【車椅子の「スラムダンク」】車椅子バスケにかける若者たちの物語=井上雄彦「リアル」1〜4

バスケットボールといえば、2021年開催の東京オリンピックでは、日本代表チームの男子は11位に終わったものの女子が銀メダルという輝かしい戦績を残し、アメリカのプロバスケ・リーグのNBAでも田臥勇太、渡邉雄太、八村塁などの選手が活躍していて、これからパリ・オリンピックに向けて注目の人気スポーツです。
当然、漫画の世界でも数々の名作が生まれているのですが、今回ご紹介するのが、「スラムダンク」の作者・井上雄彦さんによる、車椅子バスケットの世界を描いた異色のバスケ漫画「リアル」です。

この物語の主人公となるのは「野宮朋美」「戸川清春」「高橋久信」という若者三人です。

三人を簡単に紹介しておくと

「野宮朋美」はそこそこの強豪校・西高のバスケットボール部に所属していたのですが、素行不良で高校を自主退学後、バイク事故でナンパした少女・山下夏美に大怪我を負わせています。居場所と生きていく方向が見つからない彼は、戸川や高橋と関わりながら物語を進めていく、トリックスター的な役柄です。

「戸川清春」は、このシリーズのいわば主役。陸上の短距離で将来を期待されるスプリンターだったのですが、骨肉腫の手術で下肢を切除し、車椅子生活となりながらもスポーツの夢が忘れられず、車椅子バスケを始めたという設定です。

「高橋久信」は、野宮と西高で同窓のバスケット部員。勉強もでき、スポーツもでき、バスケットでもずっとレギュラーというイケメン・アスリートなのですが、コンビニで自転車を乗り逃げし、持ち主から逃げようと車道へ飛び出したところでトラックに衝突し、下半身麻痺の事故を負うことになります。意識を取り戻してから、二度と立てないショックで荒んでいく、という設定です。

この三人を軸に、それぞれの両親や、戸川の幼馴染の安住、戸川の属する車椅子バスケ・チーム「タイガース」のメンバーなどが脇役を固めて物語が進行していきます。

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あらすじと注目ポイント

第1巻 3人の若者の「車椅子バスケ」物語スタート

冒頭は、西高の体育館の中で一人、車椅子バスケのトレーニングを続ける戸川の姿から始まります。そこに訪れたのが、西高を自主退学して居場所のない野宮で、彼は戸川にバスケの勝負を挑むのですが、適当にあしらわれたのが二人の出会いです。
この後、西高に戸川とペアになって殴り込んだ野宮が、バスケット部の新キャプテンとなった高橋に勝負を挑み、体育館の早朝の利用権を勝ち取って以前の感覚を取り戻したところで、賭けバスケを始めるのですが、そこである人物に出会ったことで、真剣に車椅子バスケに取り組むこととなるのですが・・といった展開です。

一方、高橋のほうは後半のところで、盗んだ自転車で持ち主から逃げようとして、自動車事故に巻き込まれています。

第2巻 戸川の夢は短距離のスプリンターだった

第2巻の冒頭では、第1巻の最後で能力差を実感っせられた「ナガイミツル」に追いつくため、喧嘩別れした旧チームの「タイガース」へ復帰しようとする戸川なのですが、しばらくゲームから遠ざかり、実戦感とスタミナを失っていることは否定できないですね。

一方、事故で大怪我を負った高橋は、自らの下肢が動かないことがまだ受け入れられずにいます。このシリーズでは、高橋とその家族が障害をどう受け入れて、再出発していくかが、一つのテーマになっているのでここはしっかり読んでおきましょう。

高橋の姿と呼応するように、戸川の少年時代が描かれています。父親が叶わなかったピアニストになる夢を託されながらも、短距離のスプリンターとして才能を発揮し、父親の期待を裏切ることとなった戸川少年。そして戸川少年の夢が無惨にも骨肉腫によって打ち砕かれる姿が哀しいです。

第3巻 戸川、野宮、高橋、三人の主人公のそれぞれの「泥沼」

第3巻の前半部では、強敵ドリームスとの練習試合で、勝負は二の次のチームメイトと対立する「戸川」、自分とバイクに同乗して事故り、下肢が不自由になった夏美のリハビリ姿を見て、自分のやったことを後悔する「野宮」、見舞いにやってきたかつてのチームメイトとの「差」に衝撃を受ける「高橋」と、このシリーズの主人公三人のそれぞれの「袋小路」が描かれています。

中でも高橋の心理状態は最悪で、それから脱却するために、幼い頃に離婚し、今は別居している父親との再会を望むのですが、いざ再会してみると、自分と庭で「1on1」をしてくれた凛々しい父親の姿は一変していて、さらに悪化することとなってしまいます。

そうした中で、高橋は夏美のリハビリ姿で一念発起した「野宮」に、スパルタ的な激励を受け、かつてバスケの道に誘ってくれたコーチと会い、ようやく「障害」を受けれられるようになっているようです。

第4巻 戸川を車椅子バスケに呼び込んだ「男たち」

第4巻の冒頭では、強豪チーム「ドリームス」との破れた後、自主練習をする戸川だったのですが、そこへ一部のチームメイトが集まってきます。どうやら戸川の「熱」がうつったらしく、車椅子バスケの関東大会で再び「タイガース」と対戦するのですが、その勝敗は、というところですね。
しかし、この動きはタイガース内の意見対立を助長したようで、チームは四分五裂することとなってしまいます。

ただ、戸川には、思ってもみない朗報が届きます。車椅子バスケの日本代表チームの候補選手に選ばれることとなり、彼のアスリート人生が大きく変わっていくことになります。

ここで、場面は彼の回想部分に移ります。
骨肉腫によって下肢を切断し、短距離陸上のスプリンターの夢を絶たれ、途方にくれていた戸川がどうして「車椅子バスケ」に夢をつなぎなおすことができたか、が語られます。
それは筋ジスを発症しながら、車椅子バスケチーム「タイガース」を立て直した「山内」と「タイガース」を創設した片足の刺青師「勝田虎」との出会いなのですが、その詳細は原書のほうで。

レビュアーの一言

「リアル」は平成11年(1999年)にスタートして、2020年に第90話まで収録した単行本の15巻がリリースされているのですが、24年間で、未だに完結していないというシリーズです。
このシリーズが開始した頃、1996年のアトランタパラリンピックでは8位だった日本代表チームが2021年の東京パラリンピックでは強豪国アメリカに破れたものの銀メダルとなっていて、この間のアスリートや関係者の奮闘を感じますね。

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