若竹七海「依頼人は死んだ」ー葉村晶の担当事件の裏には濃紺の悪魔がいる

若竹七海

小さな私立探偵調査事務所の、アラサーのフリーランス調査員・葉村晶が、探偵事務所や知り合いから持ち込まれる相談事の真相究明をするのだが、彼女が調査を始まると、その相談事も、最初に見せる様相とは違う、黒くて苦い真実を隠していて、という女性私立探偵ものの第2弾。
第1弾の「プレゼント」で、あやうく殺されかけた彼女ですが、今牧から正式に、長谷川探偵調査事務所の調査員として雇われるのですが、彼女が受け持つ事件はどれもこれも一皮剥くと何かがでてくるものばかりです。

【収録と注目ポイント】

収録は

「濃紺の悪魔」
「詩人の死」
「たぶん、暑かったから」
「鉄格子の女」
「アヴェ・マリア」
「依頼人は死んだ」
「女探偵の夏休み」
「わたしの調査に手加減はない」
「都合のいい地獄」

となっていて、いくつか中身をレビューすると、まず第一話の「濃紺の悪魔」で、晶が引き受けるのは、花屋からケーキ屋まで15以上の店を経営し、雑誌エッセイの連載や講演会の依頼もひっきりなしという、人気の女性実業家・松島詩織の依頼です。

依頼の内容は、松島詩織本人の「警護」。しかし、引き受けた途端、彼女に向けて、車が突っ込んでくるわ、嫌がらせの電話やFAXはひっきりなしに届くし(書かれたのが2000年の初頭なのでメール爆弾やネットリンチはないですね)、ついには探偵事務所の同僚で今回の警備の相棒を務める「城都」も詩織を襲うという思ってもみない事態が次々おきてきます。

そして、なんと、彼女の命を狙うよう依頼したのは彼女自身だ、と「城都」の発言から、詩織を問い詰めると、彼女は一見の居酒屋で、首に青黒いあざのある男に「300万で死なせてあげようか」と持ちかけられ、その提案を受けた、というのですが・・・、という展開です。詩織を襲う人物たちが、すべて誰かの催眠にかけられて犯行に及んでいるようなところは最終話につながるので覚えておいてくださいね。

結局、詩織は青あざの男に妄想にとりつかれ、精神に異常をきたしているのだとして、叔父によって病院へ連れて行かれるのですが、その途中で車の前に飛び出し重症をおってしまいます。そして、入院先の病院へ晶が見舞いにいった先で出くわしたのは・・・、という筋立てです。

第三話の「たぶん、暑かったから」は、一流会社のOLが上司をドライバーで刺して怪我をさせる事件が起きるのだが、その母親から娘の無実を晴らしてくれと依頼される話。

この事件はマスコミでは、被害者に片思いしていた加害者が逆上しての犯行などと面白おかしく書かれているのだが、晶は、加害者が正義感の強い女性であったことから、被害者のほうに何か良からぬことが隠されているのでは、と思い、被害者が専務の娘を脅していたことをつきとめる。そして、晶は加害者に犯行の真因をつげるのだが、実はそんな正義感ではなくて・・・、という展開です。母と娘の「業」みたいなものがなんともうすら寒くなりますな。

第6話の表題作「依頼人は死んだ」では、晶の学生時代の友人・幸田カエデの友人「佐藤まどか」から、彼女のもとに保健所から届いた受診していないガン検診に基づく「ガンの検査結果通知」が届きます。。その真相をつきとめてくれないかと依頼されているうちに、
「まどか」は睡眠薬を酒に混ぜて飲んで死んでしまうのですね。。

てっきり、ガン通知に悲観して自殺したと思われたのですが、彼女に多額の保険金がかけられており、さらに絵画などの財産もあることから、他殺ではないかと調べ始めます。そして、「まどか」の死が他殺であることつきとめるのですが、その犯人は、遺産の受取人の義理の祖母の近くにいる・・・という筋立てです。

晶が、真犯人のトリックを崩していくところが絶品なのですが、その決め手となるのが、ガンの検査結果通知を出した保健所の課長さんの「岸本滋」という名前ですが、ネタ割れのほうは本書で。

最終話の「都合のいい地獄」は、第五話で、晶の親友を殺したが、その動機も殺した事実も忘れてしまっていた水谷潔が自殺します。
彼の自殺の原因と妻殺しの理由を再度調べていた晶の前に、第一話の松島香織が殺人を依頼した「青黒いあざの男」が再登場します。今度は、「晶」の周辺に現れて、「水谷潔が妻・水谷麻梨子を殺した理由」と晶と親しい人物の「安全」とどちらかを選べと言いがかり的な無理難題をもちかけてきます。

「晶」は「安全」の方を選び水谷麻梨子が殺された理由は失われてしまうのかと思われたところで、その男は自分の自殺と「殺された理由」のどちらを選ぶ?と最後の選択を迫ってくるのですが・・・、という展開ですね。

【レビュアーから一言】

本巻は、表題作も読み応えがあるのですが、最終話の「都合のいい地獄」があるせいで、単なる葉村晶が依頼人からの相談事に隠されている真実を暴いていくという「オムニバス・ストーリー」と思わせておいて、実は「青黒いあざ」のある男が仕組んだ犯罪を晶が追っていく話なのかも、といった妄想も感じさせるつくりとなっています

そして、最終話の最後のくだりのところがまた意表をついていて、さて「青黒いあざの男」とは何だったのか、読者の推理を最後まで休ませない一冊に仕上がってます。

依頼人は死んだ (文春文庫)
女探偵・葉村晶(あきら)は探偵事務所からの仕事で生計をたてながら、時に家族&...

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