長期間レベルの高い仕事をするコツは「こち亀」にあり ー 秋本治「秋本治の仕事術」

漫画家の半生記や雑誌のコラムとかをみても、連載を抱えていいる漫画家のアイデアだしのストレスは相当なものであるし、人気商売の最たるものであるから、その浮き沈みも激しい世界であることは誰しも承知のことであろう。
そんな漫画家の世界で、40年間にわたって、安定的な人気を保ち続け、さらには長期にわたる休載とかもなく安定的に作品を発表し続けるというな並大抵のことではない。
そんな稀有なことを淡々と成し遂げている筆者が、安定的な仕事のコツや、精神面も含めた健康管理のコツを教えてくれるのが『秋本治「秋本治の仕事術 『こち亀』作者が40年間休まず週刊連載を続けられた理由」(集英社)』である。

【構成と注目ポイント】

構成は

第1章 セルフマネジメント術
第2章 時間術
第3章 コミュニケーション術
第4章 発想術
第5章 健康術
第6章 未来術
描き下ろし漫画「両津勘吉の仕事術」

となっていて、まず第一に長期間安定的に作品を出してこれたのは「目の前にあることをこなし、ひとつひとつ積み重ねること」で、「深く考えない鈍感な性格が幸いして、今日まで楽しくやってこられたのだと思ってます」といったあたりには、筆者の正直な人柄が表れているようで好ましいのだが、こうした地味でコツコツとした仕事の進め方は、昼夜逆転が当たり前であったり、アイデアが降りてくるまで仕事はしない、といった漫画家という仕事から予測されるものとは違っていて、

集中力が切れるのは、ひとつの仕事が終わったとき、それが怖いので僕は終わった次の日から、すぐ次の仕事をはじめるようにしています。
(略)
何事もなかったかのように、変化なくずっと続ける。これこそが集中力を持続させるコツなのかもしれません。

といったところは、芸術家というより、「職人」の仕事ぶりに近い感じですね。

そうしたところは「時間管理」の面でいえていて

連載の仕事をしている漫画家は、ただ〆切に間に合うようにとキツキツで仕事をしていると、いつまでたっても時間的な余裕を持つことはできません。自分から積極的に時間を生み位打差にといけないのです。これはマンガ家だけではなく、様々仕事に共通していえることだと思います。

僕のように、読み切りを描くために連載マンガを描く時間を詰めているというと、真面目にやっていないのかと疑われてしまうかもしれません。
でも、決してそうではありません。単純にいうと、無駄な時間を省いていけば、誰でも時間はかなり詰められるのです。

といったところをみると、ビジネス書の時間管理本や、仕事の効率化本は、ホワイトカラーの職場だけでなく、デザインであるとかプランニングの仕事でも十分活用可能なのだな、と思わせる。そしてそれは、「アイデアを出す」というクリエイティブな仕事に特徴的なところでも

使い道が定まっていない除法の蓄積も大事だと思っています。僕が情報蓄積のために昔から行っている方法は、雑誌や新聞の切り抜き。切り抜き記事をペタペタ貼ったファイルは、相当な量になっています。

ネームというのはマンガの下書き。叩き台のようなものです。0から1を生み出すマンガの作業にとって、非常に重要な段階ではありますが、この段階であまり正確にやろうとこだわりすぎるのもどうかと思います。

ということで、漫画というアップダウンの多い世界で安定したレベルの作品を出していくということは、けして一発屋的な仕事のスタイルではなく、むしろ地道な作業を重ねる「一歩一歩歩みを進める」ような仕事が基礎にあるのだな、と感じさせます。

このほか、コミュニケーションや健康管理のあたりも、漫画家らしからぬ「安定さ」にあふれるアドバイスが出ているので、コンスタントにレベルの高い仕事をしていこうと思っている人は、職種によらず、また「こち亀」ファンでなくとも目を通しておいて損はないと思います。

【レビュアーからひと言】

「こち亀」といえは、両さんほかの登場人物の破天荒な行動や、時代風俗やガジェットやプラモデルなどの流行を即座に取り入れた漫画でもあったのだが、「亀有」を中心とした「東京下町」ブームの生みの親でもある。「こち亀」以外にも、同じ筆者の「両さんと歩く下町 ―「こち亀」の扉絵で綴る東京情景 (集英社新書) 」あたりも読んでみてはいかがであろうか。

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