空海と最澄はアジアの最大の仏教国・唐を目指すーおかざき真里「阿・吽4・5」

阿・吽

平安時代の初期、日本の思想界に相次いで出現し、日本人の思考に大きな影響を与えるとともに、世俗の権力へも大きな権勢をふるった比叡山や高野山の基礎を築いた。「最澄」と「空海」、二人の天才を描く『おかざき真理「阿・吽」』シリーズの第4弾と第5弾。

前巻で、日本にはすでに学ぶべき経典がなくなってしまったので、唐へ渡ることを決意した最澄と空海。唐へ渡るための、当時の唯一の手段は「遣唐使」として派遣されることなのですが、その席を獲得するための二人の奮闘が描かれます。

【構成と注目ポイント】

第4巻の構成は

十八話 薬子
十九話 安殿
二十話 天台法華講話
二十一話 三重火宅
二十二話 分水嶺
二十三話 約束

となっていて、最澄と空海の遣唐使の話に入る前提として、桓武帝をはじめとした宮廷の様子から今巻はスタートします。

◇安殿親王の背後に”早良親王”の怨霊が◇

桓武帝の皇太子は息子の安殿親王なのですが、皇位をつげるような地位ではなかったところから、運をつかんで天皇となり、その後、朝廷を支配している父帝・桓武にかなりの劣等感をもっています。もっとも、今巻の描写をみると馬にも上手にのれないほど運動神経が鈍いようで、これが劣等感の直接原因でしょうね。そのため、女性との関係もうまくみてない状況だったのですが、妃の母親の藤原薬子が夫からのDVでつけられた体の痣を見て、一挙にバースト。あっというまに、薬子がお気に入りの女性になってしまいます。

このへんは、後の時代に、乳母を愛人にした足利義政と同じで、国に乱がおきる予兆なんでありましょうね。もちろん、この異様な関係に気付いた桓武帝や宮廷官僚によって、薬子は宮中から追い出されるのですが、これが安殿親王の怒りと恨みをかうことになります。そしてその憎悪が自分にむけられていることを知った桓武は、自分を呪う弟・早良親王の怨霊を感じ、と、「怨霊の都」として始まった「京都」の闇の深さを思わせる展開となってます。

◇最澄は南都の仏僧たちと対峙する◇

で、こんな宮廷内の揉め事と同じように、奈良の仏教界もそれぞれの宗派が主導権をめぐって揉め事の最中です。この争いをなくするため、桓武帝が最澄に「遣唐使」として唐へ派遣することを餌に、南都の南都の仏僧たちに仏教を講義して、宗教論争を決着させるということになります。

もっとも、これはけして南都の僧侶たちが最澄を評価してのことではなく、目の上のたんこぶ状態の彼をみんなの前で論破して恥をかかせてやろう、という企みですね。その企みは、最澄の講話の席にきていた空海のある行動によってぶち壊されてしまうのですが、詳細については原書のほうでご確認を。空海の行動が乱暴ながらも爽快であるのはネタバレしておきます。

◇遣唐使の席は誰が射止める?◇

ところが、南都で講話をする条件としていた最澄の渡唐は、桓武帝の要請であっさりキャンセル。最澄はボーゼンという状態に。
一方で、空海のほうは、渡唐をするために、傍若無人に準備を進めていきます。今まで勤操や伯父の阿刀大足がいくら進めてもうんと言わなかった「得度」の準備を始めますし、唐にわたるための資金捻出も、藤原の一族で大富豪の「藤原喜嬢」の支援をとりつけて、着々と進めていきます。

遣唐使として唐に渡るのは空海かな、と思わせるのですが、ここで、安殿親王が大どんでん返しを仕掛けるのですが、さて、その結末については、原書のほうで。少しネタバレすると、安殿親王の動機は、自分が薬子と引き離された悲しみを、父の桓武帝にも味合わせてやれ、というもので、どんだけ父親が難いんやねん、というところです。

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続く第5巻の構成は

二十四話 双黄記
二十五話 再生
二十六話 別離
二十七話 セッション
二十八話 赤岸鎮
二十九話 へんげくうかい
となっていて、遣唐使の選からもれた「空海」がどうやって挽回するのか、というのが第5巻の前半部分の読みどころです。

◇空海は山中で最澄に救われる◇

もちろん、精神的にタフな空海でも、今回の落選はかなりのショックで、勤操の僧房を飛び出し、行方不明となってしまいます。飛び出した先は、深い山の中で、そこで彼は野獣と同じ精神レベルまで落ち込んでしまうこととなりますね。

この危機を救うのが最澄です。彼は空間を超えて、空海に粥を与え、彼を正気に戻すことに成功します。ただ、この時点では、最澄は空海の存在を全く覚えていないので、ここは水銀の里の「ニウツ」の導きによるところが大きいですね。

◇空海は遣唐使の道を手に入れる◇

そして、人里へ生還した空海は、ここで奇跡的な幸運を引き寄せます。すでに都を出発していた遣唐使船のうちの一隻が瀬戸内海で座礁したため、その船で安全祈願のために乗船していた僧侶の交代要員が急遽必要となったのです。この好機に、空海は海運業をしている実の父親の力を借りて、最澄たち遣唐使本隊に合流、晴れて唐へ向かって出発することとなります。

◇船は福州へ漂着。ここでのトラブル脱出に、空海の才能炸裂◇

ところがここでトラブルをまた引き寄せてしまうのが、空海らしいところで、嵐に巻き込まれて船は漂着。目的地からかなり離れた福州(現在の中国・福建省)の赤岸府というところに流れ着いてしまいます。

さらに、この地を治める豪族である藩鎮は揉め事を恐れて、福州長官に取り次ぐのを渋ったり、ようやく取り次いでもらった福州長官・閻済美は空海だけは自分の手元に残しておこうとしたり、と数々の障害にぶつかります。

それを切り抜けたのは、空海の「書」の才能で・・という展開で、空海の書く「書」の特異な性質が明らかになるのですが、詳しくは原書で。

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【レビュアーからひと言】

遣唐使に参加するための資金援助を、藤原喜嬢からとりつける際は、「唐語」で会話することで彼女の心を開いたり、遣唐使船が福州へ漂着した際は、「書」に記した文章で、藩鎮や福州長官が心のうちに隠しているものを引きずり出して、こちらの要望をのませたり、と「理詰め」で進めていく最澄に対し、「精神性」「心理」的な部分に分け入っていくことが空海の特徴のようです。

このあたりが、これからの二人の思想活動に、どういった違いを生み出していくのか楽しみなところでありますね。

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