若竹七海「暗い海流」-羽村晶は探偵の職を失い、古書店のバイトになる

若竹七海

小さな探偵事務所・長谷川調査探偵調査所の、アラサーのフリーランス調査員・葉村晶が持ち込まれる揉め事を解きほぐしていくうちに、隠されていた黒い秘密まで引きずり出してしまう女性私立探偵もの「葉村晶シリーズ」が含まれた短編集

収録されているのは5話なのですが、そのうち「蠅男」と「道楽者の金庫」の2話が「葉村晶」シリーズです。この中で、晶は今まで籍をおいていた「長谷川探偵調査所」が突然の廃業をしたため、本当の「フリーター」状態になってます。

【収録と注文ポイント】

収録は

「蠅男」
「暗い越流」
「幸せの家」
「狂酔」
「道楽者の金庫」

の五篇です。

まず第一話の「蠅男」は、第3弾「悪いうさぎ」でアラサーだった葉村晶も37歳となっている。長谷川探偵調査所のフリー調査員の契約はまだ継続しているようですね。

今回、晶のもとにもちこまれたのは、すでに亡くなっている祖父の家に置きっぱなしになっている、母親の遺骨をとってきてもらいたい、というもの。依頼者の女性「本宮波瑠」は心臓が悪いということであるし、彼女の兄は足を怪我していて遠出ができない、ということなのだが、調べてみると彼女の祖父というのは霊能者を自称していた人物で、その家も、いわゆる心霊スポットで有名なところで・・・という展開です。

しぶしぶその家へでかけた晶が遭遇したのは、彼女の「恋人」であった男性の死体。さらに、骨壷を捜索中に、晶は激しい頭痛と吐き気に突如襲われ、家を出たところで意識を失ってしまいます。この家にはなにかの「呪い」がかかっているのか・・・、と思わせぶりの筋立てですね。

第二話の「暗い海流」は、出版社の編集者に、死刑の判決を受けてい受刑者・磯崎保の弁護士から、その受刑者宛にファンレターが届いているのだがどうしたものか、という相談が持ち込まれてくる話。

この受刑者というのは、五人の人を殺した殺人犯なのですが、その彼に「山本優子」という女性からの手紙が届いくのですが、この女性は、磯崎の集団殺人から逃れることのできた被害者の一人の恋人で、同じ頃に行方不明になった女性と同じ氏名で住所、というのが判明して・・・、という筋立てです。

第三話の「幸せの家」では、人気の高いライフスタイル雑誌「Cozy Life」の編集者・美浦節子が失踪した上に、自宅マンションで墜落死されているのが発見されます。
次号の誌面づくりに奔走する主人公なのですが、取材や雑誌の編集スタッフとの折衝を続けるうちに、彼女がスタッフや雑誌投稿者の弱みを握って、原稿料や委託費をキックバックさせていたことに気づきます

彼女が死んだ原因も事故ではなく、脅迫を受けていた人物による殺人では、という疑惑を抱き調査を続けた末、投稿者の予測していなかった犯罪が・・・、という展開。
この犯罪が明らかになった後、この話の語りての「わたし」の意外な真実に驚くことでしょう

第四話の「狂酔」のこの話し手の語り手の男性は、幼い頃、誘拐された経験をもっているのですが、この原因が。高校教師をしていた父親と教え子との不倫が陰にあります。

その後、父親は自殺してしまうのですが、この父親と関係をもって子供を妊娠したために、その女性とその子はそこを追い出されてしまいます。しかし、その孤児院のシスターを慕い、再び孤児院に受け入れられるために何度もトライするのですが、そのシスターは頑として受け入れようとしません。この女性が死んだ後、その子は彼女の望みを叶えるために、再び誘拐事件を起こし・・・という展開です。

この孤児院で何かあるときに、出されるボランティアのカレーが曲者ですね。うかうかと読んでいるうちに、「はっ」と恐ろしさに気づく仕上がりになってます。

最終話の「道楽者の金庫」では長谷川探偵調査所のフリーの調査員をしていた葉村晶が、事務所の閉鎖に伴って職を失い、ミステリ専門古書店のバイト店員として雇われることになります。

書店員になったとはいえ、単に店番だけでなく、旧家に所蔵されている本のの買取や、古書店のせどりなど、あくせく働かせられているのは「探偵」時代と変わりません。

そして、今回の仕事は、都内の大地主の家の主が急死したのですが、その家にある金庫の鍵を記した「こけし」を福島にある別荘まで取りにいってくれというもの。もちろん、これだけでなく地主の家や別荘に収蔵されている「ミステリー」の古書をごっそり買い取ることができる、という特典もあってのことですが、「何かをとりにいってれ」という依頼は第一話のときと同じく、なにかトラブルを巻き起こすことは間違いなく、別荘では突然倒れてきた書棚で負傷した上、気絶したまま放置されていたり、金庫を何者かに開けられてしまい、あやうく依頼をしくじりそうになったり、といった事態に陥ります。

まあ、最後のところで依頼人に関係した秘密が暴かれるのは、いつもの「葉村晶」シリーズと同じなのですが、今回の秘密は、死んだ大地主の若い頃の秘密ですが、ヒントが晶と古書店主の富山とかとの会話の中に忍び込ませてあるので、注意して読んでおいてくださいね。

【レビュアーからひと言】

葉村晶シリーズのデビューは彼女が29歳の頃かと思うのですが、彼女も40歳を超え、長谷川探偵調査所も廃業するなど、彼女の身の回りにも変化の波が押し寄せてきています。第一作のあたりでは、嫌がっていた「携帯電話」も、今でも「スマホ」を必需品のようにしているあたりも時代の変化というものなのでしょう。

暗い越流 (光文社文庫)
凶悪な死刑囚に届いたファンレター。差出人は何者かを調べ始めた「私」だが、そ&...

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