若竹七海「不穏な眠り」ーハムラアキラ勤務の本屋が事件を引き寄せる

2020年1月にシシドカフカ主演でTVドラマ化された、「世界でもっとも不運な探偵」として、本人も周囲も気づかないうちに、周りにトラブルの数々と犯罪の謎解きを招き寄せてしまう、フリーランスの私立探偵・葉村晶シリーズの第8弾が『若竹七海「錆びた滑車」』です。

前巻で、住み慣れたシェアハウスが建て替えとなったため引っ越ししなくてはならなくなり、家賃と探偵稼業と本屋のアルバイトの両立という観点から、「MURDER BEAR BOOKSHOP」に付属する「白熊探偵社」のおsフィスに住み着くこととなった「葉村晶」の書店員兼探偵の毎日が描かれます。

【収録と注目ポイント】

収録は

「水沫隠れの日々」
「新春のラビリンス」
「逃げ出した時刻表」
「不穏な眠り」

となっていて、第一話の「水沫隠れの日々」では、肺がんのため半年の余命宣告を受けた「サツキ」という女性から、終活のため、蔵書の出張買取を頼まれるところからスタート。

「MURDER BEAR BOOKSHOP」のアルバイト店員になってから、ミステリフェアとか蔵書の処分を発端する探偵仕事がほとんどになってきてますね。
探偵仕事のほうは、彼女が若い頃ルームメイトとして共同生活をしていた女性の娘・遙香を迎えに行き、自分の家へ連れ帰ってくれというもの。その女性・二佐子とは、数年の同居生活の末、大喧嘩して絶縁状態になっていたのですが、二佐子が若死した後、遙香をひきとって育てていたのですが、遙香はグレてしまい家出。その後、相手の男を焼死させて刑務所に服役していたのですが、近く出所する、ということですね。
単に、刑務所から出所してくる遙香を車に乗せ、連れてくるだけの仕事なので楽勝ー、と思いきや、黒づくめの男たちに遙香が拉致されそうになるなど、数々の揉めごとが降りかかります。どうやら、遙香が焼死させた男がヤバい仕事に関わっていたようで・・・、という展開ですね。
話のほうは、この「黒づくめ」たちからの逃亡劇が繰り広げられてハラハラするのですが、遙香が狙われた理由がわかると、ちょっと拍子抜けするでのでが、カタルシスは遙香を連れ帰った後の起こるので最後まで機を抜かないようにね。

第二話の「新春のラビリンス」は、いつも探偵仕事の下請けを回してもらっている「東都総合リサーチ」から回ってきた仕事なのですが探偵ではなく、幽霊がでるという噂のあるビルの夜間警備です。警備自体は、幽霊に出会うこともなく終わるのですが、その警備の依頼元に勤務する事務の女性から、彼女の婚約者の捜索を頼まれるところから今回の探偵仕事がはじまります。
この捜索自体も楽勝の仕事だったのですが、その人の従姉妹が廃ビルから絞殺体で発見されたところから一挙に事件となってきます。この従姉妹は、変わり者の芸術家で、あっと驚くようなところで自分のヌードを撮影して話題をとっていた、というのと、このビルに和製バンクシーみたいな噂があったあたりが謎解きのヒントです。

第三話は「MURDER BEAR BOOKSHOP」で開催される「鉄道ミステリ・フェア」での盗難事件です。そのフェアでは非売品の展示品として、昔の人気作家が愛人の女性に狙撃された時の彼の肩を貫いた後、貫通した本の現物が展示されていて、フェアの目玉になってます。
ところがフェアで展示を始めてから3日後、晶が店番にやってくると何者かに襲われ昏倒させられて、その本が盗まれてしまいます。
そして、近くの防犯カメラで逃走する犯人を確認すると、なんと、犯人は、その本の持ち主の孫であることが判明し・・・、という展開です。盗んだ犯人がわかっても、本の行方があちこち変転し、さらにこの本の意外な秘密が最後にボロリとでてきて・・という筋立てです。

第四話の表題作「不穏な眠り」は、晶が引っ越してくる前のシェアハウスの近くに済んでいたご近所さんからの依頼。そのご近所さんの女性は、従妹が遺した家を相続し管理していたのだが、その管理をまかせていた人物が勝手に、女性を住まわせていたことが判明する。さらに、その女性がシャワールームで変死していたという事件が過去に起きたとのこと。そして、今回、隣家にその土地を売るので家を解体することになったのだが、家の中から、その変死した女性原田宏香の遺品が発見される。今回の依頼は、その遺品を、宏香の縁者をさがして渡して欲しい、というもの。
聞くだに面倒くさそうな依頼なのですが、調査を進めるにつれ、土地を買おうとしている隣家の妻が精神に変調を来していて包丁で襲われたり、宏香の出身の青梅の山奥にいくと、そこの土地「俄楽山」は「災いの山」と呼ばれる曰く付きのところで・・・といった感じで展開していきます。最後のほうは、俄楽山につくられたニュータウンをまきこむ大がかりな因縁話になっていきますね。

【レビュアーから一言】

書店員兼探偵という職業がすっかり定着したのか、蔵書の終活や死亡後の遺品整理から、探偵仕事に発展するのが多くなってきているようですね。さらには、書店で開かれるミステリーフェアも事件の舞台となったりして、「世界一不運な探偵」の話から、書店ミステリーへとシリーズが変わりつつあるのかもしれません。こうなると、次はジョン・ダニング風味の、世界一不運な「古書」ミステリーへと進んでいくのかもしれませんね。

Bitly

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