幕末の歴史を、薩摩の西郷隆盛や長州の桂小五郎といった倒幕勢力や土佐の坂本龍馬といった維新志士たちの対抗勢力として、必殺の剛剣をふるって、京都の街を血で染め「浅葱色の狼」として恐れられた新選組の近藤勇や土方歳三、沖田総司の姿を描いた「アサギロ」シリーズの第20弾から第22弾。
前巻までで、浪士組のトップとして君臨していた芹沢鴨を討伐し、組織の名称も会津公から拝領した「新選組」に改め、組織体制も一新した近藤勇や土方歳三たちだったのですが、隊内の統制強化のために様々な手を打っていくのですが、その苛烈さに少し「きしみ」が見え始めてきます。さらに、谷三十郎が近藤勇の養子になり、その許嫁候補の「岩田コウ」も登場するなど、新メンバーの参画が多いタームとなります。
構成と注目ポイント
第20巻 新入隊士は、新選組の「血の掟」の苛烈さを思い知る
第20巻の構成は
第120話 父斬りの男
第121話 入隊
第122話 小手調べ
第123話 禁則
第124話 後ろ傷
第125話 帰郷
となっていて、まず、前巻で桂小五郎によって新選組内に潜り込まされている密偵・御倉と荒木田二人を逆に使って、永倉が桂に接触し逆スパイとなることを企画したのですが、桂小五郎の馴染みの勤王芸妓・幾松によって見破られ、長州の志士たちに座敷を取り囲まれた後の顛末です。
永倉と桂の会談が決裂し、永倉が志士に襲われることを予測した近藤が、沖田総司を迎えに送りこむのですが、彼によって包囲している志士たちはあっけなく片付けられることとなります。
最近まで、「人を斬る」ということに普通の人間と同じく怯えのようなものを残していたのですが、芹沢鴨を斬ったことによって、別の人格になったかのような変化が訪れています。
この後、長州のスパイであった、御倉と荒木田も永倉や斎藤一たちによって、始末されてしまいます。このあたりを見ると、京都がすでに「内戦」状態であることがよくわかりますね。このスパイ騒動の発端となった芹沢鴨暗殺の犯人密告の投げ文が誰の仕業だったのかの種明かしも同時にされているのですが、そこは原書のほうで。
第121話の「入隊」以降は、隊名も拝領して、会津藩の名実ともに「お預かり」となった新選組へ様々な新入隊員がやってきます。例えば、末弟の谷周助が近藤勇の養子となった、松山藩の近習番上がりの谷三十郎・万太郎兄弟や
甲州流軍学を修めていて、五番隊の組長を務め、軍師として活躍するが、御陵衛士問題で近藤と対立し、除隊後に暗殺された武田観柳斎(「るろうに剣心」でも同名の人物が出てきますが、たぶん、新選組の”武田”がモチーフではないかと私は勝手に思ってます)、
あるいは優れた記憶力と文筆の才能から、隊士の動向調査や情報探索を行う「監察」として隊内に睨みをきかせた「山崎丞」であるとか、
試衛館メンバーや浪士組メンバーとはちょっと毛色の異なる隊士の思惑と入隊後の活躍とその後の様子が描かれています。
ただ、新入隊士の中には、新選組の「血の掟」である「局中法度」の厳しさを甘くみて入隊してくる者もかなりいたようで、見回り中に市中に潜んでいた不審者が背中を斬りつけられた咎で切腹させられた隊士・松崎静馬とか、新選組の隊服に憧れて入隊したものの、規律と訓練の厳しさに耐えかねて脱走した大阪の廻船問屋の三男坊・富岡善三郎の処刑など、新選組の「掟」の苛烈さを改めて確認する展開となってます。
第21巻 山崎烝は愛次郎探索に乗り出し、谷千三郎は近藤勇の養子になる
第21巻の構成は
第126話 忠孝仁義
第127話 捜索
第128話 生き死に
第129話 谷の奇策
第130話 縁談
第131話 人事葛藤
第132話 最期の務め
となっていて、今巻はまずは、近藤たちによって粛清された水戸派の最後の生き残り・野口健司の最期が描かれます。
芹沢鴨暗殺の際には、酒席でのアドバイスに従って廓に居残り、生命を拾った彼だったのですが、その後は居場所をなくしていたようです。ただ、特段の落ち度のない彼に「切腹」をいいわたす土方と近藤の様子を見ると、新選組の内部統制というのも、キレイな理屈だけではなかったことがわかります。
続いて描かれるのは、監察の役目をしている山崎烝が、第15巻で中国人娘・宇春を芹沢の配下で長州の間者だった佐伯又三郎から守って死んだはずの佐々木愛次郎の行方を探すよう、土方から命令され、東奔西走することとなります。
(佐々木愛次郎が恋人・宇春を守って斃れた顛末は「浪士組は芹沢鴨たち水戸派の支配にーヒラマツ・ミノル「アサギロ」13〜15」でレビューしています)
土方は、彼の師匠である松原が佐々木の死んだ証を持ち帰らずに隊に復帰したことに不審を抱いての命令のようですが、その根底には、局中法度ができた後に新選組を脱走した隊士たちが京都や大阪に隠れていることから、隊内の秩序を維持し続けるという別の理由もあるように思います。このあたりは、巻の後半で、京都や大阪に燻っている元隊士たちを調べ上げ、無理やり新選組の屯所へ連れていき、「法度」違反を理由に次々と切腹させていくシーンに現れているのではないでしょうか。
そして、愛次郎が死んでいた時の様子を隊士に聞いたり、愛次郎が埋葬されたという寺の住職に遺体の様子の聞き込みを続けているうちに、符合しないことがあちこちではじめ、再捜査を始めるのでしたが・・という展開です。
もうひとつの物語は、同じく前巻で入隊した谷三十郎の末弟・周助が近藤勇の「養子」となっていく経緯です。出世欲と名門(といっても松山藩の近習番という禄高の低い陪臣なのですが)意識の強い谷三十郎は、次弟の谷万太郎が槍術指南に取り立てられたり、同期入隊の武田観柳斎が軍師として登用され、隊内の地位をあげていくのが面白くなく、自らの出世をためのある策を講じます。それが末弟の千三郎を近藤勇の養子とすること。さらに、彼が松山藩主のご落胤という話まででっちあげてきます。普通なら、「なんだかなー」となるところですが、これに食いついたのが土方歳三です。彼は、近藤勇を将来大名に出世させたときの箔付けになるなら、何でも利用してやろうという腹ですね。
一番迷惑を被ったのは、谷千三郎こと周平で、彼は体格も小さく、武術のほうはからっきしなので、天然理心流の跡継ぎになるのには「怯え」以外ないのですが、沖田総司の手ほどきでなにか道筋がみえてきたようです。
第22巻 近藤周平の許嫁・岩田コウ、新選組屯所で働く
第22巻の構成は
第133話 面
第134話 土佐者
第135話 勤王党の目論見
第136話 養女
第137話 訪問者
第138話 ほんの挨拶
となっていて、愛次郎探索を続けていた山崎烝が、それらしい人物を発見し取り押さえようとするのですが、意外に剣の遣い手で、危うく逆に斬られそうになるところを、通りかかった沖田総司が助け出します。
この「愛次郎」まがいの人物は、近藤や沖田たち浪士組が上洛したときに、京都から出張ってきて、浪士組の面々を斬ろうとした一団の先頭にたっていた「岡田以蔵」。彼は、その時と同じように、沖田総司に圧倒されて刀を捨て、捕らえられてしまいます。
以蔵はこの後、土佐藩に引き渡され、土佐の執政・吉田東洋暗殺の黒幕が武市半平太である、という立証をするための後藤象二郎が主導する拷問に近い取り調べを受けることとなるのですが、権力者たちの様々な思惑に利用されっぱなしの「以蔵」がなんか哀れですねー。
新選組のほうでは、近藤勇の養子となった周平に「嫁取り」の話が持ち上がっています。このもととなったのも土方歳三のようです。
ここでも、谷三十郎の「出世欲」を見事に利用していますね。この千三郎の奥さんとして白羽の矢が立ったのが、千三郎の兄・谷万太郎の奥さんの妹である「岩田コウ」さんですね。
で、千三郎こと近藤周助の嫁となるためには、まず近藤勇の養女となり、他家へ出てそこから嫁ぐ、という面倒な段取りが必要となります。近藤勇が自分の義理の父親としてふさわしいかどうか顔合わせをしたいという彼女は、その顔合わせの際に、沖田総司と出会い、即座に養女となることに同意します。一説によると、岩田コウは、沖田総司に告白するが振られたために自殺未遂を起こした、という話も残っているようです。
まあ、本シリーズでも、このコウさんは性格の明るい美人と描かれていて、新選組の屯所でもいろんなエピソードが生まれるわけですが、詳細は原書のほうで。
レビュアーから一言
本シリーズでは新選組に捕縛された後、土佐藩に引き渡され、後藤象二郎たち土佐藩の公武合体派によって拷問・取り調べを受けたこととなっている岡田以蔵ですが、彼が厳しい取り調べに耐えきれずに白状した証言がもとで、武市半平太が指揮していた土佐勤王党の多くのメンバーが捕らえられ、勤王党崩壊の原因になったと言われています。
一方で、以蔵から多くの秘密が漏れることを恐れた武市半平太が、以蔵を毒殺しようとしたのに反発しての証言だった、という話もあります。真実は果たしてどうだったのでしょうか・・。
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