案されていて、筆者の他の本と同じで丁寧な作り方がされています。全部をネタバレするわけにもいかないので、これから先は原書のほうで確認を。

【レビュアーからひと言】

職場を取り巻く環境が激変を続け、さらには思うように進展していかない「働き方改革」など、中堅として会社を支えるミドルの「マネジャー層」の悩みは尽きない、といったところが現在の企業社会の現状だろう。そんなマネジャーたちの悩みの解決には本書の最初のほうで言われているような「やってみて、失敗して、敬虔から学ぶしかないよ」という部分が無きにしも非ずなのだが、それで、こうしたアドバイスや、本書の最後のほうに掲載されている「経験談」は貴重な羅針盤になることは間違いない。悩める新任マネージャーにおすすめしておきます。


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