空海はさらに人気者となり、最澄の前には藤原冬嗣が立ちはだかるー『おかざき真里「阿・吽」10~12』

平安時代の初期、日本の思想界に相次いで出現し、日本人の思考に大きな影響を与えるとともに、世俗の権力へも大きな権勢をふるった比叡山や高野山の基礎を築いた。「最澄」と「空海」、二人の天才を描く『おかざき真理「阿・吽」』シリーズの第10弾から第12弾。
前巻までで唐から密教を持ち帰り、橘逸勢のツテもあって、嵯峨帝の宮廷で羽振りを利かせはじめた空海と、勉強熱心な生真面目さと空気を読まないせいで南都仏教から目の敵にされていた最澄なのですが、だんだんと二人の宗教的な地位が上がっていきます。しかし、ここで、宗教勢力が力を伸ばすのを快く思わない藤原一族のエース・冬嗣が登場するのがこの10巻から12巻のところです。

【構成と注目ポイント】

第10巻の構成は

54話 東大寺別当
55話 裏泰範
56話 ふたりの姫
57話 御遺言
58話 犀の角
59話 乙訓寺の一夜

となっていて、最澄が南都の寺から独立する動きが目立ってきたのが目障りになった、南都仏教の有力者たちは、その対抗策として、空海を東大寺の別当(長官)として朝廷に任命してもらいます。

今の感覚でいうと、アメリカ留学を短期で切り上げて、最新科学技術と設備を持ち帰ってきた若造が、突然、文部科学大臣に任命されるようなイメージでしょうか。もちろん、南都仏教の僧侶たちが好意でやるはずもなく、実績のない空海を陰で操ろうという魂胆ですね。ただ、この策は裏目にでて、法力の実力で上回る空海は、祈祷の席で彼らを圧倒して、簡単に屈服させてしまいます。

さらに、橘逸勢の縁を通じて皇后である橘嘉智子の信頼を得、

また水銀精製の民のシンボル・ニウツとも良好な関係を継続しているので、嵯峨帝の分とあわせると、人の世と自然界を動かす大きな力の首ねっこを押さえているということで、ここらへんが真面目で不器用な最澄との違いですね。

一方、最澄の方は、泰範がどんどん、その存在感を増していきます。最澄が修行をしている際は、べったりと随伴する状態で、最澄のほうも彼を後継者として考え始めています。ひょっとすると「恋愛関係」にあったんじゃね、と邪推してしまうぐらいなのですが、ここで泰範が逃亡。最澄はしっかり振られてしまいます。

そこで最澄の採った手は、彼の反対勢力の急先鋒である「興福寺」に乗り込んで真っ向から勝負を挑むのですが・・・、という展開です。

そして、この巻で、最澄のほうから空海にアッと驚く申し出がされるのですが、ここは原書のほうでご確認を。これを言い出したきっかけは、今のところ当方には見当がつきません。どなたかの解釈をお願いしたいところです。

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第11巻の構成は

60話 四賢臣
61話 弟子
62話 金剛界結縁灌頂
63話 降雪
64話 胎蔵界結縁灌頂

となっていて、最初の第60話は、嵯峨帝の近臣の良岑安世、藤原三守、伴国道、藤原冬嗣の登場ですが、中でも異彩を放つのは、藤原北家の代表。冬嗣ですね。

菓子を二皿奨め、一方には毒を仕込んでおくなど、文化に造詣の深い貴公子の風情を見せながら、国家を不安定化する恐れのある者を未然に排除していく冷酷さも見せています。彼の息子の良房の養子・基経が、『灰原薬「応天の門」』シリーズでは菅原の道真の運命に大きな影響を及ぼしてくるんですよね。

で、本筋のほうの空海と最澄のほうは、最澄からの申し出により、空海が師となった灌頂を授けることになります。実は、最澄は唐でも密教の灌頂を受けているのですが、どうやらあれは初心者編のようで、空海は本格的に最澄に自分が唐から受け継いできた密教を伝授しようとしているようです。

この灌頂の準備には経典を用意したり、仏具を製作したりと本来はかなりの日数が必要なものなのですが、どういうわけか空海は、かなりあせって灌頂の儀式を始めます。そのわけは、ニウツの

という言葉が解き明かしているようなのですが、詳しいところは原書で確認してもらったほうがいいですね。空海が幼い頃から願っていたことが、最澄という卓越した存在に出会い、彼を後継者とすることで、ようやく成就する、ということのようです。

しかし、それは空海のほうの事情。最澄には、天台の教えを広めるという彼の目的もあり、空海の思うようにはいきません。

どうやら、空海は最澄という人物の大きさを過小に認識していたようで、灌頂をした際に彼の存在感の巨大さに改めて気づいて驚くこととなります。この灌頂によって、どちらかというと生真面目な印象だけが強い最澄に隠されていた本来の「パワー」が表に噴出してきたようで、このへんは12巻で冬嗣との面談のところで描かれています。

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第12巻の構成は

65話 藤原冬嗣
66話 さんどう
67話 宮中金光明会
68話 興福寺南円堂
69話 相撲節会

となっていて、今巻から、政治権力側の有力人物として藤原冬嗣をクローズアップされてきます。彼は、前巻で坂上田村麻呂を暗殺しているほか、多くの貴族たちの恨みをかっているらしく、刺客に狙われているという状況ですが、これを気にせずに暮らしているのがこの男の凄さですね。

ここの暗殺をしかけられるシーンで、四賢臣の一人の皇族の良岑安世から「兄上」と呼び掛けられるのですが、実は冬嗣は彼とは母親が同じ異父兄弟(良岑安世の父親は桓武帝)で、幼い頃は兄弟のように暮らしていた、という設定のようですね。

そして、最澄からの天台宗への戒壇院作成の陳情を聞くため、かれを呼び寄せるのですが、ここで空海による灌頂で、いままでの人のいい最澄から大きく変化した様子を感じて、彼を警戒し始めます。明らかに、平城京の時、朝廷も食い尽く勢いであった南都仏教の姿を最澄に見ているようですね。

そして、正月に行われる「宮中金光明会」という国家の平安を祈る仏教行事で出現した「妖し」を鎮め、集まった仏僧や帝に存在感をアピールします。これを見た冬嗣は

と独り言を言うのですが、彼としては国家を揺るがす強力な仏教勢力が動き始めたことを実感したのでしょう。空海に対して興福寺南円堂の建築を命じるなど、「最澄」封じとも思える動きを始めます。そして、最澄に輸入したての経典を贈り、彼の筑紫国行きを快く了解するのですが、なにか魂胆がありそうです。

本巻では、次巻以降、このシリーズで重要な役割を演じそうな、冬嗣の息子・良房や、嵯峨帝の正妃・橘嘉智子の子供・正良、正子も登場するのでチェックしておきましょう。

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【レビュアーからひと言】

第11巻あたりから、空海や最澄へ影響力を行使する藤原冬嗣がこのシリーズでは、貴公子然としているが実は殺人も辞さない冷酷な人物のように描かれているのですが、通説のほうではあまり悪い奴扱いはされていなくて、むしろ温厚な文化芸術に理解のある人物という評価がされていて、本書中の女官たちの評判と同じです。この四賢臣にしても皇族、藤原氏の北・南・式の三家、古来からの有力豪族であった(大)伴氏、という構成ですので、冬嗣が権力宥和に心を砕いていた証でもあるのかもしれません。
ただ、筆者の目線は、その後、藤原北家が他の勢力を拝して実権を独占していった史実から、冬嗣の「底流」に流れているものを見抜いているではないでしょうか。

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