老中・井伊直弼が桜田門外で暗殺された安政7年に紀州(和歌山県)から江戸勤番のために上京し、単身赴任をしている紀州藩士・酒井伴四郎の食生活を中心とした幕末武士の生活が描かれるのは『土山しげる「勤番グルメ ブシメシ!」(SPコミックス)』。
このお侍さんの話はNHK出版でも『青木直己「幕末単身赴任 下級武士の食日記」』というものが出ているので、そのコミカライズといったところなのだが、出てくる料理が。土山しげる氏の絵で表現されているで、活字で読むよりイメージが伝わりやすい感じがします。
【構成と注目ポイント】
構成は
- 湯豆腐と田楽
- 鶏鍋と鮪の刺身
- 蛤鍋と鯖の塩物
- 登城見物と鮓
- 御鷹の鳩と泥鰌
- 蕎麦と穴子の甘煮
- 鯵の干物と炊き立て飯
- 鰹のたたき
- 南京汁と胡椒飯
- 異人と釜焼玉子
- グルメ放談「土山亭」 土山しげる✕久住昌之
- 描き下ろし あられ蕎麦
となっていて、料理の上手な主人公・坂井伴四郎の生活が、その食生活を中心に描かれているものなので、筋立て的には、大きな山場とかがあるものではないのですが、食い意地が張っていて、甥の伴四郎が昼飯のおかずにしようと思っていた佃煮や、干物を勝手に食したりする叔父の宇治田平三をはじめとする勤番武士仲間との、長屋での食事や江戸市中での外食や買い食いの様子が、なんとも「ほんわか」として、江戸らしい駘蕩とした雰囲気を醸し出しています。
というのも勤番武士というものは、江戸家老や勘定役といったよほどの役職に就いていなければ、数日に一度の殿様の登城の随行といった事以外は、決まった仕事はないらしく、興味の中心は江戸市中で何を食うかとか、日々の食事に何を食うか、といったことで、「食」に対する情熱が半端ないのです。
例えば、当時「下魚」であった「鮪」の赤みどころか、脂身のところを店に無理いってだしてもらい炙って食って、「脂がいい具合に流れて炙った部分が香ばしく、口に入れるとすぐ溶けて、うまい」と大満足したり
非番の日に日本橋まででかけて、「ぜひうまい物をくうぞ」と意気込んだのだが、頼んだかしわ鍋の鶏肉が傷んでいたり、耳慣れない「すいとん」を頼んで といった目にあったりといった感じです。
もちろん、当時は安価で食せた美味であったかもしれないが、現在では珍味の部類に入っている「泥鰌の丸煮」であるとか
当時の高級料理であったに違いない、料理番付で「前頭」に位置づけらている王子の扇谷の「釜焼玉子」など思わず注文したくなるような料理もでてくるのでご安心ください。
【レビュアーから一言】
江戸の頃から、「食」に対する情熱は変わらなかったのだな、と思わせる一冊です。
さらに、新たに江戸へ出府となった同僚を江戸市中の見物に連れて行った際の昼食に蕎麦屋に入って
と、いうあたりは昔から「故郷びいき」というところも変わらないのだな、と思わせます。
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