アイデアのネタはどこにある? ー 小山薫堂「幸せの仕事術」

「おくりびと」などのヒット作をてがけた脚本家である小山薫堂氏による「アイデア」「地域おこし」に関する著作が、本書『小山薫堂「幸せの仕事術ーつまらない日常を特別な記念日に還る発想法」(NHK出版)』

【構成は】

序章 つまらない日常を特別な記念日に
第1章 企画の原点は人を幸せにすること
第2章 アイデアのネタは日常の中にある
第3章 「共感」が社会を動かす
第4章 最終目標は人生を楽しくすること

となっていて、第1章、第2章が仕事術・企画術、第3章が地域おこし論、第4章が半生を振り返っての人生の企画術という内容である。

【注目ポイント】

脚本家だけでなく、放送作家、事業プランナー、ラジオ・パーソナリティ、小説家と多くの仕事の幅をもつ筆者の仕事術は、本書だけでも、「おぅ」と感心するところ多数なんであるが、今回は、「アイデアだし」と「地域おこし」のところの注目ポイントをレビューしておこう。

◯アイデアを出すコツは「日常生活」にある

多くのヒット作を生み出した筆者なので、企画とかアイデアだしも奇天烈なのかというとそんなことはなくて

例えば

「企画」と言うと何か難しそうに聞こえるかもしれません。けれども、「企画」を「工夫」という言葉に置き換えてみるとどうでしょうか。
(略)
このように日常の中には、少し見方を変えるだけで、あるいは工夫しだいでよりよい生活が送れたり、自らも楽しめるタネがたくさん転がっているんですね(P28)

といったところや

「企画とはサービスである。サービスとは思いやりである」と言っているように、やはり、いかに人に尽くすか、人を喜ばせるかという、その一点に尽きるような気がします(P43)

といったあたりには、「企画」と言う言葉を聞いた途端に、肩のあたりに力が入ってしまうのを牽制するとともに、企画の原点というものを教えてくれている。「企画」というと特別なものを思いがちな意識は変えないといけないんでしょうな。

また

アイデアを生み出したいのならば、まずは「アイデアのタネ」をたくさん見つけてストックしておくことが大事なのです。
(略)
いいアイデアを出すためには、生身の人間とたくさん出会ったり、いろいろ経験したりすることが大事なのです。日常生活をどう過ごし、何をタネとして拾えるのか、そこに尽きると思うんです(P67)

といったところには、「日常性」の大事さというか、いいアイデアというのは、けして日常生活と全く無縁のところにあるのではなくて、むしろ、その延長線上にあるということを気付かせてくれる。

さらには

世の中を見渡してきても、いままでになかったような「新しいもの」というのは、実は「既知」と「既知」を組み合わせることによって生まれているんですよね。いくらまったくのオリジナルをつくろうと思っても、だいたいはすでに生まれているのではないかと思いますし、もっと言えば、自分が「これはおもしろい」「新しい」と思ったものほど疑ったほうがいい。
だとしたら、そこで悩むよりも、すでにあるもの同士を結びつけて、「化学反応」を起こしたほうがラクでもあり、それこそ、いままでになかった新しいものが生まれる可能性があるのではないかと思うのです。(P94)

といったところには、とかく「アイデアを生み出す」となると新規さにこだわって、蛸ツボに入り込んでしまいがちな我々への戒めでもあって、自分の「オリジナリティ」といっても今までの人生や経験から無縁に、天から降ってくるものではないんだから、まず生活を大事にしなさい、と忠告されているようである。

◯地域おこしのコツは「自分の地元を好きになること」

筆者は熊本県の大人気キャラ・くまもんを地元の人たちと育てあげたのだが、その際の、地域おこしの関わり方が独特で

僕は最近、観光客誘致というものにやや懐疑的なんですよ。
あらゆる地域がとにかく外から人を呼べば幸せになるだろうと「うちはいいとこだから、おいでおいで」と言っている。その割に、地元の人たちは、その「いいもの」をさほど満喫していないような印象を受けます。
(略)
観光をひとつの理由にして、みんなが自分の地元を好きになれるようなキャンペーンを展開するのが、一番幸せなことではないかと思ったんですよね。

といったところは、最近の観光一辺倒の「地域おこし」への警告でもあって、確かに「地域おこし」の原点は、地元が自分の地域を誇りに思うことだよね、と思い至る。
なので、その方策も

まず熊本県民が、自分たちの身近にあるものに目を向けて、いままで見過ごしてきたもののよさに改めて気づく必要があるわけです。それをほかの人に味わってもらう前に自分たちが味わい楽しめばいい。結果的に、それが自分たちの暮らしを豊かにするんです

というように、まずは地元の意識改革が大事というスタンス。このあたりは、地域振興に携わっている身としては同感で、ともすれば行政主導でやられるイベントやキャンペーンが地元住民の価値観と乖離した「木に竹を接いだ」ものになることはよくある。
さらに、誘致型のイベントの常として「一過性に終わらないように」などと地元の議員や識者が言われるのも常なんであるが、まず地元がしっかり楽しめる雰囲気作りが出来てますか、といったことを逆に問わないといけないことも多い。

【まとめ】

なうての脚本家による「仕事術」の本、という感じで読み始めたのだが、気負うところの少ない、すーっと入ってくるような、アイデア論、地域起こし論、そして人生を面白く企画する方法論である。
肩肘張ってのアイデア出しに疲れている時には、オススメですよ。

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