ハラマキは学生時代の恩人を逮捕できるか? ー 吉川英梨「氷血」

「昨今、急増するストーカー犯罪やDV被害に苦しむ女性を救うため」という名目で警視庁に新設されてはいるのだが、実は女性が絡む事件であればどんなものでも首を突っ込むという「女性犯罪捜査班」を舞台に、「ハラマキ」こと「原麻希」警部補が活躍する、『警視庁「女性犯罪」捜査班 警部補・原麻希』シリーズの第4弾。

今巻では、女性犯罪捜査班の属する警視庁を離れ、ハラマキの故郷である「北海道」での事件解決となる。しかし、そのために、彼女が警察官を志すこととなった「恩人」との不幸な再会と過去の思い出の清算が必要となる。

【構成と注目ポイント】

構成は

プロローグ
第一章 発光
第二章 越境捜査
第三章 刀狩
第四章 逮捕状
第五章 掃除屋
第六章 救済
第七章 再会
エピローグ

となっていて、まずは「ハラマキ」と彼女の夫・則夫、長女菜月親子が麻希の故郷である旭川に帰省するところからスタート。
則夫は麻希とは20歳近く年齢も離れていて、麻希の父母と年齢も同じぐらいなのと、麻希の父親も工務店の親父さんののりで乱暴にしゃべってくるので居心地は良くない。このため、そうそうに旭川の実家への宿泊を切り上げて、札幌への観光旅行に変更するのだが、とかく事件い遭遇しやすい麻希だけあって、札幌の心霊スポットめぐりをしている夜、市内の藻内公園の花魁淵というところで若い女がスーツケースにのった状態で死んでいるのを発見する。ただ、発見した際に、死体は池の中で凍りついていたのだが、橋の上の欄干から投棄された様子であることを観察する麻希の刑事魂はさすがである。

死体発見後、第一発見者ということで取調べは受けても、麻希が警視庁の現職警官であるのと、則夫の退職前の「警視」という役職が効果があって丁寧な扱いをされる。しかし、この裏に、北海道警の本部長はじめ本庁からきているキャリア組から、道警のノンキャリたちの不正を暴く密命が警察庁じきじきに下されるきっかけにもなるのが、「組織』という存在のエゲツナイところですね。

さて、今回の事件で死んでいた女性・青坂茉菜は警視庁の女性犯罪捜査班にDV被害の相談にきていて、「残念なイケメン」鍋島が相談を受けていたことが判明。その後、札幌に帰って今回の被害にあったという筋立てである。

北海道での彼女の対応をしていたのは、瀧という警察官で、プロローグのところで、青坂茉菜と男女の関係にあったことは読者には明らかなのだが、彼は以前は銃刀討器室のちゃんとした警官であったのだが、道警の銃刀器の不祥事で、薬物中毒になっていて道警の中でも持て余し者になっている。しかし、どういうわけが上層部は彼を処分したりしようとせず、放っておくよう指示を出しているという設定ですね。読者のほうはこのへんで上層部のからむ組織的な犯罪が隠されていると推察できると思います。

ただ、彼は麻希が学生時代、実家で兄弟の世話を押し付けられて、不満をためた末にグレかけていたときに、相談に親身にのって、彼女の東京への大学進学先で親の説得をしたりしてくれた、いわば兄貴分の恩人。さらに彼からは卒業したら道警に入れと進められてもおり、いわば、麻希が警察官となった動機はこのあたりにあるという間柄であるので、話がややこしくなってますね。

事件捜査ののほうは、道警に捜査本部が立ち上げられるのだが、刑事部と生活安全部との対立がある上に、キャリアとノンキャリとの対立もひどく、協調して捜査ができる状態にはない。原因は、銃刀法改正による銃の摘発に関連して、以前、おおがかりな密輸事件に警察関係者が関係していたことが明らかになったこととそれの関連して道警の警察官が自殺したという事件の余波が続いているということであるらしく、捜査本部に参画した麻希にも捜査に入ってくるなと心理的な忘我がされるのですが、まあ、従うようなタマではありません。

一方、瀧は捜査本部に警視庁から合流してきた鍋島をはめて、監禁。しかも、彼が青坂茉菜殺しを自白したような映像を作成し、彼を犯人に仕立て上げようと画策し、さらには、麻希や則夫も彼の犯罪を隠蔽しようとしたという疑惑をでっちあげ、捜査本部から追放することに成功します。

さて、捜査本部から追放された麻希が独自捜査で鍋島の監禁場所をつきとめることができるのか、さらには鍋島を殺して犯人にでっちあげようとする瀧の犯行を阻止できるのか、といった展開ですが、詳細は原書のほうで。

読みどころとしては、麻希に親身になって世話を焼いてくれた瀧が本当に堕落してしまったのか、そして、彼を裏から操る道警の大物は誰なのか、といったところですね。

物語の最後のほうの、麻希と瀧のやりとりと、彼女が東京へ進学するときのエピソードが感動的で泣かせます。

【レビュアーから一言】

罪を着せられた上に、監禁されて行方不明になった鍋島を心配して、警視庁女性犯罪捜査班の夢美巡査が、自費で東京から羽田にやってくるというおまけ話が起きる上に、救出された鍋島からのあるひと言で彼女が舞い上がってしまうというエピソードが挿入されているので、夢美ファンは期待して読んでください。次巻あたりでひょっとするとひょっとするかもしれません。

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